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エレメント・メメント  作者: 廣瀨 玄武
第二章【同じ川に二度入ることはできない】
18/44

17.支配的ミズガルズ

2025年。

街の広場で現れた怪物が子供たちを襲う。

怪物の名は【バケモノ】。

【怪奇物質特別対抗部隊=クラック(CLAQUE)】の司令官、奈良(ナラ) 央駆(オーク)は広場に現れたバケモノを倒そうと、青年に協力を求める。


とある理由で青年はティンパニ型デバイス【元素プレイヤー】とドラムスティックのような【エレメントスティック】を手にし、青白く光り輝く戦士【モメント】として今も戦いに身を投じているが...

「ふふふ…終わりですよ、クラック。」


(ガイネン)が荒れ狂う。

「我こそが神。万物を創造し、万人の形を変え、万国を支配する。牙を向ければ溶かす迄。この掌で貴様らは生きている事を忘れるな。」

「く…っ!」

調律済みのダイナミックタムを使用する。

象徴化(シンボライズ)!!』

「うおおおおおお!!」

メメントは立ち向かった。

が、敵わなかった。やはり神は異常だった。

「なあ、逃げよう!」

「だが…っ!」

その時。


神が子を、

たった独りの人間の子を殺した。


膝をついた男の前に転がる玩具。

それは何よりも奥が深く、難しく、楽しい。

そんな玩具は焼き跡が付いていた。

「…お前だけは許さない。」


男たちは数本のスティックを奪い、"あの日"へ向かった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

シンバルを叩くところから音楽が始まる。

ハイハットでリズムを決定しスネアドラムで刻む。

やっぱり心地良い。ドラムは僕を表現してくれる。

呼び鈴が鳴る。

「ソラ兄ちゃん!」

「よかった!やっぱり来てくれるって信じてた!」

光太郎。妙に僕と仲良くしてくれる。

友達が少ないので助かった。

どうやらコンクールが近いらしい。

ドラム教室の講師をやっていた僕は、彼の腕を見て、勉強がてら行くことにした。


「そうだ、この前啓太君に会ったんだ!」


水の入った大きめのペットボトルを、腕を真っ直ぐにして肩の高さまで持ち上げる。

「…きついー」

「でもこれでドカドカかっけえドラムが叩けるんだよね!」

歯を食いしばりながらトレーニングをする光太郎。


「ねえ、」

僕は声をかける。


光太郎は返事をしなかった。

僕はただ、黒い目で、穏やかに見つめていた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

とある河川。

ダンボールの上に一人。

「俺は何の為に…」

ティンパニ型の元素プレイヤーに問う。

大地は宇宙の心臓を奪って、恩人のメイプルを蘇らせるために戦士モメントとして戦っていた。

だが心臓を奪った際に宇宙の遺体は消失し、以降メイプルが姿を現す事もなかった。

元素プレイヤーを渡した謎の医術師アルトも失踪し、元素プレイヤーを返すこともできない。

メイプルは未だ現れないと言えど人体蘇生という禁忌を犯してしまった為、両親の元へ安易に帰る事もできない。

「こんな筈じゃ...」

詰む大地の耳は、砂利の音を捉えた。

央駆だ。

「あんた」

「奈良 央駆、クラックの所長だ。」

「どうした?あんたの所の水上宇宙は俺が殺したんだ、あんたの目の前で...。」

このとき少し、大地は死を望んだ節がある。

が、央駆の返答はその利己的な望の領域に触れ込むことすらしないものだった。


「確かに君のせいでメメントは消えてしまった。」

そうだ。俺のせいで。

「パスワードを知っている君は元素シューターの他、施設内のホルマリン漬けにされたメイプルの遺体を奪い取った。」

その通りだ。

