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28 続後日談

 10時に旧市役所のホールにて調印式が始まり、学部長は神妙な顔で市長と文書取り交わした。

 その後は相手の助役、夏期大学長、教育部長、市議会議長等が順に祝辞を述べ、12時から調印式関係者による昼食兼懇親会が設定されていた。

 俺は学部長から調印式終了後から懇親会迄の間に、学長の様子を確認してくれと頼まれ、11時過ぎにホテルに戻った。学部長は式後、市役所の関係部署、教育部や議会等の視察に連れて行かれる予定で、一瞥の不安を俺に見せながら、殊勝にも刑場に連行される犯罪者の様な雰囲気で、会場を出て行った。「大丈夫ですよ、英語が喋れるから、意思の疎通は図れます」そう心の中で俺は応援したんだけどね。


 ホテルに戻り、学長の部屋を訪れる。部屋に入ると、学長ケロリとしていた。整腸剤が効いたんだ。

「学長。起きていて、大丈夫なんですか?」

「葛城先生。心配をお掛けして、申し訳ございませんでした。この通り、治りましたよ。もう大丈夫です」


「それは、一安心致しました。学部長も式典中にも係わらず、学長のお身体を甚く心配しておりましたから、さぞ喜ぶ事でしょう。早速ご連絡致します」

「先生。それは暫くお待ちを。予定では午後から、食事を兼ねた懇親会でしたね」


「はい、そうです」

「折角治ったのに、アルコールとなると。一寸不安ですね」


「そうですか?」

「そうですよ。ですので、学部長先生にお任せしましょう」


「宜しいのですか?」

「調印式も無事済まされた訳ですよね」


「はい」

「それでしたら、何の問題もありません。それに先生も通訳として出席なさる訳ですから、何の心配もありませんね」


「それは些か・・・」

「大丈夫ですよ。学部長先生は英語がお出来になるから、いざとなれば、御自分で対処なされるかと」


「そうでしょうか? 現に、昨日の電話では大層、ご苦労なされたと仰っておりましたし。そもそもが、フランス人は英語が喋れても、必ずフランス語で聞いてきますから」

「それでもフランス語が話せなければ、英語で喋る訳でしょ?」


「一応は」

「それなら、問題ない訳でしょ」

 そう言うと、学長は、俺に懇親会を宜しくと頼み、ベッドに横たわってしまった。仕方ないが、学部長にはもう一働きしてもらうしかない。


 午後の懇親会では学部長が慣れないながらも、英語で誰彼となく話し掛けては、場が盛り上がっていた。比較的若いフランス人は英語で会話を続けているが、年配者は直ぐにフランス語になってしまうので、俺が学部長の後ろで通訳した。それでも雰囲気が壊れなかったのはアルコールの効用であろう。

 その内、学部長にボディタッチ紛いの行動が見えて来たので、大事になる前に、俺は学部長に釘を刺した。恐らくだが、自分の英語が通用したのと、周りが全て外国人(その内、半数が女性)で緊張しており、余計にアルコールが回ったのが原因ではないか、と俺は推察したんだが、如何であろうか?


 懇親会も無事終了。俺は学部長を連れてホテルに戻った。彼は名残惜しそうにしていたが、これ以上酒が入ると女性に、非常に不味い事が起きる予感がしたので仕方あるまい。あれ程のフランス人女性に囲まれたのだ。外人パブでもそうそう有る事ではないしな。「パツ金だの、セクシーだ」の単語がチラチラ出ていたのだから。


 ホテルに戻って、俺は学部長を彼の部屋に案内した。ワインで陽気になった学部長は、ベッドに倒れ込むと、そのまゝ寝てしまった。流石にそのまゝでは不味いと思い、靴と上着だけは脱がしたが、それ以外は勘弁願うしかない。俺否だよ、他人の下着の着替えなんて・・・

