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勇者パーティのあまりもの

作者: 小寺湖絵


 魔王を討ち滅ぼした最強の勇者と、救国の聖女の結婚。


 このめでたいニュースは瞬く間に世界中に広まった。


 間違いなく今世紀最大のカップルであろう彼らの並ぶ姿を一目見る為、今このエルーシア王国には、王族貴族平民問わず大陸中から人が集まっている。


 ともに英雄である2人の婚姻式はそれはそれは盛大に行われた。


 王宮では豪華な披露宴、街では大量の美酒や食事が振る舞われ、賑やかな宴がそこかしこで開かれている。


「はぁ……綺麗だったなぁ、聖女様」


「まさか勇者様と聖女様が結ばれるだなんて、都合の良い夢を見ているようだわ…」


「どのような馴れ初めなのかしら?」


「政略結婚ではなく、魔王討伐の旅で愛をはぐくまれたと聞いたわ!」


「そうなれば良いと思っていたけれど、まさか本当に結婚なさるなんて……!」


 街中の人々が婚姻パレードの余韻に浸り、普段は早々に就寝する子供や老人たちでさえ宴に参加している。


 勇者一行の2年にわたる魔王討伐の旅──


 その伝説とも言える日々は『救国物語』という題名で書店に並び、今や世界を巻き込んだベストセラーとなっている。

 

 そのためか実際に勇者一行と会ったことのない国民たちも彼らを愛し、慈しみ、そして今日、本にも描かれなかったハッピーエンドを迎えた2人を祝福した。


 特に『救国物語』の熱狂的な読者たちは、予期せぬ公式からの供給に理性をなくし公の場でしくしく泣いている。


 それと同時に、都合の良い夢がひとつ叶ってしまったことで、もう一組のカップルが成就することも期待せずにはいられないのだ。



「もしかして…………騎士様と魔法使い様もお付き合いされているのかしら……」




「──だって、ラーレちゃん。どう?」


「馬鹿なこと言ってないで離れてくれません?」


 一方、当の本人たちは、王宮で行われるダンスパーティーの隅っこで、皆から祝福される仲間の様子をこっそり見守っていた。


 金色の髪と青い瞳をもつ背の高い男が、神殿騎士フランツ。


 純白の髪と赤い瞳をもつ小柄な少女が、魔法使いラーレである。


 不機嫌そうに本日5本目のワインを開けるラーレに対し、上機嫌のフランツはノンアルコールのカクテルを持ち乾杯のポーズをとりながら微笑んだ。


「いいの?そんなこといって。僕が離れたらラーレちゃん、一瞬でもみくちゃだと思うけど」


 フランツがにこにこしながら周囲に手を振ると、一斉に「きゃー!!」という黄色い歓声がある。


 ラーレは軽蔑の眼差しで命に危機を共にした仲間を睨むと、ワインをぐいっと胃に流し込んだ。


「ラーレ!フランツ!ここにいた!」


 自分たちを凝視する周囲の視線とかち合わないよう、うつむきながら周囲の声に耳を傾けていると、聖女と呼ぶにはあまりに元気な本日の主役の声が飛び込んでくる。


「ロルフ、リッカちゃん、おつかれー。そのドレスもかわいいねー」


 のんきなフランツの声に顔を上げると、案の定純白のドレスを見に纏った親友が新郎を引きずってこちらに駆け寄ってきた。


 その様子につい眉間の皺を緩めると、あっというまに目の前に来た聖女リッカが不思議そうに首を傾げた。


「あれ?ラーレったらご機嫌斜め?」


「なにしたんだフランツ」


「相変わらずなんで僕に聞くの?ひどくない?」


 呆れ顔でフランツを見る勇者ロルフにフランツがすかさず突っ込む。ラーレは首を横に振り、リッカの両手をそっと握った。


「おめでとうございます、リッカ。ロルフ。とても綺麗です」


「えーんありがとうラーレぇ…ラーレも世界一可愛いよぅ…結婚しよう…」


「結婚式当日にフラれたんだが…‥仕方ない、フランツ、」


「あはは、無理」


 すぐラーレに抱きつくリッカ

 リッカにだけは甘いラーレ

 淡々とボケるロルフ

 男には辛辣なフランツ


 いつもと変わらない見慣れた景色だ。

 

 しかしこれからはこんなふうに4人で話すことも少なくなっていくだろう。


 かつての仲間ということでフレンドリーに接してくれているが、ロルフはこの国の第二王子、そしてリッカは第二王子妃になる。隣でヘラヘラしているフランツも、公爵家の令息だ。


