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エレメント・メメント  作者: 廣瀨 玄武
第一章【万物は流転する】
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7.意欲的サポート

クラック入隊試験を受けることになった蓮。

だが、試験の途中で事件が発生する。バケモノだ。

一同が急いで駆けつけるも、バケモノは着実に強くなっていた。


一方樹林は、宇宙にメメントを辞めさせようと話を持ち込むが──

「やってやりますよ!工場の為に!!!」

鼻の穴をおおきくして気張る蓮。

「...で、何をするんです?」

「まずは基礎体力を試す。」

央駆はどこから出てきたかも分からないボールを持つ。

「中当てだ!!」

うわ久々に聞いた!!という声が漏れそうな蓮。

「うわ久...任せて下さいよ!ええと」

「君が中だ。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「私たちがやるんですね...」

外野はくるみと宇宙。央駆は審判だった。

「3分間ボールに当たらず避け続けろ。」

蓮は指でクラッキングをして言う。

「さあ!いつでも来てくださいよ!!」

宇宙の全力投球からゲームが始まる。

「行くぞ!おるぁぁああああ!!」

速い。

放たれた弾丸は蓮に突進する。

蓮は見事に弾を避け、それはくるみの手元に落ち着いた。

「っ!なんて強いボール...まるでエレメント・ショット...!」

蓮のスタミナを減らすため、くるみはすぐに投げ返す。

「はっ!!」

平均より少し上くらいのスピードであったので、宇宙の弾丸ボールを避けた蓮にとっては遅いまであった。

「ふっ、こんなもんですか!!」

しかし双方のボールの速度差に翻弄され、次第に足が追いつかなくなっていく。

あと1分の時。

「まずい...!」

宇宙の豪速球が蓮に迫る。

蓮は少し飛び即座に右脚を少し前に出すことで重心を偏らせる。

倒れたが危なくないよう、左腕を曲げ地の反動を受ける。

宇宙のボールは蓮の上を通り過ぎた。

体が地面と平行になった蓮に、くるみのボールが丁寧に襲いかかる。

やや下向きの角度だったので、このままでは蓮にダイレクトアタックとなる。

少し先の軌道を予測し、ついていた左腕を中心に一回転した。

「おお...」

央駆は流石に感心した。

が、まだこのままでは支点の腕にボールが当たってしまう。

咄嗟の判断で腕を地面から離した。地面と手の間をボールが通過。

「ふう...。」

しっかりと足で立ち戻ることができた蓮だが、安堵の一息が宇宙のボールを踊らせた。

残り10秒。

スタミナの限界を迎えているにも関わらず白熱していく。

残り3秒。

「...くっ!」

宇宙は白い歯に思い切り力を込め、その力を右腕に注ぎ、ボールに乗せて放出する。

残り1秒。

蓮とボールの距離がわずか3cm程となった時。

「そこまで!!」

央駆の無駄に張り切った声が響く。

「痛っ!」

ボールが蓮の耳に直撃したが、痛みのもたらすその声が蓮を不安にさせた頃には、時間切れであった。

蓮はボールから逃げ切った。

「勝利、符裏 蓮!」

「ゑ...?あっ、やったああああああ!!」

「くっそおおおおおおおお惜しかったあ!!!」

「君の判断力と運動神経には思わず感心してしまった。次の試験だ。」

「バケモノを相手にする時、知識が必要となる場面が出てくる。」

「あのタンタルの時みたいなのか!」

「ああ。水上君は非常にそのあたりの知識があるようだ。」

誇らしげな宇宙。

「ひぇええ...てことは化学分野っすよね...。」

「もちろんだ。さあ、早速いくぞ!」

「第一問!」

「あ記述じゃないんすね。」

央駆が問題文を読もうとしたその時。


芳香。


「...ん?なんか良い香り。」

宇宙が何かの香りを嗅ぐ。

「お線香...?」

ただ漂うだけの香りならば良かった。しかし向こう側に見える森林が赤黒くなっているのを見ると、紅葉と言うには明らかに季節外れであったと考える。空気感が異常であったが故、一同は先程までいたクラックの敷地内から出た。

「ぼ、僕の試験は?」

「それよりもまず危機察知が第一だ。大きな事件や事故の前には小さな引っかかりがある。その事を頭の片隅に置いておきなさい。」

「そのままでは君は、追いつけない。」

そう言い放つ央駆を中心とするクラックは走り出す。

「バケモノならば近くに居るはずだ。」

くるみは一度立ち止まり常備しているノートパソコンを開く。

「...リンのバケモノ...!やはり森の方面です!」


この時、蓮は考えた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「絶対にやめさせてやるんだから。」

ほぼ走りに近い速度で宇宙のドラム教室へ向かう樹林。

「私がデートに...デートっていう体で二人になって、あの姿の事、戦ってた事を聞き出して止めてやる!」

「私の事覚えてる...よね。え、覚えてるよね。」

それまで当たり前かのように覚えているものであると思っていたが、別に幼馴染とかでは無く部活でしか関わっていなかったので(二年生の頃同じクラスではあったがあまり話していない)樹林は若干不安になる。

