13.無意識的バイオレンス
蓮とインを"殺した"メメント・モリ。
それは歩みを止めない。
方舟が動く。
蓮とインが死んだ。
メメント・モリは任務を達成したかのようにその身を解く。
水上宇宙は深い、深い眠りについた。
頬に赤が飛び散った央駆。
胃酸が込み上げるくるみ。
誰も、何も言えなかった。
騒音のような沈黙の中、音を発するくるみ。
「……殺人鬼。」
有ってしまったその存在に指をさす。
存在は倒れている。
央駆は無機的に転がり落ちた元凶の道具を拾う。
「ダイナミックタム…」
しばらく息を閉ざした後、再び言う。
「水上宇宙、君は……。」
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「メメントが、符裏 蓮を殺したか…。」
アルトはけん玉の玉を大皿に乗せた。
「インだけでも良かったものを…やっちゃったか。」
苦笑いのアルトは大地に問う。
「どうかい?あんなバケモン君に倒せるかい?」
「やってやる。必ず…メメントは俺の手で。」
「なあんでそこまで固執するかねえ、貰ったものはそのまま貰って置けばいいのに。同意の元だろう?」
「だがそんな不慮の事故で落としてしまった命を…!必ず生き返らせる。あの人は俺を救ってくれたんだ…」
「待っていてくれ…メイプルさん。」
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「クソッ!!!!」
壁を強く叩くヨウ。
「なあ、そろそろ黙ってくれないか。」
異常に髪の長い痩せた男がヨウを睨む。
「あ!?死んだんだぞ!インが!」
「分かっていたんだろ。それに、お前はアイツのことをよく思っていなかったのではないか?」
男の人差し指がヨウの鼻をつつくと、男の肩にチューが手を乗せる。
「まあまあ。そこまでね。」
「宥めるな。絞めるぞ。」
男の目元の隈がチューを圧迫する。
「…っ。」
チューは直ちに口を閉ざした。
「んで、どうして俺のところに来た。用があるんだろう?早くしろ、インが死んだからどうしたえ?」
「貴方の声をお借りしたいの」
「的中率100%の占術師、テノールさん。」
男の名はテノール。
あらゆる運命を言い当て、的中率100%の占術師として一部の界隈で知られている。
「我々にはインの誕生させたメメント・モリに対抗する力がない。」
「いいや!俺がいれば大丈夫だろ!チューが俺を使えば、絶対倒せる!な!?」
割り込むヨウ。
「しっ。」
黙り込むヨウ。
テノールは紐を引いてコマを回転させる。
「ああ、」
「どうです?」
「これは面白い。大丈夫だ、そのままでいろ。」
「え?」
「ほらよ!!やっぱり俺がいりゃ」
「いや、お前たちの力ではメメント・モリには当分対抗できない。が、もうアレは現れることは無い。」
「そうなんですか…?」
「勿論だ。クラックの面子は…ああ、その前に。」
「チュー、次に死ぬのはお前だ。」
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「私は死期が近いようだ。」
「そんな…!我々は貴方に救われたのですよ!?」
「いいや、救ったのはいつでも神であった…。」
「く…っ!おかしいぜそんなの!」
「ずっと、ずっと感じていた。私の…前世を。」
「前世?」
「一つだけ、頼みたい…。」
「あっ、どうされましたか。」
「私の記憶を、繋げてくれ。」
「これは…」
「"ダイナミックタム"としよう。語りきれないことが山ほどある。語らなければならない事が山ほどある。」
「どうか、紡いでくれ…!」
!?
