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エレメント・メメント  作者: 廣瀨 玄武
第一章【万物は流転する】
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4.電撃的エモーション

鍾乳洞。

絶体絶命のクラックの前に、戦士メメントが目を覚ます。

地獄と化した鍾乳洞でクラックは人々を守り抜くことができるのか。


一方、光太郎に魔の手が迫る。

クラックは戦った。

クラックは抗った。

ばら撒かれたスティック。

落ちた元素シューターを踏むカルシウムのバケモノ。

その場に居た全ての人を逃がすのには成功したが、

手持ちの全てのスティックは弾切れを起こし、たった二人で構成されるクラックは壊滅寸前だった。


「どうやら...ここまでのようだな...。」

央駆は諦めの独り言を吐いた。

「やっぱり、強い...、」

くるみは目の前のスティックに手を伸ばす。

掴んだとて何も無いのは分かっていた。

バケモノが鍾乳洞を出ようとする。

「待て...っ!」

凶暴であるバケモノを世に放つ事がどれだけ危険かはよく知っていた。

そんな事を物ともしない白の悪夢は鍾乳洞を出た。

央駆らは目を瞑った。


すると、


白の何かがとてつもない勢いで返ってきた。

クラックの二人は目を開いた。

「!?」

地に転がるバケモノを塞ぐ霧から、シルエットが現れる。

そのシルエットはぼんやりと怪しい光を伴っていた。


「逃がさない。」


メメントだ。

「メメント...!」

央駆は手を力強く握っていることに最後まで気付かない。

「お願いメメント!」

くるみがメメントに言う。

「あのバケモノを倒して!」

メメントの本質が正義と言える確証は無かったが、勇気を出して信じたくるみはそのまま倒れた。

メメントは、深く頷く。

カルシウムのバケモノはメメントの連続パンチを食らい、よろける。

バケモノはメメントにキックを繰り出そうとする。

『水素!象徴化(シンボライズ)!』

メメントの左肩に水の入ったビーカーが装着され、バケモノの向ける足の裏に手を当てる。

するとバケモノの足は溶けていき、キックが中断された。

ボロボロになったバケモノ。

クラックは勝利に淡い期待を抱いた筈だ。

現実はそうもいかず、

バケモノは残った片足で地面を二回叩く。

その瞬間。溶け落ちた鍾乳洞の液から一体、何かが誕生する。

カルシウムのバケモノだ。

「二体目、……?」

しかし、その頃にはメメントの技との反応により一体目が溶けていた。

「キリがない。」

メメントが呟く。

一体を倒しても鍾乳洞からの液でまた生成されるようだ。増殖となると尚更勝ち目は無いだろう。

案の定、増殖した。

三体目、四体目、五体目、

増え続けるバケモノ。

効率的な対抗策が思い浮かばないメメントは、スネアドラムを叩きスティックをはじく。

『ネオン!メメント・インパクト!』

管を伸ばし四体目のバケモノに突き刺す。

九体目、十体目、、

『ネオン!メメント・インパクト!』

二十五体目、二十六体目、、

『ネオン!メメント・インパクト!』

『ネオン!メメント・インパクト!』

メメントは体力の限界を迎える。

液化した鍾乳洞の原料が無くなるに伴いバケモノの増殖は止まったが、その頃にはメメントは横たわっていた。ぼんやりと太陽の光が見えた気がした。

バケモノが外に出ていこうとする。

「…ッ!」

ボロボロの央駆は徐々に小さくなっていくバケモノの像を掴む。

そこに感触は無かった。

救えなかった。

央駆はそう思っていた。

バケモノから皆を守る。その一心で司令官として生きていた。

明るい世界でいて欲しかった。

そんな男の最期は、この薄暗い洞窟だったようだ。


だが、まだ諦められない。

まだ生きられる。生きさせられる。

足が動く。

地を這う。

その手は異形の脚を掴んだ。

バケモノは蚊を払うように付きまとう手を投げる。

足と手が、手と脚が離れる。

「うおぉ…ッっ!!」

が、央駆は再び這い、掴む。

噛む。叩く。殴る。

払われる。

央駆はいよいよ首を掴まれ、飛ばされ、転がされた。

限界のメメントの近くで限界の央駆が塞がれた空を見上げに来る。

「……。」

何も言えず見ているメメント。

「…メメント……。」

央駆は問う。

「お前が怖いのは、俺だけか……?」

斜め下から投げかけられる質問に一時停止しつつ、

「…そんなことは、無い。」

応える宇宙(ソラ)