 学長の部屋を訪れ、懇親会が無事終了した事を報告した。通路での騒ぎが聞こえていたのだろう。学長は学部長の事を多少心配したが、寝込んでしまった事を聞いて、俺に労いの言葉を掛けてくれた。俺は夕食がロビー脇のホールで20時からであると伝て、退室した。学部長にもその前に伝えないといけないなと思いながら、部屋で一息入れた。通訳をしていたので、酒は飲めなかったから、夕食ではワインを頂くか。


 夕食時間の10分前になり、俺は学部長を起こしに部屋を訪ねた。一声、二声辺りで彼は目覚め、俺は夕食時間が来た事を告げた。彼の支度を待ち、俺達は学長を迎えに行った。

 夕食はテリーヌ、冷菜、牛肉の和え物、サケのステーキ、フランスパン、デザートにコーヒーのコース料理。白と赤のワインを注文して、三人で調印式と懇親会の成功に乾杯をした。夕食後の予定を学長が聞いて来たので、予定がない事を伝えると、なんと、ムーランルージュに行きたいと宣った。何でも一度は行ってみたいと言うので、学部長に尋ねると彼も行きたいと。俺はチョンガーだから良いとしても、あなた方は妻帯者でしょ、良いのかい?


 店はモンマルトルにあるので、タクシーを呼んで三人で向かった。店内での事は、我々は教育者でもあるので、この場では描写を控えます。ホテルに戻ったのが、1時過ぎ。疲れた。二人は店での体験を「あーでもない、こうでもない」と帰りのタクシーの中で語らっていたが、元気ですね。日本じゃ今の俺は、営業マンが客を接待しているように、傍からは見えるだろうな。

 明日の午前中はゆっくりと過ごし、午後からパリのギャラリー・ラファイエット若しくはプランタンで奥様方のお土産を購入予定。本当は日系デパートで買い物をしたかったそうだが、今は〇越も□島屋もありません。その後は、二人共予定がないのでエッフェル塔、ルーブル視察を俺が提案すると、全て任せると言うので、俺がガイドする事になった。俺は友人とレストラン・シノワでの歓迎会が夜にあり、その前には帰りたいと伝えると、学長は快く認めてくれた。


 遅い朝食を摂った後、我々はタクシーでパリのギャラリー・ラファイエットでの買い物に。9区オスマン大通りにこの2店舗はあり、はしごも可能です。

二人はお互いの奥様に、シャネルの黒のハンドバッグを購入したが、5000の数字が見えていたので、5千ユーロ以上するものを買った訳ですね。俺なんかじゃ買えない代物だよ。最も、俺は釣った魚には餌をやらない主義だから、彼等の感覚とは違うんだけど。この点では、独身で良かったと思う。


 奥様のお土産を買った後、エッフェル塔から案内しようと提案したら、「怪しい店に連れて行ってくれ」と学長におもむろに言い出された。何でもお仲間から、フランスのアダルトグッズを土産に依頼されたと言うんだ。学部長の顔を見ると、俺は関係ないとシカトしている。小考して俺はオペラ座を目指した。オペラ座の脇には夜ともなれば、原色のネオン看板がそこかしこに点灯する。その類の店があるのは分かっていたので、向かったんだ。

 日中に訪ねてみると、ネオンサインなんか見えないし、閑散としている。安心した。この辺りは学長の言う通り怪しい処で、尚且つ時間によっては危ない人も出て来るから、日本人は夜は避けた方が良い場所だね。日中は安全とは言わないが、生命に危機が訪れるリスクは少ない。

 それらしき店を探し、学長に伝えると彼は中に入って行った。それに釣られて学部長も入って行く。直ぐに、二人は出て来て「違う」と言ったので、別の店に連れて行った。この店も二人で入って行く。10分程経過して二人が出て来た。満足気な様子からして、お目当ての物が手に入ったのだろう。

 未だ日が高いので、この後はエッフェル塔、ルーブル視察に向う訳だが、ホテルの夕食が20時からなので、時間的に余裕がないのは承知してもらい、足掛け視察になってしまった。