目が覚めると、そこはクラックの療養室の中だった。
「俺は…」
ぽっかりと、心に穴が空いたかのように只々空を見つめる。宇宙は立ち上がろうとした。
「いっ…ッ!」
全身が筋肉痛…いや、これは筋肉痛と言うには軽すぎる。
顔が浮腫に侵食されている感覚がある。
ノック。
空いた扉からは、くるみの姿が現れた。
「あっ…おはようございます、」
「あれ?もう体調は大丈夫なの?」
「体調は…まあ、特に風邪とかの病気はないですけども、程々に。」
「そう…」
「ちょっとだけ、元素プレイヤー貸してくれない?」
「ちょっとなら良いですけど…多分すぐ俺の所来ますよ。」
宇宙は躊躇無く元素プレイヤーを手渡した。
「ありがとう。確かに受け取ったよ。」
彼女はにっこりと笑み退出する時、その姿の横を央駆が切った。
「調子はどうだ。」
心做しか宇宙には央駆の口数が少ないのを感じた。
「えっ…まあ、程々に。」
そして央駆の右足に包帯が巻かれているのを布越しに理解した宇宙は、
「その傷…」
と呟いてみた。
「気にするな。回復しているのなら良かった。」
そう言って央駆は半分にカットされたリンゴだけを置いて、療養室の扉を閉ざした。
地獄を忘れた宇宙は、再びベッドで息を吐く。
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「…OK。」
電話を終えたアルトは大地に聞く。
「まだネオンボーイの所へ行かないのかい?」
大地は黙っていた。
「その元素プレイヤーの数々を作ったのは誰だと思っている?」
微笑を浮かべながら大地へ圧をかける。
「今彼は元素プレイヤーを持っていないようだよ。」
「心臓を狙う大チャンスじゃないかー、ああ、何?もしかして若干の恐怖というか…うーんそうだな。かつての友人を手にかける事へ自己防衛が働いているとかいないとか…そういう類のアレだろう、アレ。」
次にアルトは耳元で囁く。
「早くここの彼なんて殺してしまえばいいのに。」
その言葉を受け取った大地は、すぐにその場を去った。
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「流石に寝すぎたな…」
時計の短針は2時を指し、空は暗かった。
宇宙は喉が渇いた気がして、ドアノブを回した。
施設の冷蔵庫を開け、水を飲む。
ここ数日何も食べていない感覚だった。
そして誰とも会っていない心地だった。
体力がかなり削られている。それも身体的なものでは収まらず、どこか落ち着かない脈が不安を持ち上げる。
そうこう考えているうちに、宇宙はどっと疲れを感じてその場に倒れこんでしまった。
気がつくと、そこは草原だった。
「え…?」
当然ながら状況を全く理解できていない宇宙。
一人、大地が現れる。
「メメント…今日こそお前を殺す。」
険しい顔で向かう。
「え?」
ティンパニ型プレイヤーを取り出し、
『象徴化!』
『モメント・アクチノイド!!』
シリーズインジケーターが【A】を指す。
大地はモメントに姿を変えた。
迫り来るモメントに元素プレイヤーを構えようとした瞬間、宇宙はプレイヤーの無い事に気づく。
「あっ…!」
「終わりだ!!!!」
『アクチニウム・クラッシュ!!』
心臓めがけて必殺技を構える。
爆発。
「やったか…!?」
煙が消えると、そこには蓮とインを殺した
メメント・モリが立っていた。
技の瞬間でダイナミックタムの装填されたプレイヤーが引き寄せられたのだ。
「おっと…」
あれは、とアルトが駆けつける。
「逃げたまえ!君の命に替えは無い!!」
「そんな事…もう解ってる…!!」
モメントはトライアングルを叩く。
『加速』
再びメメント・モリに接近すると、"Nd"のスティックでギロを擦る。
『ネオジム・クラッシュ!!』
メメント・モリがモメントに引き寄せられる。
『アクチニウム・クラッシュ!!』
もう一度モメントは必殺技を放った。
『ダイナミックメメント・インパクト!!』
「く…っ!」
『セレン!象徴化!』
アルトは自身のコピーを生み出して縦にした。
宇宙と同じ、ドラムセット型の元素プレイヤーで。
アルトのコピーはアルトの目の前で死んだ。
「大丈夫かい!」
「問題ない…続けるぞメメント。」
「馬鹿か死ぬぞ!」
「…」
大地は戦闘をやめた。
「戻ろう。」
が、メメント・モリはそうではなかった。
大地に立ち向かうメメント・モリ。
「ぐあ゛ああああああああああっ!!!」
暗闇の中。
「どうして…」
「また来たのか。会えて嬉しいぞ、水上 宇宙。」
「Mr.クーロン…」
「ああ、どうやら君の…仲間は優しいようだ。」
「何?」
「君は既に酷いことをした…それも取り返しのつかない。ついたとしてもそれは味わうことの出来ない唯の自己満足と成りうるだろう…。」
「時代が変われど、人というのは変わらないな。」
「え?」
「彼らは黙り続ける事だろう、君が必要だからな。」
目の前には、チューがいた。
『ダイナミックメメント・インパクト!!』
その手が潰した命は、チューだった。
その後ろには笑顔で立っている、くるみの姿があった。
【所持スティック】
〈クラック〉
ダイナミックタム、水素、炭素、酸素、フッ素、ネオン、リン、アルゴン、カルシウム、クリプトン、イットリウム、キセノン、タンタル、タングステン、オスミウム、ホルミウム
〈アイソトープ〉
ヨウ素 (ヨウ)
〈大地&アルト〉
セレン、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、アクチニウム、トリウム、ウラン、ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウム、バークリウム、カリホルニウム、アインスタイニウム、フェルミウム、メンデレビウム、ノーベリウム、ローレンシウム
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