第6話:自宅でのひととき
インタビューを終え、聖奈はマネージャーの車で自宅へと戻った。長い一日の疲れが体に染み込み、彼女は車内で目を閉じて少しだけ休息を取っていた。頭の中では、悠斗がまだ興奮気味に喋っている。
「聖奈ちゃん、今日一日すごかったね! ライブにインタビューって、アイドルってほんと大変だ。俺、ファンとして尊敬しかないよ。」
「そうね、疲れたよ。あなたが騒がなければもっと楽だったかもしれないけど。」
「えー、ごめんって! でもさ、聖奈ちゃんの活躍見れて幸せだったんだから!」
車が自宅マンションの前で停まり、聖奈は「ありがとございます」とマネージャーに挨拶して降りた。エレベーターで自分の部屋がある階に上がり、ドアを開けて中に入る。靴を脱ぎ、荷物をソファに放り投げると、彼女は大きく伸びをした。
「ふぁ~、やっと帰ってきた…。家が一番だね。」
「うわっ、聖奈ちゃんの家だ! マジで入れるなんて夢みたい! どんな部屋なんだろ、ちょっと見て回りたい!」
悠斗の好奇心旺盛な声に、聖奈は眉をひそめた。
「見て回るって何!? 私の家なんだから勝手に動き回らないでよ。あなたは頭の中にいるだけでいいでしょ。」
「でもさ、ファンなら聖奈ちゃんのプライベート知りたいじゃん! どんなインテリア? 好きな色とかある?」
聖奈はため息をつきつつ、リビングを見回した。白を基調にしたシンプルな部屋に、淡いブルーのクッションやカーテンがアクセントになっている。彼女はソファにドサッと座り、答えた。
「別に特別なものはないよ。シンプルで落ち着くのが好きだから。…ほら、これで満足した?」
「おお、ブルーなんだ! 聖奈ちゃんっぽい! 清楚で爽やかで…イメージ通りだよ!」
聖奈は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、グラスに注いで飲みながら呟いた。
「イメージ通りって…あなた、私のこと勝手に理想化しすぎでしょ。トイレの時だって『アイドルは行かない』とか言ってたじゃない。」
「それはそうだけどさ! でも今日一日見て、やっぱ聖奈ちゃんって最高だなって。リアルなとこも含めて大好きだよ。」
「大好きって…やめてよ、気恥ずかしいから。」
聖奈はテレビをつけ、適当なドラマを流しながらソファに寝転んだ。すると、悠斗がまた口を開いた。
「ねえ、聖奈ちゃん、家だと何するの? リラックスってどうやってするの?」
「今みたいに寝転がってテレビ見たり、音楽聴いたり。あとはお風呂入って寝るだけ。普通でしょ。」
「お風呂! またシャワー騒ぎになるの!? 俺、覚悟しとくよ…。」
「騒ぎにしないでよ! 今日は疲れてるから静かに浴びるだけだから、あなたも大人しくしてて。」
聖奈は少し笑いながら、冷蔵庫からアイスクリームを取り出した。スプーンで一口食べると、冷たい甘さが疲れを癒してくれる。悠斗が頭の中で反応した。
「うわっ、アイス! 聖奈ちゃん、アイス食べるんだ! 何味?」
「バニラ。シンプルなのが好きだから。…って、あなたまで味感じてるの?」
「うん、めっちゃ甘い! やばい、聖奈ちゃんと一緒にアイス食べてるみたいで幸せすぎる…!」
聖奈は目を細めて、頭の中で悠斗を軽く叱った。
「幸せって…勝手に楽しまないでよ。私のアイスなんだから。」
「でもさ、共有してるんだから俺の分もあるよね? もう一口お願い!」
「何!? あなたのために食べてるんじゃないよ!」「はやく、あーん」
それでも聖奈はもう一口アイスを口に運び、ついでに小さく笑った。悠斗の無邪気な反応が、なんだかんだで嫌いじゃなかった。彼女はテレビの音をBGMに、ソファでくつろぎながら呟いた。
「ねえ、悠斗くん。あなたがいるせいで騒がしいけど…まあ、今日くらいは許してあげる。」
「マジ!? 聖奈ちゃん、ありがとう! 俺、もっと聖奈ちゃんの日常見たいな。明日も一緒に頑張ろうね!」
「頑張るって…あなたは応援するだけでいいから。私が仕事するんだよ。」
部屋に静かな夜が訪れ、聖奈はアイスを食べ終えて目を閉じた。悠斗との奇妙な共存は、疲れるけれど少しだけ温かいものに感じ始めていた。彼女が眠りに落ちる頃、悠斗は頭の中でそっと呟いた。
「聖奈ちゃん、おやすみ。今日も最高だったよ。」