第7話:朝風呂のサプライズ
長い一日の仕事を終え、自宅で眠りに落ちた聖奈は、翌朝早くに目を覚ました。時計を見るとまだ6時前。外は薄明るく、静かな朝の空気が部屋に漂っている。頭の中は驚くほど静かで、悠斗の声が聞こえない。どうやら彼はまだ眠っているようだ。
「やっと静かになった…。これなら少しゆっくりできるね。」
聖奈はベッドから起き上がり、朝の時間を有効に使おうと決めた。普段は忙しくてシャワーばかりだが、今日は珍しく風呂に浸かってリフレッシュしようと思い立つ。彼女はタオルとバスローブを手に、バスルームへと向かった。
お湯を張り、ほのかにラベンダーの香りがする入浴剤を入れる。湯船に浸かると、温かいお湯が疲れた体をじんわりと癒していく。聖奈は目を閉じ、肩までお湯に浸かりながら小さく呟いた。
「ふぅ…やっぱりお風呂は最高。悠斗くんが寝てる間に済ませちゃおう。」
湯気の中でリラックスしていると、突然、頭の中で眠そうな声が響いた。
「ん…聖奈ちゃん…おはよ…って、え!? 何!? お湯!? お風呂!?」
聖奈の体がビクッと反応し、目を見開いた。悠斗が目覚めたのだ。
「ちょっと! あなた、起きたの!? もう少し寝ててよ!」
だが、悠斗の声は一瞬で眠気から大興奮に切り替わった。
「うわあああ! 聖奈ちゃん、朝風呂!? マジで!? お湯の温かさ感じるよ! やばい、めっちゃ気持ちいい! しかもなんかいい香りするし…最高すぎる!?」
「最高って何!? 私のプライバシーなんだから、勝手に楽しまないでよ! 今すぐ頭の中で目を閉じて!」
「閉じるって、無理だって! 感覚がガンガン伝わってくるもん! お湯が肩まで来てて…聖奈ちゃんの肌すべすべで…うわっ、ファンとして夢の状況だよ!」
聖奈は顔を真っ赤にして、湯船の中で体を縮こまらせた。
「夢って何!? 私が悪夢なんだけど! あなたが寝てる間に済ませるつもりだったのに…起きたら黙っててよ!」
「黙ってられないよ! 聖奈ちゃんと一緒に朝風呂なんて…俺、幸せすぎて叫びたい! 聖奈ちゃーん!って!」
「叫ばないで! 頭の中で騒ぐのやめて! 私がリラックスしたいんだから!」
聖奈はお湯をかき混ぜて音を立て、なんとか悠斗の興奮を紛らわそうとした。だが、悠斗はさらにテンションを上げてきた。
「ねえ、聖奈ちゃん、入浴剤って何使ってるの? この香り、めっちゃ好きなんだけど! あとさ、お湯の温度ちょうどいいね! 俺、聖奈ちゃんの全部知れてる感じ…!」
「全部って何!? 気持ち悪いこと言わないで!」
聖奈は湯船から立ち上がり、タオルで体を隠そうとした。すると、悠斗がまた叫んだ。
「うおっ! 聖奈ちゃん、動いた! 水がチャプチャプって…やばい、リアルすぎる! 俺、もう耐えられないよ!」
「耐えなさい! 頭の中で歌でも歌ってなさいよ! 『星屑のラビリンス』の2番!」
「またそれ!? 星屑の夜に~迷い込んで~♪って…いや、無理だよ! 聖奈ちゃんの肌が綺麗すぎて…!」
聖奈は急いでバスローブを着てバスルームを出たが、頭の中では悠斗の興奮が収まらない。
「聖奈ちゃん、朝風呂最高だったよ! 俺、こんな幸せな朝初めてだ…。」
「幸せって…私が恥ずかしくて最悪なんだけど! あなた、ほんと最低ね!」
聖奈は髪を拭きながら、鏡に映る自分を睨んだ。
「もう二度とあなたが起きてる時に風呂入らないから。」
「えー、それ残念だなあ。次は一緒に入れるタイミング狙おうかな…。」
「狙わないで! 私の体から出てってよ!」
朝風呂での騒動は、聖奈の平穏な朝をあっという間に乱してしまった。悠斗との共存は、彼女のリラックスタイムさえも試練に変えるようだった。