第4話:トイレの危機
シャワー騒動から1時間後、聖奈は雑誌のインタビューに向かうため楽屋で準備をしていた。メイクを直し、衣装をチェックしていると、悠斗が頭の中で穏やかに呟く。
「聖奈ちゃん、インタビューかあ。どんな質問来るのかな? 俺、ファン目線で予想してみようか? 新曲のインスピレーションは?とかさ。」
「余計なこと考えなくていいよ。黙って応援に徹してて。」
その時、聖奈の下腹部に違和感が。お茶を飲みすぎたせいで、急にトイレに行きたくなってきた。彼女は顔をしかめ、マネージャーに「ちょっとトイレ行ってきます」と告げてトイレへと急いだ。
ドアを閉め、鍵をかけた瞬間、悠斗の声が頭の中で響いた。
「え、聖奈ちゃん、トイレ!? マジで、こんなタイミングで…!」
「何!? 普通でしょ。人間なんだからトイレくらい行くよ。あなたには関係ないんだから、頭の中で静かにしてて。」
「いやいや、関係あるよ! 俺、聖奈ちゃんの体にいるんだよ!? ってことは、その…あの...感じちゃうってことじゃん…!」
聖奈は一瞬固まり、顔を真っ赤にして反論した。
「感じるって何!? 絶対にダメ! 私のプライバシーなんだから、あなたは感知しないでよ! 頭の中で別の何か考えてなさい!」
「えー、でもさ、感覚って勝手に伝わってくるじゃん! シャワーの時だってそうだったし…。ちょっと興味あるっていうか…。」
「興味!? 気持ち悪い! アイドルのトイレに興味持つなんて最低!」
すると、悠斗が少し拗ねたような口調で言い返した。
「だってさ、アイドルはトイレに行かないって聞くよ! 聖奈ちゃんって完璧な存在だと思ってたから、こんなリアルな一面見るなんて…衝撃的すぎるよ!」
「完璧って何!? 私だって人間なんだからトイレくらい行くよ! あなたの幻想押し付けないで!」
聖奈は便座に座るのをためらいつつ、膀胱の圧迫感に耐えきれなくなってきた。彼女は意を決し、プライバシーを守るため悠斗をシャットアウトしようとした。
「ねえ、悠斗くん。頼むから頭の中で歌でも歌ってて。今すぐ! 『星屑のラビリンス』の2番!」
「またそれ!? 星屑の夜に~迷い込んで~♪って…いや、無理だって! トイレの感覚の方が気になっちゃってさ…!」
「気になっちゃってって何!? 私が我慢してる間に騒がないで!」
聖奈は目を閉じ、急いで用を足した。すると、悠斗が頭の中で叫んだ。
「うわっ! なんか…なんか分かる! やばい、リアルすぎる! 聖奈ちゃん、俺、どうしたらいい!?」
「黙って! 感じないで! 頭の中でライブの歓声でも想像してなさいよ! 『聖奈ちゃーん!』って!」
「『聖奈ちゃーん!』って…いや、無理だよ! 今の感覚の方が強すぎて…!」
聖奈は羞恥心で爆発しそうになりながら、急いで手を洗い、トイレから飛び出した。鏡の前で深呼吸しつつ、頭の中で悠斗に怒鳴った。
「あなた、本当に最低ね! 『アイドルはトイレに行かない』って何!? 私のプライバシーをこんな風に楽しむなんて、ファン失格よ!」
「ごめんって! 俺だってわざとじゃないよ! 感覚が勝手に来るんだもん! でもさ、聖奈ちゃんの全部を知れるなんて…ファンとしてちょっと嬉しいっていうか…いや...ちょっとどころじゃない!」
「嬉しいって何!? 私が恥ずかしくて死にそうなんだけど!」
インタビューに向かう途中、聖奈はトイレでの出来事を思い出すたびに顔を赤らめた。悠斗の「アイドルはトイレに行かない」という幻想は、打ち砕かれたが、「聖奈ちゃんのリアル、最高だよ」と、楽しげに考えていた。