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エレメント・メメント  作者: 廣瀨 玄武
第一章【万物は流転する】
17/44

16.再現的フィナーレ

第一章、完

「ニオブがやられちまった…」

仄暗い倉庫の中で、ヨウはチューの事を考えていた。

壁の一部が剥がれ、電球の根元は錆び、埃の舞うその倉庫こそ、二人が出会った場所だった。


「また負けちまった…。」

水素を始め、様々なバケモノを生み出してクラックに立ち向かったが、敗北の連続だった。

「これじゃ俺があの墓に…(ガイネン)に殺されるのも時間の問題だ。」

実績といえば、水素のバケモノの際にクラックの人間が死んだ事だけだったが、それもまた向こうが原因で起こった事故に過ぎなかった。

ヨウが地面を蹴る。

煽るようにして舞い踊る埃を見て、どこか腹を立てる事しかできなかった。

ほんのりと騒ぐ雲を眺めどん底に沈む中、倉庫に足音が響き渡る。


女性だ。

「貴方が、ヨウ。」

自分の名前を知っている事に驚きはしたが、ああ、モリかと直ぐに理解できた。

現状を素直に話した。話せた。

「そう。貴方は手段が悪いわね、人間は美しい物に惹かれるのよ。気合と物量ではどうしようも無いの。」

そう言うと彼女は、

「美とは欺き。どれだけ綺麗な仮面を被れるか。」

チューは"Se"=セレンのスティックを使い、自分のコピー体を作って見せた。

「大丈夫。全部私が転がしてあげる。」


「全部私が転がしてあげる。」

ヨウはその言葉を思い出し、光の方へ走った。


眼が明るくなっていく。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

コンクールまで残り3日。

結局、宇宙は教室に姿を表さなかった。

光太郎の父は何も連絡が来ない事に疑問を抱き電話をかけてみるが、応答がない。

「何かあったのか…?」

光太郎がリビングで手を動かしている。

父は夕飯の調理を中断し、光太郎へ声をかける。

「何書いてるんだ?」

「手紙。」

「誰に?」

「ソラ兄ちゃん。」

父は察した。コンクール終了後、個人で渡すつもりなのだと直ぐに理解できた。

「来てくれるのかなあ。」

父が顎をやや上にしてぼやく。

来るよ。絶対。

光太郎の拙い字からは、そんな意思がはっきりと流れている。

午後5時30分。

母も子も好きなテレビ番組の放送する時間帯だ。

しかし、部屋は沈黙を保っていた。

その沈黙には、確かな温度があった。

父はキッチンに戻り、再びコンロの点火スイッチを捻った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

Pb=鉛のバケモノが現れた。

『アンチモン!エレメント・ショット!!』

央駆が対抗する。

「最近妙にバケモノが多い…ヨウがヤケになっているのか…?」

アンチモンの他手元にはスカンジウム、ガリウム、モリブデン、ロジウム、コペルニシウムのスティック。

これらがここ1週間で央駆の倒したバケモノから獲得したものである事から、出現率の異常さは明白だろう。

『ガリウム!!』

シューターに装填、銃を構えると横から青白い光。

モメントだ。

『アクチニウム・スマッシュ!!』

鉛のスティックを拾う大地は、央駆と視線を交わすも左下の地面に避けた。

地面は戦いで少し焼けていた。


宇宙が姿を消してから2週間が経った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ありがとうね、大ちゃん。」

鉛のスティックを目を輝かせて眺めるソプラノ。

「何をするつもりだ」

「うるさいわねえ、とりあえずスティックを全部回収しなさいよ。」

大地は脅されていた。

あの時、確かに宇宙を殺した。

大地は、確かに宇宙を殺した。

「メイプルさんはいつ復活するんだ?」

震えた声で問う。左目が充血している。

「あんたね、そんな簡単じゃないの!人体蘇生よ!?できる!?無理でしょー!!」

桃色の机をバンバン、と叩く。

音が止む。

「アルトだって居ないんだからさ。」

"医術師"を名乗る男の失踪は、大地の不安を加速させた。

何故消えたのか、定かでは無い。

「とりあえず全部回収してきなさい、央駆からもほら、奪って奪って。」

薄紫色の扉がドン、と閉まる。

「えぇ…。」

大地は宇宙の心臓をメイプルに移植する事で恩人メイプルの蘇生を望んでいる。

"宇宙の"心臓でなければならない。

アルトにそう伝えられた。

理由は、定かでは無い。


大地は何も分からぬまま、ただ暗然たる心地で段原紙製の寝床へ向かった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

暗闇。

「ようこそ、私の部屋へ。」

この声は、

「Mr.クーロン…?」

「ああ。そうだ、私だ。」

突如現れたネオンのバケモノが、突如として己に殴りかかる。

「お前は負けた。」

ネオンのバケモノが蹴りを発動する。

己は脚を曲げ、上半身を少し下げることでかわすが上を見あげたその眼は、刃先2mmの地点に在った。


「そうだな…」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

クラック本部。

通路の側にあるホルマリン漬けの生き物たち。

ひとつ。

液を護る硝子が砕け散っていた。

流れる刺激臭が、男の口を塞いだ。

男の手元にあるチューニングキーが怪しく光る。

「なんだ、」

男は、おおいに困った様子で施設に背を向けた。


屋上。

衣服を纏わぬ「者」は、既に歩み始めていた。

「者」はまだ若い遺体を持って、ドラム教室へと向かう。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(ガイネン)の墓。

ある女が想いを馳せるようにして立っていた。


「チュー!」


ヨウは、出会った。

「…信じてたぜ。」

再び、出会った。

「こんな時間、いつもは寝ているじゃない。」


「ちょっとは大人を知ったようね。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

水上 宇宙は、死んだ。


暗闇の中心で"己"は眠った。

短い人生だった。

短くなった人生だった。

もう、長くても23年である事は確かだ。

「そうだな…」

内部が破壊されたダイナミックタムは、"己"の手元に握り包まれていた。

Mr.クーロンは少しだけ涙を堪えながら、当たり前かのように鮮血に染まる"己"に名を与える。



「"水上(ミズカミ) 素流(ソル)"としよう。」

【所持スティック】

〈クラック〉

ダイナミックタム、謎のチューニングキー(テルビウム)、水素、炭素、酸素、ガリウム、フッ素、ネオン、リン、アルゴン、カルシウム、スカンジウム、クリプトン、イットリウム、ニオブ、モリブデン、ロジウム、アンチモン、キセノン、タンタル、タングステン、オスミウム、コペルニシウム、ホルミウム

〈アイソトープ〉

ヨウ素 (ヨウ)

〈大地&アルト〉

セレン、鉛、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、ジスプロシウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、アクチニウム、トリウム、ウラン、ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウム、バークリウム、カリホルニウム、アインスタイニウム、フェルミウム、メンデレビウム、ノーベリウム、ローレンシウム


NEXT▶17.支配的ミズガルズ

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