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第1話:奇妙な目覚め

杉野悠斗にとって、星野聖奈はただのアイドルではなかった。人気アイドルグループ「スターライト☆ドリーム」のセンターとして輝く彼女は、悠斗の生きる理由そのものだった。毎日のように彼女のライブ映像を見て、SNSで彼女の笑顔を追いかけ、ファンクラブの会員番号「00047」を誇りに思う。そんな彼の部屋は、聖奈のポスターとグッズで埋め尽くされていた。

その日も、悠斗はいつものように聖奈の最新シングルのMVを繰り返し見ていた。ヘッドホンから流れる彼女の透き通った歌声に心を奪われながら、彼は画面に映る聖奈の笑顔に向って呟いた。

「聖奈ちゃんに会えたら、俺、なんでもするよ…」

その瞬間、奇妙なことが起きた。頭の中がぐらりと揺れ、視界が暗転した。気付けば、悠斗は見慣れない場所にいた。白いドレッシングテーブル、鏡に映る色とりどりのメイク道具、そして甘い香水の匂い。そこは明らかに自分の部屋ではなかった。

「え、どこだここ…?」

悠斗が混乱しながら辺りを見回すと、目の前の鏡に映ったのは――星野聖奈の顔だった。

「うそ、だろ…?」

驚きのあまり声を出した瞬間、その声は聖奈の柔らかく澄んだ声だった。悠斗は慌てて手を顔に当てた。細い指先、華奢な手首。間違いない。これは聖奈の体だ。

「なんで俺が聖奈ちゃんの中に…!?」

心臓がバクバクと高鳴る中、頭の中に別の声が響いた。

「ねえ、誰かいるの?私の頭の中で喋ってるのって…何?」

悠斗は息を呑んだ。その声は紛れもなく聖奈のものだった。だが、それは外から聞こえる声ではなく、彼の意識に直接流れ込んでくるものだった。

「聖奈ちゃん!? 俺、杉野悠斗! ファンクラブ会員番号00047! えっと、どうしてこうなったのか分からないけど、俺、聖奈ちゃんの体に…入っちゃってるみたいで…」

一瞬の沈黙の後、聖奈の声が再び響いた。今度は少し震えていた。

「え、ファン? 会員番号? ちょっと待って、私の体に勝手に入ってくるなんて…どういうこと!?」

「俺だって分からないよ! ただMV見てたら急にこうなって…」

「MVって…私の新曲? 『星屑のラビリンス』?」

「そう! それ見てた!」

二人の会話は、まるで頭の中でテレパシーを交わすように続いた。悠斗は興奮と混乱で頭がクラクラしつつも、聖奈の体を動かしてみようと試みた。鏡の前で手を振ると、聖奈の華奢な腕が軽やかに動いた。

「うわっ、マジで俺、聖奈ちゃんになってる…!」

「ちょっと! 勝手に動かさないで! 私の体なんだから!」

聖奈の声が鋭く響き、悠斗は慌てて動きを止めた。

「ご、ごめん! でもどうすればいいんだよ…?」

「私だって分からないよ! とりあえず、落ち着いて考えよう。私、今楽屋にいるの。もうすぐライブのリハーサルが始まるから…」

「ライブ!? 聖奈ちゃんのライブに俺が!?」

「だから勝手にテンション上げないで! 私の体なんだから、私がコントロールするの!」

こうして、杉野悠斗と星野聖奈の奇妙な「共存」が始まった。二人は一つの体を共有しながら、精神で繋がり、時に衝突し、時に協力し合うしかなかった。悠斗にとっては夢のような状況だったが、聖奈にとっては悪夢の始まりにしか見えなかった。

しかし、この奇妙な出来事が二人に何をもたらすのか、まだ誰も知る由はなかった。

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