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12 フランス人の時間感覚は理解出来ないと言うか、時間を守るという観念あるの?

 本日は午後にBGIの広報部長クリスチャン・ラネ氏の講演。午前中は午後の講演での質問を皆で検討し、一人一問形式で内容を検討した。

 BGIはアフリカ最大のヨーロッパ系ビール会社で、ベトナムで創業されたビール会社。“33”のブランドで有名だったそうだ。北ベトナムによる統一によって、ベトナムから撤退、拠点をアフリカに移して成功したとの事。


 尚、スペインからの旅行者4名が明日迄宿舎に滞在すると、セリーヌから説明を受けた。我々が宿泊している施設は、渡仏前に学部長から夏季講習用の宿泊施設と説明を受けていたが、どうも彼女の説明では聖二コラ教会の施設であり、誰でも受け入れるものだと。それを聞いて思い出した。部屋に鍵がない事を女子学生から相談され、彼女に鍵の設置を申し入れた処、「誰でも何時でも受け入れる施設であり、その為鍵を付けないのだ」と言われたんだ。更に、ジャミールとハーバートからも同じ要望があり、それで若干揉めた事があったんだ。何でもジャミールは、ブラックパンサーに間違われて拳銃で脅された経験があり、人命に係る問題だと強調していたな。それを彼女は「キリスト教の慈愛精神で受け入れる為、初めから疑いは持たない」と返していたんだ。そりゃ揉めるよね。片方は性善説、一方は性悪説のようなものだから。


 夕食後矢張りと言うか、アレクセイからクラス全員が、3階のホールに招待された。行ってみると件のスペイン人旅行者がヴァシリーやフローリアン、ボブ達と話し込んでいる。女子学生は会話に嬉々として入り込み、色々質問していた。

 俺は興味ないので少し引いて聞いていたんだ。それで分かったんだけども、同じキリスト教でもカソリックとプロテスタントでは若干の違いがあるんだね。スペイン人旅行者が聖地巡礼の旅をしている話しをすると、興味津々で聞き入るのがアレクセイやヴァシリー、聞き流しているように感じられたのがフローリアンやボブ。女子学生は初めて聞く話しに目を輝かせていたな。そんな体験をした4日目でした。

 ついでに話すと、スペイン人が土産だと皆に配った物があったんだけど、カボチャだか、ヒマワリの種を炒ったものを大量に差し入れしたんだ。3kg位あったんじゃないか。



5日目

 本日はオンフルール(イギリス海峡に面した北仏の典型的な港町でセーヌ川の河口近く)へのピクニック。

 9時半に出発なんだけど、大西君と清子ちゃんは、大西君が彼の父親に彼女を紹介するので、今朝早くパリの自宅に行った為、不参加になりました。


 高速道路A13を通って2時間で到着。昼前に着いたので、海の見える丘で昼食を食べる事にした。潮風と日差しが気持ち良く、欧米でのピクニック文化が少し理解出来た。この頃になると、誰彼関係なく話しをフランス語と英語で交わしており、初めの頃の緊張感がなくなったように感じられた。

 昼食が終わると、色んなカップルでスマホで記念写真を撮っていた。女性からはヴァシリー、フローリアンが人気で、男性からはセリーヌとガエルが人気だった。どちらもが独身で、人当たりが良くて美形なら、彼氏、彼女にしたい気持ちは分かる。俺はと言うと残ったオルガとアレクセイ、ボブとの自撮りになった。オルガは優しくて、旦那の前でも俺とツーショットに応じてくれた。

 彼女に聞くと、アレクセイはモスクワ大学の研究所に勤務していて、軍にも籍があるとか、ないとか。彼女もモスクワ大学で数学を教えているんだと。もう高校生の子供がいると言っていたから、30代後半から40代なのだろうな。30代でも体形は崩れていないから、一般的なロシアの中年女性のイメージを一新する美人だ。それに比べてアレクセイとボブはもう立派な中年で、体形も恰幅の良い、会社役員って感じだな。


 俺はオルガとアレクセイとの自撮りの時、こう言ったんだ。

「オルガ、アレクセイ。日本では写真を撮る時、こう言うんだ『チーズ』と。だけど、此処はフランスだよね」

「そうだね」


「だから、こう言おう。『フロマージュ』と」

 二人は怪訝な顔をしたけど、ボブは理解したのだろう、直ぐに笑って拍手をしてくれた。

「ジョークだよ、二人共」


「そうか、真面目なアルがジョークか。面白い。話せる奴だな」アレクセイが笑って応えた。

 これで表情がほぐれ、良い写真が撮れたと思うんだ。


 スマホの自撮りが終わり市街地散策、海辺散策の二組に分かれる事になった。俺と鵜飼君、陳君、セリーヌ、ガエル、オルガとアレクセイ、クローディア(チュニジア人なんだけど、講習参加者ではなく、誰かの友達だと聞いた)、ヴァシリー、フローリアンにボブは海辺へ、スペイン人とジャミールにハーバート、女子学生は全員市街地散策になった。どうも日焼け止めクリームを持って来なかったので、市街地散策にするそうだ。