「なぜパスワードを知っていた。」

「アルトに教えてもらったんだ、医術師の。」

「奴は何者だ。知っている限り全て吐け。」

「俺もあまり分からない。俺はアイツから元素プレイヤーを受け取った。ティンパニ、ギロ、そしてトライアングルの形をした三つの元素プレイヤーを。」

大地のプレイヤーにはそれぞれ機能があった。

ティンパニはモメントに姿を変える機能。

ギロは必殺技を発動する機能。

トライアングルは特殊能力を発動する機能。

「あのスティックは何処から。」

アルトはキセノンとクリプトンに加え、アクチノイド系列とランタノイド系列のエレメントスティックを初めから所持していた。

しかし、央駆を始めとするクラックはそれらを本部の保管していないだけでなく、バケモノすら現れていなかった。

「それは...俺にも分からない。」

大地は続けた。

「ただ、アルトも宇宙の命を狙っていた。宇宙の心臓を奪う事の利害が一致し手を組んだ。その時にプレイヤーを渡されたんだ。」

「どうして彼の心臓を狙った?」

「メイプルさんがドナーになってくれていたお陰で今俺は生きてる...ダイナミックレンジのあの日、俺は生死を彷徨した。あの人がいなかったら俺は。」


「ふざけるな!!!」


央駆は大地の胸ぐらを掴んで、殴った。

その握りしめられた右手は怒りに震えていた。

「人は...死ぬんだ!」

大地には央駆の歯ぎしりがハッキリと聞こえる。

何も言えなかった。

自分でも解っていた。命を与えてくれた人の命を蘇生させる事が、どれほど尊厳を破る行為であるか。どれほど人らしくない行為であるか。

どれほどメイプルが望んでいない行為であるか。

「お前がやっていることは全部殺害だ!!」

「人を殺す事だ!貰った命を還すという事はその人の決意と過去を殺す事だ!人を殺す事だ!」


かつて、央駆はメイプルの死を目の当たりにした。

初めてバケモノと対面したあの日。

ドラムスティックを装填した事よって覚醒した元素プレイヤーを最初に戦闘で使用したのは、メイプルだった。

だが、何故かプレイヤーはメイプルを拒絶するように爆発を起こし、彼はバケモノと共にこの世を去った。

これだけだ。あの一瞬でメイプルという男は死んだ。プレイヤーが覚醒しなければ。バケモノが施設に現れなければ。彼は今もクラックで生きていたかも知れない。

央駆は思い出される悲しみによって不意に怒りを中和される。


弱い手が、胸ぐらを離した。

央駆は少しの沈黙の末、本題に入る。

「...少しだけ愚かになる。」

若干怯えてしまった大地は文脈に沿わない発言の違和に耳を傾ける。

「何...っ、ですか」

もう、世界を守る術はこれしか無かった。


「クラックに入らないか...?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「なあ、チュー。」

ヨウに話しかけられる。

「なんでインは死んじまったんだ。」

難しい質問になるべく答えてみようとする。

「頭が固いから。」

そう表現してみた。

「インは良い子だから、尊厳を守っちゃうのよ。」

「尊厳?」

「ええ。ほら、Mr.クーロンは亡くなる時私達アイソトープにダイナミックタムを完成させるよう言ったじゃない。身体が消えても意思疎通が出来るようにって。インは生命よりも信仰を優先したのよ。」

「モリとして…。」

「チューは違うのか?」

「そうよー、私はルールなんて守れないわ。セレンの力でコピーした自分をメメント・モリに殺させるなんて。人のする事じゃないでしょう?」

「…確かにそうだな。」

「私達はどうせ悪者呼ばわりなんだから、今更よ。」

「…そう、だな。」

「まあ、でもインは少し怖かっただろうね。自分の死の未来が脳裏を過ぎった時の感覚は、何も信じさせてくれないと思うわ。きっと死ぬ瞬間に限ってインは誰も信じられなくなったに違いないわ。」

