4話
上半身裸で街を闊歩していると、歩く人たちの好奇の視線に晒された。悪目立ちしているのがわかったため、早々に服を買うことにした。
「出来るだけ頑丈な服をくれ」
「……なんでお前さん裸なんだ?」
「いきなり魔法を撃たれちまってさ。着てた服もマントも燃えかすになっちまったんだよ」
俺がありのままを話すと、店主は冗談だと思ったのか小さく笑った。
「なら耐火製の服にするか?」
「いんや。普通のでいい。インナーと合わせて厚手のコートもくれ。そろそろ寒くなってくる時期だしな」
「あいよ。持ってくるからちょっと待ってろ」
服屋の店主はすぐに目当てのものを持ってきた。
仕事が早いのはいいことだ。多めに金を払い、俺はその場で服を着る。
「おい。これじゃ多すぎるぜにいちゃん」
「まあ取っておいてくれ。こんな田舎の街じゃ実入りも多くないだろ?」
小さく頭を下げる店主に手を振り、俺は目的の店へと向かう。
兄であるクリスは街に出ているとシャーリーは言っていた。
きっとあの兄の事だから酒場や娼館だろうと当たりをつけて、まずは酒場へと向かうことにする。
街一番の酒場に着くと、何も気にせずに扉を開ける。
そしたら酒瓶が顔面に飛んできたため、俺は難なくそれをキャッチする。
「おいおい。入った途端に酒瓶を投げつけられるなんて、どうなってるんだ?」
酒場のカウンターにいる店主に尋ねる。
どうやら客同士が取っ組み合いの喧嘩をしている様で、その流れで俺に酒瓶が飛んできたらしい。
「悪いな。だが、見ての通りだ」
「楽しそうで結構だな。この酒はただで貰っていいよな?」
「迷惑料としちゃ安いもんだ」
酒場の店主は一切笑わずにグラスを拭いている。
「──。美味いなこの酒。割といいやつなんじゃないか?」
「店では二番目に高い酒だ」
店主の言葉を聞きながら瓶を傾ける。
「そりゃ悪かったな。じゃあ礼に止めてやるよ喧嘩」
「この辺じゃ有名なごろつきだ。因縁つけられると面倒なことになるぞ?」
「この街からはすぐに離れるから問題ないさ」
それだけ言って、俺は床で掴み合っているうちの一人の頭に酒瓶を思い切り叩きつける。
一瞬で力なく倒れ込んだ男に、もう一人の男が驚いた目で見た。
大人同士だと思っていたら、どうやらおっさんと若い男だったらしい。
目を見開いて口をぱくぱくとさせる若い男と、視線を合わせるために腰を落とす。
「なんで喧嘩してたんだ?」
「あ……? お、お前には関係なっ!?」
質問に答えなかったので、軽く額を小突いた。
「テーブルもめちゃくちゃだし酒が溢れてる。掃除しなきゃいけない店主の気持ちになった事があんのか?」
「いきなり何すんだよ!?」
額を抑え、顔を真っ赤にしながら高い声で怒る青年。
顔をよく見ると随分と中性的な顔立ちをしている。貴族のマダムにでも紹介してやれば喜びそうだ。
「いいから喧嘩してた理由を教えろよ?」
「……こいつが悪いんだ。僕の友達を恐喝して、その子が大切にしていたブローチを盗んだ」
「ほう。それを取り返すために喧嘩してたのか?」
「……ふん」
見た限りでは体格も細いし、喧嘩も劣勢だった。無謀だと言わざるをえないが、心意気は気に入った。
「こいつがそのブローチ持ってんのか?」
ごろつきの男のポケットやらを調べるが、そこには銀貨やらゴミが入ってるのみで装飾品の類は見つからなかった。
「いや、多分こいつのアジトにあるんだ……こいつを懲らしめて持って来させようとしてたんだけど」
「なるほどなあ。じゃあ、俺がブローチを取り返すのに協力してやるよ」
俺の言葉に青年は驚いた。
「な、なんであんたが? というかあんた誰なんだ? 突然割り込んできて」
「俺はただの旅人だよ。まあいいや。こいつ起こすか。あ、その前に縛っとこう」
酒場の店主に貰った縄で手を縛り、回復魔法を使ってごろつきを治す。
「あんた魔法使いだったのか……?」
青年は呆然とした瞳で俺を見てきたが、その理由はなんとなく理解できた。
この街では魔法使いは珍しいだろう。特に白魔法と呼ばれる回復魔法の使い手は。
目を覚ましたごろつきは頭を振りながら辺りを見渡す。
「てめえか!? いきなり人の頭をぶん殴ったのは!?」
「そうそう。それでこの青年が聞きたい事があるんだと。教えてやってくれよ」
「エミリーのブローチをどこにやったんだ!? 答えろクズ野郎!」
ごろつきの襟を掴んで吠える青年。
「ちっ。お前、あの女のツレか? ブローチなら俺らのアジトにあるぜ」
縛られているとはいえ気前よく教えてくれるのだな、と感心していると、ごろつきは下品な笑い声を上げながら続ける。
「アジトの場所はお前らにはわかんねえだろ? 案内してやろうか?」
青年はごろつきの腹を蹴ると立ち上がる。
「さっさと案内しろ!」
「ぐっ……てめえ覚えてろよ?」
立ち上がったごろつきを急かす様に、後ろから蹴り付ける青年。彼はふと思い立った様に俺のことを見る。
「そういやあんたの名前は?」
「俺か? アレンだ」
「ふうん」
自分で名前を聞いてきたくせに興味もなさそうな青年に、俺は礼儀として問いかける。
「お前の名前は?」
「ネルだ。協力してくれるって言ってたが、本当にいいのか?」
「いいって何がだ?」
「いや、あんたには関係ない事だろ? あんたを見てればわかるよ。剣を帯びてるし、まともな格好をしているから身分の高い人だろ?」
「まあ、今はまだ?」
まだ戸籍から抜けていないし一応は男爵家の次男だ。王様から一代限りの騎士爵も貰ったし、一応は貴族と言ってもいいだろう。
だが、正直身分なんて興味はなかったため、捨てられるなら捨ててしまいたいとさえ思っていた。
「今はってなんだよ? なんか訳ありなのか?」
「そういうわけでもないんだけどな。まあ俺がお前に協力してやるって言ったのは単なる暇潰しだから安心しろ」
「暇つぶしって……」
「ああ。あと、人探しをしてるから、そいつらのアジトに行けば教えてくれるかもしれないだろ?」
「ううん……まあわかった。それで納得してやるよ。僕も余計な事を知って面倒ごとには関わりたくないからな」
「それでいいさ。じゃあ行こうぜ」
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