 帰りはブローニュの森を経由して帰った。これも学長の希望から、寄り道したのであるが、日中からお目当てが出て来る訳もなく、二人は目を皿のようにして森の中や道路沿いを凝視していたが、成果はない模様。


 時間的には良い頃合いにホテルに帰還したので、俺は一足早くレストランに向かった。参加するのは、セリーヌ、ガエル、テス、フランソワーズ、ニコール、ディアナ、ピエール、パスカル、ジャンの都合9人。

 店の者に俺を入れて10名だから、丸テーブル2つを用意してもらえるよう頼むと、普通のテーブルに椅子10脚用意したからと言われた。それなら個室にしてよと頼むが、狭いからと断られた。時間も然程ないので妥協するか。


 20時から10分位経ってから人が来出した。矢張り遅れるのがこちらではエチケットなのだと今更ながらに気付かされた。全員揃ったのが20時半、それ迄懐かしい話しで盛り上がり、時間を気にせずに済んだのは、ご愛嬌か。

 食事中も夏期講座のあれやそれやで話しが弾み、俺は箸が進まなかったけど、フランス人は良くあれだけ喋りながら、食べられるものだと感心した。


 ジャンには、芳子ちゃんとその後どうなったのか聞いてみた処、メールのやり取りはあったがそれだけで、行き来はしていないと言っていた。パスカルも同じく利恵ちゃんとはメールのやり取りだけで、進展はないと語っていた。

 俺はセリーヌに同棲中の彼氏の事は聞けず仕舞いで、逆にガエルが彼氏と別れて一人で寂しいと嘆いていた。別れた訳を聞くと、ガエルが仕事に就いたは良いが、忙しくてデートの時間が余り取れず、それを彼氏が嫌ったらしい。


 料理は卵スープから始まり、麻婆豆腐らしき物、多分春雨、蟹団子、水餃子、後は名前が分からない物が何品か出て来た。日本の中華料理とは別物だというのが分かった。それでも味は日本の物と極端には変わっていなかったので、判別出来るか。

 そうして楽しい一時が終わる頃、ジャンがこれからパリに繰り出そうと提案した。賛成する者、これでお開きにする者様々であったが、テスがこの後、自宅に来ないかと誘ってくれたんだ。

 さて、如何したものか? 俺の選択としては一択なんだけど、男の友情としてはパリに行かねばならない。美しいフランスセーズに誘われて断る男がいるか? そう思っていたら、ジャンが俺に向かって「行くぞ」と声を掛けて来た。万座の中で断る勇気が俺にはありませんでした。仕方なく、後でマンションに行くとテスに伝えて、俺達男性とガエル、ニコール、ディアナがパリに。


 シャンゼリゼ通りのカフェでビールを飲みながら、あゝでもない、こうでもないと雑談。通りには引っ切り無しに車が連なって走っている。

 岸に打ち寄せる波、青空の流れる雲、車窓にて移り変わる景色、どれも時間を忘れて見入ってしまうものだが、基本的には見ていて飽きない。結局ホテルに帰って来たのは2時頃になった。それも俺が眠くなってきたので、皆にお願いして送ってもらったんだけど、フランス人は体力がある、男も女も。

 テスはもう寝ているだろう。今更電話しても、出ないのは分かり切っているから電話しないが。それにしても惜しい機会を失ってしまった。もうないだろうな、俺の人生でフランスセーズからの誘いなんて。

 明日は午前中に空港に向かう訳だから、テスには会えない。彼女も仕事があるから無理な事は分かっている。ジャンやパスカルは一応日本人の彼女と連絡を取り合っているから良いけど、俺はそのチャンスも無くなった。彼等も俺と同じく、遠距離恋愛で愛想を尽かされると良いんだ。


 セリーヌに振られ、テスとはチャンスもなかった。これが俺のフランスセーズとの顛末です、以上。


 これで完結です。後日談は一年後になりますので、発表を遅らせました。

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