 二手に分かれる時、セリーヌがこう言ったんだ。

「18時にはバスから降りた場所に集合して下さいね」

 これ位のフランス語は訳さなくとも皆理解でしたのだろう。「ウイ」と返事していたからな。


 ビーチに入る前に、更衣室で女性は着替えをするのというので、男性はこの間、小用を足したんだけど、観光ガイドに書いてあった通り、トイレは優良だった。入口に高齢の女性が椅子に座り、料金の受け取りをしていた。俺達はジャンに聞いた。

 紹介が遅れた。ジャンは、初日敷地を案内してくれたサロモン氏の子息で、地域警察の軍役に就いている男で、セリーヌやガエルの手助けをしている奴なんだ。

「ジャン、これ払うの?」

「そうだよ」


「幾ら?」

「1ユーロでOK」


「聞いたろ、二人共1ユーロ払うんだぞ」

「先生、小銭ない」鵜飼君が持っていないと言った。陳君も同じだと。


 仕方ない。俺は持っていた2ユーロを鵜飼君と陳君に手渡した。

「先生、サンキュウ」

「メルシーだろ」


「メルシー」


 トイレの使用料を払ったのはこれが最初だった。それで有料トイレはというと、何の変哲もない共同トイレだった。大人数が同時に出来る形だね。用を済ませ、女性の着替えを待った。彼女達も直ぐに出て来たので、そのまゝビーチに入った。


 ビーチの女性客の内、2割程度が何と、トップレスですよ。プライベートビーチでもないのに。目の保養になるなあ。セリーヌ、ガエル、オルガ、クローディアも上に羽織ったTシャツを脱いでビキニの水着を俺達に見せてくれた。セリーヌは特に背が高く、胸も大きかったので俺の眼は釘付けになった。若干垂れてはいたが、それは仕方のない事だよね、大きいんだから。重力には逆らえないと・・・

 俺と鵜飼君、陳君の三人は彼等、彼女達と少し離れて、女性の水着姿を堪能した。市街地散策よりも女性ですよ。ビーチに腰掛け、辺りを眺め回す男三人、絵にならなくとも、この光景は一生忘れないだろう。俺達は至福の一時を過ごしたんだ。


 17時を過ぎ、帰り支度をする。女性は帰りも更衣室によって着替えを済ませた。ビーチへの渡り橋を戻ると、喫茶店がある。セリーヌが喉が渇いたから飲み物を飲もうと言い、俺達も同意した。

「シトロンビール頂戴」

「何それ」


 セリーヌが注文したビールが珍しかったので、俺が尋ねたら、ビールにレモン果汁が入ったものだと教えてくれたので、俺達も物珍しさから同じ物を注文した。

 運ばれて来たシトロンビールを飲んだが、確かにレモン味のビールだ。フランスには色々なフレーバー味があるという。アルコール度数も日本の物とそう大差がない。但し、それ程冷えていなかった事だけが残念な点だな。それを除けば、満足のいく一品だな。海に傾く太陽を眺め、西日に目を細めながら飲むビール。これも黄金の一時だな。


「アル、どう? 仕事ばかりじゃつまらないでしょ」

「そうだね」

 セリーヌが俺に話し掛けて来た。確かにそれはあるが、学生に万一の事があれば、俺の対場がなくなるし、仕事がなくなる事になるから。気を緩める事なんて出来ない。


「学生の面倒があるから、楽しむ事なんてどうだろうね」

「そうね。彼等はもう大人だし、一人の個人なのよ。気に掛けなくとも間違いを犯す事はないわよ」


「そうだと良いんだけどね」

「何か心配事でもあるの?」


「いや、ないさ。但し、何か起きたら俺の責任になるから。そうしたら仕事首になるよ」

「オララ。そうしたら次の仕事を探せば良いじゃない」


「そう簡単には行かないよ」

「そうかしら」


「先生もうすぐ18時だよ」

鵜飼君が俺に告げた。時計を見ると確かに18時前だ。だけどグラスには未だ半分残っているんだよね、ビールが。

俺はセリーヌに時間を告げた。彼女は了解したが、一向に腰を上げない。


 何時しか18時半になっていた。セリーヌが腰を上げたので、俺達も席を立った。支払いを済ませ、集合場所に向かう。バスに戻ると、案の定、女子学生から文句を言われた。

「先生。40分も待っているのよ」

 好子ちゃんから強い口調で詰められた。眼も睨みつけるように鋭い。居た堪れない気持ちだ。

「申し訳ない」

 他の女性陣も立腹しているのが分かるし、謝るしかなかった。俺は何とはなしにセリーヌを見たんだが、彼女の表情は普段のまゝだし、ガエルも同じだった。こいつ等時間という概念を知らないのか?

 女性陣から俺はねちねち嫌味を言われたが、勿論反論しなかったし、黙って非難を受け入れた。


ベトナムのビール、”333”はBGIの”33”が由来です。この会社はフランス資本で、ベトナムでの権益が紛争で失われ、アフリカに活路を求めたとの事です。機会があれば再度ベトナム進出も考慮するらしいです。ですが、既にアフリカで確固たる地位を築いた会社が競争の激しい東南アジアに出て来ますかね?

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