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21 ロシアで何が

 19時半、バスで30分程のフランソワーズ邸に送ってもらった。場所はイブリーヌ県、シャンブーシーの住宅街の一画に位置した、瀟洒な一戸建てゞある。

 主人はバレ氏。奥様がフランソワーズ。大学1年の娘が一人いるとの事。裏庭で先ずはカクテルを振舞われた。ご主人は輸出入業務に携わっており、中国には何度か行ったそうだ。後で思い出したんだけど、ツマミに中国産のフルーツが出ていた。

 ボブがスコッチ、フローリアンがワイン、俺がサプリメントをプレゼント。変な取り合わせだが、思いつかなかったので勘弁。

 娘の友達一人も参加して、夕食会となる、総勢13名。これって不吉な数字では?


 夫人はフランス社会党の党員で、大臣何某は友人だと紹介された。夫の仕事の関係で今朝、ロシアから帰って来たと話していた。娘の友人は4日前にオーストラリアから帰って来たと言い、クロコダイルの肉を初めて食べたと話していた。その時撮った画像をエックスに上げていたので、学生に見せてくれたが、学生の反応は今一だったような気がする。


 フルーツから始まり、葉物サラダ、アワの類いの料理、米のサラダ、魚料理、肉料理、チーズ、スコッチ、シャーベットの順で次々と出て来た。勿論、パンとワインは常にテーブルの上とグラスに満たされていた。

 好子ちゃんはご主人と中国語で話しをしたが、彼はあいさつ程度しか喋れないと、彼女が教えてくれた。日本語で話すので、大丈夫なのかと思ったが、日本語は理解していないと共教えてくれた。安心した。

 恵美ちゃんや理恵ちゃん達は娘さんや友人と英語で話していたが、クロコダイルの肉が大変美味しいものだと聞かされ、その話題で盛り上がっていた。どうも高タンパク低カロリーな食材で、ネットで販売されているんだとか。知らなかった。それもワニの指付きの肉が売れているんだそうだ。信じられなかったが、豚の豚足が好きな者は豚足を見ても唯の食材と思えるので、その類いかと思ったが、それにしてもね。


 0時半お開きになった。女子学生は随分盛り上がっていたので、各々が写メを撮り合って、その場でラインアプリをインストールさせ、メールアドレスを登録させた。8人でやるものだから、結構時間が掛かった。フローリアンやボブなどは何時迄続くのか、呆れ顔に見ていた。メールアドレスの登録が終わり、友だち追加が終われば、一人一人ハグをしながら別れを悲しんでいる。大変感情表現が豊かになったものだ。彼女達も国際感覚が身に付いて来たのかと感心した。

 帰りのバスの中でボブが、大変珍しい貴重なウイスキーをご馳走になったと教えてくれた。普段、中々飲めない物だと言われ、俺もフローリアンも“豚に真珠” 、“猫に小判”だと、笑いながら卑下した。貴重な品を頂戴したが、味がどう違うのか分からなかった。その点、ボブはウイスキーの価値が分かるので、そう言ったのだろう。

 そんな俺達の会話の後ろで、女子学生はお互いの画像をインスタに上げる、エックスに上げるなど、「あーでもない、こーでもない」と賑やかにお喋りをしている。



 1時10分、宿舎に帰る。2階ホールで奈緒ちゃん、美智ちゃん、鵜飼君、陳君が寛いでいたので、顔を出した。女子学生も残った者達に写メを見せ、報告と言うか晩餐会の詳細を話し出した。

 陳君が俺に噂だが、と断り話しを始めた。


「オルガから『ヴァシリーの会社から電話があり、モスクワで妙な動きがあるらしい』と聞いたんだ。ヴァシリーはモスクワにある出版社の音楽部門のジャーナリストで、会社から深刻な連絡が来たんじゃないか。先生、明日彼から聞いてみたら」

「へえ、ヴァシリーはジャーナリストか。教室では自分の事を話さなかったんで、そうなのか。それで、会社から何やら連絡が入り、オルガもアレクセイもその事に関して心配しているんだな」


「そうらしいよ」

「分かった。明日直接聞いてみよう。ありがとうな」


「大した事ないって、先生達が出て行って、俺達暇だったろう。それでオルガやアレクセイと話していたんだ。ヴァシリーは何処かに行って宿舎にはいなかったし。暇だからね」

 そう言いながら、満更でもない顔をしている。


「先生、それなら、アレクセイがジャミールと何か話していたよ。『入国するか、しないとか』だったかな」

 美智ちゃんが話しに割って入って来た。

「アレクセイがジャミールと?」


「うん。あんまし英語上手くないから、確かじゃないけどね」

「良いさ。明日聞いてみるから」


「それより先生。フローリアンは帰って来た?」

「一緒に帰って来たけど、フローリアンに用事なの?」


「うゝん、一寸ね」

美智ちゃんが言葉を濁した。まあ良いさ。彼女も色気付いたという事か。二十歳を過ぎた大人の女性だし、俺がとやかく言う事じゃない。それより早く寝よう。この処2時、3時頃に寝ているから睡眠不足なんだよ。1時半に就寝。