 一方でラーレはというと平民であるどころか、この国の国民ですらない。


 故郷には弟を置いてきているからエルーシアに住むこともできないし、多忙な3人と時間を合わせるのは至難だろう。


 それでも、今だけは。


「本当におめでとう、2人とも」


 ラーレは自分の表情を隠すように、震えそうになる声を我慢して親友を抱きしめた。







「───ラーレちゃん、もう遅いしそろそろ帰った方がいいんじゃない?」


 雑談もそこそこにリッカとロルフが侍従たちに連行されるのを見届けたあと、ラーレの顔をロルフが覗き込んだ。


 遅いというが、まだ時刻は夜の7時だ。相変わらずの子供扱いに若干ムッとしつつも、それも良いかもしれないと思い直す。


 田舎生まれのラーレにとって、この煌びやかな空間は少々居心地が悪い。しかもいつもにまして熱い周囲からの視線だ。


 そこかかしこにひっぱりだこのリッカとロルフに会えそうにない今、これ以上ここにいても仕方がない。

 

「………そうですね。フランツはどうするんですか」


 ふと、ラーレは登城してからずっと隣にいたフランツのことが気になった。ラーレの問いにフランツは何故か目を丸くしたが、すぐにいつもの食えない笑みに戻る。


「僕はもう少しここにいるよ。僕とお話したいかわいこちゃんもいることだし?」


「そうですか。末長くさよなら」


 なら最初から私などに構わずそうしていればよかったのに。


 内心ぼやきながら踵を返したラーレだったが、ふと思い出したように足を止める。


「そういえば」


「ん?なぁに?」


 くるりと振り返るラーレにフランツが首を傾げる。


 ラーレはコツコツと音を鳴らし再びフランツに近づくと、ヒールを履いてもなお遠い、整った顔を見上げた。


「このドレス、以前あなたが、私は赤が似合うと言ったので赤にしたのですけど。どうですか?」


 披露宴に参加するために仕方なく貯金をはたいて買ったドレスをつまむ。


 元々さほどおしゃれに気を遣うタイプでもないので特にこだわりはなかったが、いろいろと希望を聞かれている時、ふと旅の序盤、フランツに言われたことを思い出したのだった。


『ラーレちゃんって赤似合うよね』


 フランツは異性にモテるだけあって装飾品のセンスが良い。また、フランツはラーレを褒めることが滅多にないので妙に印象に残っていた。


「そ、うなんだ。似合ってるよ」


 なぜか言葉を濁しながらさりげなく後退りされたので、その分また近づくとさらに後退りされる。


 それを繰り返しているといつのまにかフランツを壁に追い詰める形になっていた。


「かわいいですか?」


 フランツは何故か前から、ラーレにかわいいと言わない。そこらの女には老若問わず鬱陶しいくらいかわいいかわいいというのにだ。


(そりゃ自分が可愛いなんて私だって一度も思ったことはないけど、ここまで私だけ言われないと屈辱だ)


 つまり普段の意趣返しである。


 フランツは貼り付けたような笑みのまましばらく硬直していたが、数秒後、観念したように言った。


「………うん。かわいいよ」


 明らかに言わせた感満載ではあるが、珍しいフランツを引き出すことができたのでラーレはしてやったりと笑った。


「どうも。…………今日は半分、それを言わせるために来たので」


 ビクッと肩を揺らしたフランツは、要件は終わったとばかりに踵を返し会場を立ち去っていく背中を、見えなくなるまで見つめ続けた。



 そして



「…………………………なんなの、もう」



 ポーカーフェイスな彼にそぐわぬ真っ赤な顔で壁によりかかり、前髪をぐしゃりと掴むのだった。









オチはないです!


 

魔法使いラーレ(16)

白髪に赤い瞳。勇者パーティに途中加入した少女。弟と一緒に魔物の森に住んでおり、近辺の村の人にはその容姿から魔族と勘違いされていた。先祖が勇者一行の魔法使いで、勇者一行に憧れを持っている。加入時は14歳で子供扱いされていたが、最近は大人び始めた。敬語だけど毒舌。聖女リッカや勇者ロルフには素直に従うが軽薄なフランツは気に食わず、当初はしょっちゅう言い合いをしていた。最近はただのじゃれあい。


神殿騎士フランツ(18)

金髪碧眼。ヘラヘラしているようで実は勇者一行唯一のブレーン。神に仕える神殿騎士のくせにやたらチャラいのでラーレにドン引きされていた。しかし夜に「女の子と遊んでくる〜」と出て行ってやることは暗殺者の始末や町の偵察だし、それをラーレに見つかってからは着いてこられて困っていた。最初は生意気な妹のように思っていたが、最近はやけに可愛く見えて大変困っている。


聖女リッカ(18)

黒髪黒目の異世界人。本名は光永立夏。3年前に召喚され、元の世界に戻るために勇者一行に加わったが、仲間のことを好きになりすぎたのでこの世界に残ることにした。推しに激似のラーレを溺愛している。


勇者ロルフ(18)

黒髪赤目の第二王子。リッカのことが好きすぎて100回告白して99回フラれている。この物語では空気だが一応チート設定。だが本人は平和主義者で今後は仲間を守る以外に力を使う予定はない。天然。



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