ヨウが(ガイネン)の墓を垣間見ているのに気づく。

「さて、あの子は今元気に暴れてるかしら?」


「水銀。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

街の広場。

Hg=水銀のバケモノが暴れている。

先程まで笑顔だった子供たちは恐怖を浮かべて逃げ回る。

水銀のバケモノは子供に触れる。

子供は嘔吐を繰り返し、頭痛と目眩で倒れ込む。

央駆が駆けつける。

「バケモノ…!」

遅かった。

「お前が奈良 央駆だな!?ぶっ殺してやる!!」

バケモノは、喋った。

「喋るだと。」

央駆は何かヨウが手を加えたと思った。

「ヨウが…?そんなに頭がいいのかあいつ。」

決して罵倒では無い。

「何を言ってる?こいつがどうなってもいいのか?」

水銀に触れると水銀中毒となる可能性がある。

目の前の子供を救おうと立った足は少し怯んだ。


『バケモノが現れたって聞いて体が勝手に…。義務でもないのに、行かないといけない気がしたんだ。走らないといけない気がしたんだ。』


央駆の頭の中で、宇宙の声が再生された。

「なんで…なんで俺はこうも…っ、」

地面を叩く。立ち向かうことは不可能では無かった。だが気が付けば、守る対象が自分ばかりになっていた。

央駆は己を戒めるのみである。

「水銀…!」

駆けるは大地。

大地はティンパニのプレイヤーを取り出す。

"Ac"の文字が刻まれたスティックで、なぞる様にティンパニを叩く。


象徴化(シンボライズ)!』

『モメント・アクチノイド!!』


設置されたシリーズインジケーターが【A】を指す。

モメントが応戦する。

「どういう訳だ!クラックってこんなもんなのか!?怪奇物質特別対抗部隊だとか舐めたことを抜かすな、そこで跪いているお前しか見てないぞ。」

央駆のどこかに穴が空いていく。

「よこせ!」

央駆から、水素と酸素のスティックを奪う。

『水素!エレメント・ショット!』

『酸素・スマッシュ!!』

水を生成し、子供とバケモノを引き離した。

「どうせすぐ水で洗えばいい。バケモノだから症状が加速しているが...洗わないよりは。」

央駆は、そんな判断を出来なかった。

「終わりだ。」

『トリウム・クラッシュ!!』

ギロから放たれし電撃でバケモノは敗れ、水銀のスティックが落ちた。

「モメント…。」

「さっきの話の続きだ、クラックに入ってやる。」

大地は、クラックの一員となった。

「さあ…」

「スティックを全て渡せ。」

大地が掌を上にして央駆へ突き出す。

央駆は黙って、全てのスティックを大地に渡した。

少しだけ口の開いた央駆の面の前を、鎌が通る。

「!?」

両者後ろへ下がった。


「下方大地に渡すとは...。」


鎌を持った男はコマを回す。

コマの芯棒は央駆を指す。

「…あーあ。これは尊厳破壊が止まらない。」

「テノール…。」

「覚えていたのか、この俺を…。チューニングキーは渡していないだろうなあ」

「ああ、ある。」

央駆の手元にはテルビウム製のチューニングキー。

「全て渡せと言ったはず」

迫る大地に割り込む。

「どうした下方大地。ソプラノに脅されてそうだな。」


図星。


「どういう関係なんだ…?」

「さあ、。どういう関係なんだろうねえ。生憎我々は互いに興味が無いもんで。」

鎌を引きずり、去る。

「待て!アルトはどこだ…?」

深くため息をついて頭を搔く。

「ここ。」

テノールがさした人差し指は、(そら)に向いていた。

「え…?」


「あ、いたいたー!!」

ソプラノがやって来る。

「ソプラノ。下方大地に何を吹き込んだ。」

「なーにもー??ただの好奇心だっ、よー!」

「まあ、何でもいい。…2人に忠告だ。」

大地と央駆がテノールに注目する。



「メメントは、生きている。」

【所持スティック】

〈クラック〉

謎のチューニングキー(テルビウム)、水素、炭素、酸素、ガリウム、フッ素、ネオン、リン、アルゴン、カルシウム、スカンジウム、セレン、イットリウム、ニオブ、モリブデン、ロジウム、アンチモン、タンタル、タングステン、オスミウム、水銀、鉛、コペルニシウム、ホルミウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、アクチニウム、トリウム、ウラン、ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウム、バークリウム、カリホルニウム、アインスタイニウム、フェルミウム、メンデレビウム、ノーベリウム、ローレンシウム


〈アイソトープ〉

ヨウ素 (ヨウ)


NEXT▶18.死活的アンサンブル

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