表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/26

13 ロシアの真実

6日目

 本日は日曜日、講義は休みである。2日前に、美智ちゃんと奈緒ちゃんが提案したパリの中華街に、昼食を取りに行く事になっていた。但し、利恵ちゃんは気持ちが優れないとの事で、恵美ちゃんが心配で付き添う事になり、11名での食事会になった。遅い朝食を食べ終わり、RER(郊外電車)の駅に向かうバスに乗った。尚、スペイン人の旅行者は朝早くに旅立っていた。



 RERと地下鉄を使い、イタリア広場に着いた。地下鉄の駅を出て、レストランを目指して歩くが、日曜日なので殆んどのブティックが休みだ。ですが、流石は華僑ですね。レストランは周りの店が閉まっているのに、ポツンと開いていた。荒野の一軒家って感じだね。

 メニュはフランス語で書かれているが、中国語をそのまゝ音訳したものなので、何の料理なのか想像がつかなったので、好子ちゃん注文を一括委託した。こういう時は彼女に限るね。なんだかんだ言いながら、一人一人の注文を聞いて、メモしている。良い子だね。


 久し振りに日本語でワイワイ食事をしながら過ごしたが、2時間も費やしてしまった。確か、午後にはオルセー美術館を見る予定だったので、大急ぎで会計を済ませた。一人当たり22ユーロ位の勘定だったな。

 15時から18時迄、オルセー美術館で印象派の作品を堪能した。美術館を出る時、理恵ちゃんが興奮しながら俺に話し掛けて来た。

「先生、聞いて。偶然て、あるんだね」

「どうしたの、そんなに興奮して」


「大学のお友達と会ったの、中で」

「英語学科の子?」


「いゝえ。一般教養で一緒になった子なんだけど、出身が同じ県だったので、仲良くなった子なの」

「それで」これはもっと話したいんだなと思い、俺は先を促した。


「彼女、夏休みに『お友達とイギリスに行く』って言っていたのね。それがイギリスだけじゃ勿体ないって、フランスも入れたんですって」

「それで会ったのか」


「そうなの。凄い偶然でしょ?」

「そうだね」


「それで、休みなんだから宿舎に招待したんだけど、『今日イギリスに向かうので無理』って言われちゃった」

「残念だったね」


「そうでしょ」

「分かった。でも時間だから、出よう」

 話しが止まらないので、良い加減仕舞いにしたかった事もあり、強制的に話題を換えてしまった。彼女何か物足りなさそうな表情をしていたが、仕方ないよ。団体行動をしているんだからね。それでも彼女、芳子ちゃんや洋子ちゃんに同じ話しをしていた。地下鉄の駅に向かう道すがら、ずうっと同じ話しをしていたのを聞いたんだけど、余程嬉しかったんだね。



 地下鉄とRERを乗り継いでRM駅に到着。バスの出発迄30分あった。10分過ぎた時にオルガとアレクセイがやって来た。

「はい、オルガ、アレクセイ」目ざとく大西君が挨拶をした。それで二人に気付いたんだ。

「はい、ジュン。何処に行ってたの」


「皆でオルセー美術館に行って来たんだ」

「それは良かったね」


「二人は何処へ行っていたの?」

「僕達はデファンスへ買い物に行って来たんだ」


「そうなんだ」

 大西君、フランス語と英語のチャンポンで話しているよ。流石、何度もフランスに遊びに来ている男だ。一週間で日常会話位は喋れるようになったんだ。それにアレクセイも気さくに話し掛けて来るから、最初の頃と比べると凄い進歩と言うか、打ち解けた雰囲気を出しているね。

 大西君の話しに触発されたのか、清子ちゃんもオルガとお喋りをしている。こういう処を見ると人種差別などないように感じるんだけど、どうかな? 学生と彼等との会話はバスに乗っても続いていた。学生にとってもフランス語と英語を使って、自分の意思や考えを相手に伝える喜びを感じ、生きた会話を経験する事が出来て楽しいのだろう。



 20時半、宿舎に着いた。既に夕食時間は過ぎていたが、恵美ちゃんが利恵ちゃんの夕食を料理人にお願いして、取りに来た処に帰ったものだったので、我等の夕食もお願いした。ラッキーの一言。


 食事の時間も学生とオルガ、アレクセイで会話が続いていた。何とはなしに聞いていた処、「ゴルバチョフ」や「エリツィン」、「プーチン」の名前が聞こえて来た。

 後で学生に聞いた処、オルガとアレクセイは、大学で教鞭を取っている立場の人間なんだと聞いた。俺が聞いた時は、確かにオルガの専門は数学で、アレクセイは軍の研究所勤務だと聞いたんだがな。俺の解釈が違ったかな?ともあれ、二人は知識人階層に属している事は確かだ。

 彼等によると、昼間はプーチンの行政手腕を賛美しているが、夜になるとゴルバチョフやエリツィン時代の自由闊達な雰囲気を懐かしむ話しが出て来るそうで、生活の安泰も大切であるが、自由な社会が大事だと言っていたそうだ。

 更に今は昔のUSSR時代の様に、社会の監視が強くなり、自由な意見が言い難い雰囲気があるそうだ。それに社会の富が一部の特権階級に流れているのではないか、との憶測もあるそうだ。いずれにしても社会の雰囲気は悪くなった、と言っていたそうだ。

 知識人が己の言葉で表現する事が出来ない民主々義国家などあるのか? 随分過激な意見が出たそうで、俺が思うに、学生達が二人の言葉を何処迄理解しているのか分からないが、少なくとも言外の意を酌み取らなければならないと思う。

 こう言っても、俺は会話に参加していた訳じゃなし、何処迄が本音で、どれが社交辞令なのか分からないから、憶測で話しているんだけれどね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