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3話




「このビスケット美味いな。メイド長が作ったのか?」


「あ、いえ。それは既製品で……」


「そうか……残念だ。あの雑巾の搾り汁みたいな味のビスケット。また食いたかったんだけどな」


「……あ、あのアレン様……その節は誠に申し訳ありませんっ……私としましてもクリス様に言われて仕方なく」


「メイド長はビスケットと、チョコレートはどっちが好きだ?」


「は?」


 質問の意味がわからないといった風に、メイド長は目を丸くする。


「だからビスケットとチョコレートはどっちが好きなんだ?」


「あ、そ、それでしたら私はビスケットの方が」


「──趣味が合うな」


 俺は座ったままメイド長の脛を蹴り抜き、その骨を砕く。


「うぎぁぁあ!」


「どうだ? 美味いだろ? もう一生忘れられない味になったんじゃないか? これからはビスケットを見るたび、俺のことを思い出してくれよ」


「うぐっ……うう」


 俺はメイド長の髪を掴むと、その目を見る。


 恐怖に引き攣った瞳だ。戦争中は何度も目にしたものだが最早なにも感じなかった。慣れというものは本当に怖い。


「母さんはどこだ?」


「あ、ぐ……し、しりません」


「おいおい笑わせるなよ。お前が知らないはずがないだろ?」


「ぐぎゃあぁ!」


 折れ曲がった脚を掴んで、関節とは逆方向に引っ張ってやると、メイド長は発狂した様に悲鳴をあげる。


「母さんがいる場所を教えてくれたら、足の怪我も治してやるよ」


「うっ……言わなかったら……?」


「まあ脚を切り落として食わせるかな? もちろんビスケットにしてな」


 俺の言葉を聞いて、メイド長は青ざめた顔でぶるぶると震え出す。


「……中庭の……花壇にいらっしゃいますっ……」


「ありがとう。教えてくれて」


 メイド長の脚を綺麗に治して、俺は残りのビスケットをつまみながら客室を出た。



 ――――――――――



 中庭の花壇に近づくと、そこには武装した集団がいた。


「お、我が家の騎士たちか。お勤めご苦労」


「……アレン様……どうかお引き取りください」


「母さんは? どこにいるんだ?」


 辺りを見回すが、騎士たちの姿しか見えない。


「イザベラ様が酷く怖がられています。これ以上屋敷で暴れる様なら、私たちがお相手します」


「困ったな。そんなに甲冑着込まれてると、まともに刃が通らないんだよな」


「アレン様っ……止まってください!」


 俺は無造作に騎士へと近づいていく。騎士の数は三人。母親の護衛だとすると、きっと精鋭だろう。


「そんなに喋ってていいのか? もう間合いに入ってるが?」


 俺の言葉を聞いて、緊張感に耐えられなくなったのか、一人の騎士が斬りかかってくる。


 その攻撃は見えていたが、俺は敢えて避けなかった。


「な……なぜっ?」


「いきなり斬りかかるなんて、お前どんな教育受けてるんだ?」


 肩口を切り裂かれたが、骨で止まった様だ。俺はそこで回復魔法を使う。


「くっ……なぜ抜けない!?」


「抜けないだけじゃないぞ」


 再生していく肩の肉に押しつぶされる様に、剣の刀身がバキバキと折れる。


「馬鹿なっ……一体なにが起きたんだ!?」

「これが回復魔法だと……?」

「化け物かっ……?」


 騎士たちは一斉に驚愕に目を見開いているが、こんなので驚かれても俺としては気まずいだけだ。


「とりあえず母さんに会わせてくれよ。何もしないからさ」


「そんな言葉を信じるとでも……?」


「──じゃあ死ぬか?」


 少しだけ魔力を放出して騎士たちにぶつける。咄嗟に魔法に対する防御もできない騎士三人は、その場に膝をついて嘔吐する。


「俺も人殺しがしたいわけじゃないんだよ。まあクリスは別として、母さんにはちょっと聞きたい事があるだけだし」


「ごほっ……」


 返事もできないほど衰弱している騎士たちを見て、俺は頭が痛くなった。


 精鋭騎士でこの程度じゃ、あまりにも実力不足という他ない。


「魔力酔いはじっとしてりゃ治るからそこで寝てろ。じゃあな」


 騎士たちの追い縋るような手を無視して、俺は花壇を進んでいく。


 ――――――――――


「やっと見つけた」


「ひぃ!?」


 目の前にいるのは母親であるイザベラだ。くすんだブロンドの髪はところどころが跳ねていて、慌てて屋敷から飛び出したのか、まだ寝巻き姿である。


「久しぶりだな母さん。元気にしてた?」


「あ、あんた。なんでここに……? き、騎士たちは何をしているの!? はやくこやつを捕えなさい!」


「悪いけど騎士たちには眠ってもらってる。それより母さんに聞きたいことがあるんだけど、俺って本当に母さんの子なのか?」


 俺はずっと気になっていた。俺の黒髪は父親とも母親とも違う髪色だし、それに攻撃魔法を使える両親の元に生まれたはずの俺は、回復魔法しか使うことが出来なかった。


「それを聞いて、どうするつもり?」


「別に。ただ気になってさ。戦争に行っている時に聞いたんだが、回復魔法ってのは両親のどっちかに適正がないと発現しないって話を耳にしたんだよ」


「……そうよっ……あなたは屋敷の前に捨てられていたの! なのに、育ててもらった恩をこんな形で返すなんてねえ! 所詮は親もわからない卑しい生まれの子ね! こんなことなら育てるべきじゃなかったわ!」


「捨て子か……そりゃいいな。あんたらと血が繋がってないって事は手間が省けた」


「な、なにを言って」


「いやぁ。戸籍から抜けるのって結構手続きが面倒くさいんだよな。だから、血のつながりがないってのは俺としてはありがたいばかりだ」


「死ね!」


 火の玉が飛んできて、目の前が真っ赤に染まる。母親がさっきから魔法の準備をしているのは分かっていたため、別段驚きはないが。


「はっはっは! ざまあないわね!」


 火炎に包まれ、身体が焼かれていく感覚。懐かしい感覚だ。俺は炎に包まれたまま、母親に抱きつく。


「うぎぎぃいっ……!!!」


「……」


 そのままたっぷりと十秒間ほど一緒に燃えたが、イザベラはいつの間にか白目を剥いて気絶してしまった様だ。


 ぷすぷすと音を立てながら焦げた元母親を見て、俺は魔法を使って自身の身体を治す。


「まあ、シャーリーへの仕打ちはこれで許してやるか。あー熱かった。服が燃えちまったじゃねえかよ……」


 イザベラの放った魔法のせいでズボンしか履いてない状況になってしまった。これじゃおちおち外も出歩けない。


「まあ、どっかでまた買い直せばいいや。ちょうどいい。クリスも外にいるんだろうしな……」


 去り際に母親であった女性に回復魔法をかけたが、よほど身体を焼かれるのが辛かったのか目を覚まさなかった。





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