15日目

 午前中は商業高校の校長の募集要項に応募する為の自己紹介文を書く事になった。簡単な通訳で済み、学生はディクテがないので、安心してA3の用紙に色々書いてはいる。少しは推敲してくれよ。


 コーヒータイムにヴァシリーに何があったのかストレートに聞いた。オルガとアレクセイは今日もいなかった。

 彼が言うには「モスクワの会社から連絡があり、恐らくクレムリンからであろう怪しい情報が市中に出回っている。それが徴兵に関する事であり、本来ならば軍事に関する事は秘匿事項だから、噂として流れる事自体可笑しい。社としても情報源が何処なのか調べようとしている。そちらでもこの情報が流れているか調べてくれとの指示が来た」との事だった。「仮にそれが本当なら、何の為に流れたのか、その目的が知りたい」とも言っていた。


「ではオルガとアレクセイは何で講義に参加してないんだ?」

「彼は徴兵猶予になっていて、それが取り消された場合の善後策を模索しているんだろう」


「それでジャミールと色々話していたのか」

「ジャミールと何を話していたんだい?」


「又聞きだから、好い加減なものだけど、アメリカに入国出来るかどうかを聞いたらしいよ」

「噂の段階でしかないのに、手回しが良いなあ。俺が昨日、各所に取材した結果、EU内ではその情報は確認出来なかったし、ロシア大使館も情報の確認はないと言っていたし」


「軍事機密が漏れるなんて、あり得ないでしょ。それにロシア大使館が情報を正確にジャーナリストに伝えるの?」

「随分辛らつな評価だね。悪い印象を持ってないか? まあ良いさ。大使館からの情報は、俺の大学の友人からのものだから、信頼出来るんだよ。それに他国のジャーナリストにも尋ねたら、皆知らなかったね」


「そうなんだ。それじゃガセか」

「そうだと思うよ」

 ヴァシリーはコーヒーを飲みながら、自分が取材した情報を俺に教えてくれた。その話しは自信があるのだろう。俺に話した一部の文法は直接法前未来形であったと思う、多分条件法過去ではなかったと思う。この辺はあやふやで自信はない。文書だったら分かるんだけどね。


「それじゃ、市中に出回っている情報の出所は分からないか」

「それは社が調べているから、分かれば連絡が来るだろう。俺はEUの情報を社に伝えたから。それでお仕舞い」


「そんな事、結構あるの?」

「珍しいとは言わないけれど、有るよ。政府が政策を決定するにあたって、市民の反応を見る事はよくある話しさ。何処の国でも有る事だろ、違うか?」


「まあね」

 俺は彼に同意したように応えたが、それだ常態化している国ってあるんだろうか? 世論操作ってやつだよな。民主々義国家でそれをやるのはノーマルじゃないと思う、俺は。

 ともあれ、俺は安心した。明日からはオルガもアレクセイも講義に参加するだろう。特段、ヴァシリーの表情にも深刻さは感じられない。


 午後は19区のラ・ヴィレット(パリの食肉処理場跡地)にある国立技術博物館とラ・ジェオッド(半円級のAVシアター)の見学。スウェーデンのマダムが一人参加している。ラ・ジェオッドで秦の始皇帝の映画を観る。彼女に蓬莱島など、始皇帝と日本の関係について説明する。反対に彼女の事について聞いた処、フランスで生まれ、スウェーデン人と結婚してスウェーデンに。その後夫の仕事の関係でオランダ、ドイツ、フランスと移住。来月にはスウェーデンに戻ると言っていた。

 運転手のピエールに「EUでは彼女のような事は普通にあるのか」と聞いた処、「国籍を換える事は大変で、何ヶ国も移り住む事も特別だ」と教えてくれた。こいつが気さくな男で、色々夜のパリについても教えてくれたんだ、感謝。

 視覚、聴覚、嗅覚を科学する娯楽施設であり、殆んど地元の人間が遊びに来ている感じだ。日本人旅行者は一人もいなかった。


 19時半に見学終了し、凱旋門にて我等学生だけ降ろしてもらった。“ラ・フェルメット マルビュフ1900”にて食事をする為である。此処はジョルジュサンク通りに面し、新フランス料理の店で有名なんですって。因みに、近くに“クレイジーホース“もあるとか。

 


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