「そ、そんな事考えてもダメだよね!どうせ思い出すし...。」

と、まぶたの裏を見つめて自分自身と話し合っていたら何かにぶつかった。

「あっ、すみません───」

目を開ける。

「!?」

樹林の目が認識したのは、宇宙の姿だった。

「宇宙!?」


「よっ!久しぶりだな、樹林!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「どこだ!」

「確かここ周辺のはず...」

央駆の足元に一本のマッチが磁石のように寄って落ちてきた。

「マッチ...」

「司令官、これ...!」

くるみは央駆の足元のマッチから、西へ導く道を人差し指でなぞる様にさす。

マッチは複数本落ちており、まるでクラック一同をどこか訳の分からない場所へ手を振り誘うかのようにルートを形成していた。

「マッチの道...。」

「ちょっ...、」

一人動こうとする宇宙を止めるくるみ。

「行かないとなんも分かんないなら行くしかないだろ」

「バケモノの罠かもしれないでしょう。」

「だから行くんだ。罠なんて、自分の力に自信が無い奴が仕掛けんだよ...!」

宇宙がくるみの手を振りはらいマッチの示す薄暗い森の奥の方へ駆ける。

「ちょっと!」

「俺調べだけどな!!」

そう言って宇宙の姿は小さくなっていった。

「司令官...、」

「仕方がない。彼を一人にする方が危険だ。俺も向かおう。」

「くるみは...そこに居てくれ。」

「え?」

「彼が来るかどうかだ。」

「...分かりました。」

「また会おう」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

二人はベンチに腰掛ける。

樹林と宇宙の距離は近かった。

「宇宙はさ、こう...戦ってるの?」

予め用意していた質問をじっくり熟成させる術が見当たらず、あまり熱の通ってない問いをあまりにも唐突に投げかけてしまう。

宇宙は樹林の耳を見る。

「うん。戦ってるよ、バケモノと。」

「そっか...そうだよね。」

一瞬の沈黙。

「あのさ、」

「私と一緒に逃げようよ。戦うのなんかやめて。」

樹林が望んでいたのは、宇宙がメメントとして戦うのをやめることだけでは無かった。彼女のその提案には、そういう純度の高い愛らしい厚意はいくばくか散りばめられていたかも知れないが、それ以上に明確にヒロイン的展開の待ち受ける未来に対する淡い期待が含まれていた。


宇宙は黙り込む。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ここら辺か...?」

草を踏み、葉をかき分けて進む宇宙。

「水上君。」

央駆が追いつく。

「くるみさんは?」

「待っている、いずれ来る少年を。」

「なるほど」

何故かは分からないが、宇宙はそれ以上の話をしないでおこうと思った。

誰もいない筈の所から音がした。

バケモノのいることは分かっていたが、それを踏まえた上でもやはり"この場所には誰もいない"という認識が基本になっていたので、宇宙は驚いた。

央駆がすぐさま元素シューターを放つと、バケモノが現れた。

「こいつだ、向こうの森を燃やしたのは...!」

「おい、歩く環境破壊!俺が止めてやる!」

『元素プレイヤー!』

心做しか少し傷付いてそうなバケモノを前に、宇宙はスティックを取り出す。

『ネオン!象徴化(シンボライズ)!』

メメントのキックがリンのバケモノにヒットする。

対抗するバケモノは、マッチに火をつけて暴れ回り、周囲の木々にその赤を分けていく。

「メメント!」

『水素!エレメント・ショット!』

央駆が水素弾を撃つ。

溶液化(ディソリューション)!』

メメントはフロアタムを叩き、その弾の行く手を阻むようにプレイヤーを当てる。

すると弾は水になり、根本であるマッチを濡らす。

同様の手段で木々を消火していく。

「この一撃で、お前は死ぬ。」

メメントがスネアドラムを押そうとしたその時。


咳嗽。


「!?」

央駆が先程の火が生んだ煙で咳き込む。

メメントにその影響は無いが、このままでは央駆が一酸化炭素中毒になってしまう恐れがある。

リンのバケモノに生身の人間の様子が見えているのか見えていないのか定かでは無いが、そんな状況はお構い無しにマッチをに火をつけ暴れ回る。

『酸素!エレメント・ショット!』

央駆の手から離れた元素シューターから酸素を供給し続けるメメント。

しかし、弾切れになるのも時間の問題であった。

バケモノが力強いパンチをメメントに向ける。

メメントは攻撃に対応するが、元素シューターを持っているため片手は塞がっている上、右手はインの攻撃を受けた後遺症が残っている。少し前の中当てでも激しい反動を受けているはずであった。

『オスミウム!象徴化(シンボライズ)!』

メメントの左肩に青白い金属が現れる。

オスミウムの象徴化は大きな賭けであった。

防御の比較的硬い盾としてオスミウムの塊を発生させたが、所持する中で硬い方というだけありオスミウムは脆い。

加熱により酸素は供給されるが、毒性がかなり強いため、長時間の使用は央駆の体を蝕むかも知れない。

だが、守りに入ってしまったメメントはこれしか無かった。

毒素が溢れた空間。

苦しむか死ぬかの二択を彷徨する中、いよいよ元素シューターが弾切れとなった。

最後の希望─否、絶望では無いもの(絶望の源泉と成り得るものではある)と呼べる壁もいよいよ限界を迎える。

「ここまでか...?」

後ろを向きそうになるメメント。

何も声を発せなくなってしまった央駆。

絶望が直接必殺技を決めようとしたその時。


足音。


表現しがたい希望の光が焦りとともに迫り来る。

咳き込みながらやってきたその男の名は、



符裏(フウラ) (レン)

【所持スティック】

〈クラック〉

水素、炭素、酸素、フッ素、ネオン、アルゴン、カルシウム、イットリウム、タンタル、タングステン、オスミウム、ホルミウム

〈イン〉

謎のタム状アイテム

〈チュー〉

リン、セレン、ヨウ素 (ヨウ)


NEXT▶8.刹那的モメント

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