「ふっ…」

珍しく少し微笑む央駆。

「ならば…!」

立ち上がり走り出す。

「うおおおおおおおっ!!」

バケモノに体当たりをする。


「俺はヒーローであれる…!!」


央駆はバケモノを殴った。

殴って、殴って、殴り続けた。

そして、バケモノは爆発した。

「…!?」

央駆は、央駆の力でバケモノを倒した。

それは間違いなく、央駆の勇気によるものだった。

司令官のその背中は、宇宙を立ち上がらせた。

「さあ、行くぞ。」

央駆とメメントは横に並ぶ。

メメントがパンチを繰り出し、

『ネオン!メメント・インパクト!』

バケモノを貫く。

『ネオン!メメント・インパクト!』

爆発。あと一体。

メメントはプレイヤーのスティックを抜き、央駆に託すように手渡した。

確かに受け取った央駆。

「...これで決める!」

元素シューターにネオンスティックをセット、討つ。


『ネオン!エレメント・ショット!』


央駆の一撃で、カルシウムのバケモノは全滅した。

「倒…しッ、た……」

くるみのいる方へ歩み、倒れる。

目覚めたくるみは見たことの無い姿の司令官を支える。

「…やりましたね。」

元の姿に戻った宇宙は、央駆と目を合わせる。

「君は…凄い…。」

央駆はどう足掻いても必死の後の顔だった。

元素プレイヤーを握りしめる宇宙。

スティックを回収しようと自然と手を差し出す央駆だが、その手の未来は少し違った。


「俺、クラックに入ります。」


「え?」

良いのか。と。勧誘したのは確かに自分自身だが、どこか止めたくなるような間であった。

「しかし、」

有る事を期待もしていない逆説を封じ、謎の焦りを見せて言う央駆。

行き詰まったであろうその先の言葉を、見事宇宙が塞いだ。

「俺、動いたんだ。」

「動いた?」

やや下向きだったくるみの鼻先は少し上を向く。

それとは逆に、宇宙の鼻先は一時的に下を向いた。

「うん、バケモノが現れたって聞いて体が勝手に…。義務でもないのに、行かないといけない気がしたんだ。走らないといけない気がしたんだ。」

「そうか、そんな気持ちにまで…。」

反省する央駆だが、

「いや、だから、ありがとう。」

一拍置いて再び話し始める宇宙。

「二択なんかじゃなかった。なんで俺はドラムが好きなのか…。それはきっと、誰かを支えたかった、誰かと手を繋ぎたかったからなのかもな!」

「水上君…。」

「頼む!俺をクラックに入れてくれ!」


「…解った。」

水上(ミズカミ) 宇宙(ソラ)、今から君は…クラックだ。」


その一言が、地球の未来を覆した。

隠れていた樹林は、その一部始終を見ていた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「あの男…」

インはある屋根の上で横になっていた。

「やはり、そうなのだろうか…?」

黒目を空に向け宇宙に関する考察をするも、それ以上の中間地点の旗が見当たらなかったため、考えるのを諦めた。

しかし何も考えていなかった訳では無い。

決して生きる事をサボっている訳では無い。

あるものを見たインはえくぼが見える程度の笑みを浮かべ屋根から下り、威勢の良い猫背で歩き出す。

「スーパーおとりターイム。」

インは後ろから少年の首根っこを掴み、さらに笑った。

「さあ!この方はどうでしょうか!?ヨウ!!」

どこかから声が出される。

「いいじゃねえか!このクソガキをバケモノにすれば、メメントは必ず現れる!」

"Y"のスティックで叩かれた光太郎は、

イットリウムのバケモノに変化した。

「ふふふ…必ず神に出会わせるのです!!」

「さあ、行きましょうか!」

カモの子の様について行くバケモノ。


それの歩く姿は子どもとは言え、明らかにヒトではなかった。



「ソラ兄ちゃん!...兄ちゃん!!」

【所持スティック】

〈クラック〉

水素、炭素、酸素、フッ素、ネオン、アルゴン、カルシウム、タンタル、タングステン、オスミウム、ホルミウム

〈イン〉

イットリウム、ヨウ素


NEXT▶5.人間的ブレイス

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