第17話:クイズ番組の逆転劇
電車での痴漢騒動を悠斗の助けで乗り越えた聖奈は、その日の仕事を終えると、次のスケジュールであるクイズ番組の収録に向かった。番組は「アイドル頭脳バトル」、人気アイドルたちが知識を競う生放送の特番だ。聖奈はスタジオに到着し、控室でスタッフからルール説明を受けた。頭の中で、彼女は悠斗に念を押した。
「ねえ、悠斗くん。クイズ番組だからって、私に変なプレッシャーかけないでね。頭使うの苦手だし、あなたが騒ぐと余計混乱するから、静かにしててよ。」
「分かったよ、聖奈ちゃん! 俺、クイズ好きだから楽しみだな。応援してるよ! でも…聖奈ちゃん、ほんと大丈夫? 頭使うの苦手って…。」
「何!? 失礼ね。私だって頑張るんだから!」
収録が始まり、スタジオは華やかな照明と観客の拍手で盛り上がった。司会のタレントが「それでは、星野聖奈さんを含む5人のアイドルで対決スタートです!」と宣言。聖奈は他のアイドルたちと並び、笑顔で手を振ったが、内心は緊張でいっぱいだった。
最初の問題は簡単な一般常識。「日本の首都はどこですか?」
聖奈はボタンを押して答えるチャンスを得たが、頭が真っ白に。
「えっと…日本の首都…えー…大阪?」
観客席から「えーっ!?」という声が上がり、司会が「残念、正解は東京です!」と訂正。聖奈は顔を赤らめて笑顔でごまかしたが、頭の中で自己嫌悪に陥った。
「うわっ、私、何!? 大阪って…恥ずかしい…!」
悠斗が頭の中で慌てて声をかけた。
「聖奈ちゃん、大丈夫!? 首都が大阪って…やばいよ! 俺、助けたいけど…どうしよう!?」
「助けたいって…私が恥かいただけだから、黙っててよ! 次はちゃんと答えるから!」
次の問題。「リンゴを英語で何と言いますか?」
聖奈はまたボタンを押したが、自信なさげに「えっと…サンフジ?」と答えてしまい、会場が笑いに包まれた。司会が「違います、正解はアップルです!」と言うと、他のアイドルが得点を重ねていく。聖奈は焦りで頭が混乱し、頭の中で呟いた。
「何!? 私、ほんとダメだ…。クイズ向いてないよ…。恥ずかしくて死にそう…。」
その時、悠斗が我慢できなくなった。
「聖奈ちゃん、このままじゃヤバいよ! 俺、クイズに自信あるから助ける! 次は俺が答えるよ!」
聖奈が「何!? 勝手に喋らないでよ!」と反論する間もなく、次の問題が出された。
「1年は何日ありますか?」
聖奈がボタンを押すと、悠斗が彼女の声帯を乗っ取り、自信満々に答えた。
「365日です! うるう年なら366日だけど、基本は365日だよね!」
司会が「正解!」と叫び、観客が拍手。聖奈は一瞬呆然としたが、頭の中で悠斗に抗議した。
「悠斗くん! 何!? また勝手に喋ったの!? 私が答えるんだから、やめてよ!」
「ごめんって! でもさ、聖奈ちゃん、このままじゃ恥かくだけだよ! 俺に任せて! 優勝させたいんだ!」
聖奈は渋々納得し、「…分かった。今回は頼るけど、私の声で変なこと言わないでね」と条件をつけた。
収録が進み、問題が難しくなる中、悠斗の知識が冴え渡った。「ピカソの有名な絵画は?」「ゲルニカ!」「地球の衛星は?」「月!」と次々正解を連発。聖奈の声で答えるたび、観客が「聖奈ちゃん、すごい!」と驚き、他のアイドルたちも圧倒されていく。聖奈は内心、「私が頭いいみたいになってる…」と複雑な気分だった。
最終問題。「日本で一番高い山は?」
聖奈がボタンを押し、悠斗が「富士山、標高3776メートル!」と即答。正解のブザーが鳴り、司会が「優勝は星野聖奈さん!」と宣言。スタジオが拍手喝采に包まれた。聖奈は笑顔で手を振ったが、頭の中で悠斗に呟いた。
「悠斗くん…ありがとう。私、おバカキャラにならずに済んだよ。今回は助かった…。」
「やった! 聖奈ちゃん、優勝だよ! 俺、ファンとして聖奈ちゃんを輝かせられて最高だ! 知識なら任せてよ!」
収録後、控室に戻った聖奈は鏡を見ながら小さく笑った。
「ねえ、悠斗くん。あなたがいて良かったって思うの、初めてかも。でも、私の声で喋るのはこれっきりにしてね。」
「分かったよ! でもさ、聖奈ちゃんが優勝したの俺のおかげだよね? ちょっと誇らしいな…。」
「ちょっとだけね。私が恥かかずに済んだのは認めるよ。でも、私の体から出てってくれるのが一番なんだけど。」
クイズ番組でのピンチは、悠斗の知識と機転によって聖奈を優勝に導き、二人の奇妙な共存に新たな信頼感を芽生えさせた。聖奈をカバーした悠斗は、ファンとしてまた一つ聖奈を救ったのだった。