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27 後日談

 翌年の新学期、新入生を迎え講義を如何に進めるか、学部長から方針を伝えられていたが、非常勤講師の職も延長してもらったから、この一年は安泰なので、良い加減なスケジュールを提出していたけれども、そのまゝ了承された。


 それよりも新学期早々、フランスのR市から昨年の夏期講座参加について感謝の知らせと、夏期講座への定期的な派遣要請が学長に送られて来たんだ。学長も在任中の功績になり、任期延長にもつながるので直ぐに飛びついたね。何でも、調印式をゴールデンウィーク前に執行したいので、渡仏してくれとの事で、式に参加するのは学長と学部長の二人、但し学部長は専門が歴史学なので、俺が通訳として同行する事になったんだとさ。

 そういう訳で、又R市へ行く事になりました。何か気が晴れない。そりゃそうだよ、折角結婚出来ると思ったセリーヌが俺を振ってほかの男と同棲しているんだよ。あの後からは連絡を取っていなかったので、気まずいなあ。



 4月30日、学長と学部長を引率して(本当にそう表現したい位に俺に何でもかんでも“負んぶに抱っこ”の状態だった)、俺達はシャルル・ド・ゴール空港からタクシーでR市にやって来た。市内のホテルで一泊して、翌日に調印式を市役所で執行する予定をロビーで確認して、俺は自分の部屋に向かった。二人は何か話し合っていたが、何だろう? 俺には関係のない事なので、気にしなかった。


 部屋で寛いでいると、俺の部屋の電話が鳴り、学部長からこう言われた。

「向こうの市役所から学長に電話が入り、『明日の件で打ち合わせをしたい』と言って来た。これから市役所へ行ってくれないか」

「学部長、それだけ相手とコミュニケーション取れるなら大丈夫ですよ、俺が行かなくとも」と返したら。

「英語でお互い意思疎通を図ったが、時間が掛かり過ぎて疲れた。それに文書は全てフランス語なので、任せたい」


 結局、支度をして俺はR市役所に行き、相手と調印式で交わす文書の確認をした。特に修正する箇所もないので、打ち合わせ自体は30分程で終わったんだけど、相手が俺の事を知っていたみたいで、昨年の夏期講座についてアレコレ言ってきたんだよ。そいつのお相手をこれ又30分して、市役所を出て来た次第なんだ。俺は相手の事を知らなかったんだけど、相手はピエールかフランソワーズに聞いたと言っていたから、又聞きだね。それで知ったんだけど、ブリジットは転職してお隣のイブリン県に就職したんだと。フランスでは割とあるそうで、「公務員も転職するんだ」が俺の第一印象だった。


 俺はホテルに帰り、友人になったフランス人にメールを送った。セリーヌ、ガエル、テス、フランソワーズ、ニコール、ディアナ、ブリジット、ピエール、パスカル、ジャン等々。俺達の行程は3泊5日なので、調印式の日は式後に市主催の懇親会があるから、最終日に夏期講座で知り合った関係者と再会しようとメールしたんだ。最終日は学長達が奥さんに土産物を頼まれたとかで、シャネルの何とかを買いに行く予定以外何も入っていないので、自由に過ごせる訳だ。

 返信が幾つか直ぐに来た。どれも懐かしいからと、参加の返事をくれた。結局10人近く集まる予定になったので、市内のレストラン・シノワ、中華料理店を会場にしようと、電話で予約を入れた。

 その夜は何事も起こらず、俺は熟睡出来た。但し、帰りは東に戻るので、時差ボケが相当酷いのを我慢しなければならないが。



 翌朝、学部長のモーニングコールで俺は目が覚めた。

「お早う、葛城先生。済まないが学長の部屋に来てくれないか?」

「おはようございます、学部長。何でしょうか?」


「良いから、来てくれ」

「分かりました」

 そう言って、俺は学長の部屋に行った。ノックして部屋に入ると、学長が具合悪そうにしてベッドに横たわっているじゃないですか。学部長はその傍らで心配気に学長の顔を見ている。


「どうされました?」

「いや何だ。学長と昨晩、日本から持参したカップラーメンを食べたんだよ。そうしたら、こうさ」


「学部長は大丈夫なんですか?」

「私は何ともないのだが、学長がね」

 俺は笑いそうになった。確か、昨年の講座に参加した学生の誰だったか忘れたが、鍋でインスタントラーメンを作って、食べた奴がいたんだよな。そいつは翌朝、腹痛で寝込んでいたから。学長、貴方も学生と同じですか・・・ 若者だろうが、年配者だろうが行動パターンが同じだ。


「大変ですね。こちらの水は硬水なので、カルシュームが相当入っているんですよ」

「そうらしいね。大丈夫だと思っていたのだが・・・ 一応〇〇胃散整腸薬を飲ませたから、様子見だね」


「それでしたら、半日寝ていたら治りますね」

「その件だが、調印式があるだろ?」


「学部長が代理で済ますしかないですね」

「一日延期してくれないかな?」


「それを俺に『聞け』と言うんですか?」

「悪いね」

 悪いよ。予定が決まっているのに、学長の都合で「変更してくれ」とは言えない。我が儘ですよ。

 そんな事言える立場でもないので、了承した。その結果を待って、どうするか学長と話し合うそうだ。


「それでは朝食を食べた後、市役所に行ってお願いしてみます」

「頼むね」


 学長の部屋を出て自分の部屋に戻り、身支度を整えてロビー脇にあるホールに行って、フランスパンとカフェオレの朝食を摂った。昨日の職員さんから名刺をもらっていたので、ロビーから電話を掛けた。学部長には「市役所に行って」と言ったが、そんな事出来る訳がない。案の定「予定は変えられない」とはっきり言われた。


 俺はホテルを出て、その辺りを歩いた。20分程散歩して、ホテルに戻る。この位で良いだろう。俺は電話での内容を伝えた。

「学部長、矢張り延期は出来ないそうです。関係各位に連絡済なので、そのまゝ進めるそうです。ですので、学部長が学長の代理として出席して頂いて、調印する運びとなります。勿論、その後の懇親会も学長が出られゝば良いのですが、出られない場合は学部長にお願いしたいそうです」

「やっぱりね。そうだとは思っていたけど、一人で出なきゃ駄目かな?」


「あちらはその積もりですよ」

「そうだよね。仕方ないよね。それしかないよね」


「もう諦めて下さい、学部長。通訳は私が致しますので、ご安心を」

「それは良いのだけど。相手の市長や関係者とは、私は初めてなのでね。どうすれば良いのかね。何せ外国人だよ、相手は。学長はメールやら文書でのやり取りをしていたので、多少は認識があったのにね」


「それはご安心下さい。詳細は私が相手方と詰めましたから、細かな事に触れなくとも結構ですので」

「そお? 細かい話しは出ないね。本当に頼むよ」


「はい」

 学部長は心配そうに、俺に念を押した。多分大丈夫ですよ。それにいざとなれば、貴方には英語と言う強い味方がいるじゃないですか。それだけでも意思疎通が図れますから。


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