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エレメント・メメント  作者: 廣瀨 玄武
第一章【万物は流転する】
13/44

12.不可逆的アポリア

メメント・モリが誕生した。

あらゆる過去が蘇る。

象徴化(シンボライズ)


割れたネオン管

垂れた液体

光る事を諦めた身体。


「メメント・モリ…。」

メメント・モリは動き出す。

「ああああああああああ゛…っ!!!」

宇宙の叫び声が鳴る。

が、メメント・モリは動き続ける。

「だあああああぁっっっ…ッ!!?」

右脚、左脚、と交互に地を恐怖で埋めつくしていく。

何かに意識が引き摺り下ろされるような。

微かに残る我が一匹ずつ針で刺されるような。

前世と呼んで良い記憶の底から現在を呪うような。


宇宙は、ただただ闇の中に立っていた。

闇と表現すると明るすぎるように聞こえる程に、その闇は深かった。

「ここは…」

黒に問う宇宙。


「ようこそ、私の部屋へ。」


どこかで聞いたような、何者かの声が響き渡る。

「…Mr.クーロン、?」

その名を答えられる前に、宇宙はそれを疑った。

「流石だ、水上(ミズカミ)宇宙(ソラ)。」

「逢いたかったぞ。」

宇宙にその言葉の意味は分かれなかった。

「ここは一体どこなんだ。」

「ここは私の部屋。私の意識そのものだ。」

「意識……?」

「インがダイナミックタムを使用したか。」

「あのアイテム…俺どこかで見た事ある気がすんだ。」

「君はきっと"過程"を見ていたのだろう。」

「過程?」

宇宙はもう何も追いつけなかった。

「君は本当に頭が良い…頭が良い、頭が良い。」


「本当に。」


宇宙の脳裏を何かが通過する。

「ああああああああああ゛…っ!!!」


蘇る走馬灯。


「頭が良い。」


「だあああああぁっっっ…ッ!!?」


「「私も本当に」」



「「「頭が良い。」」」



聞き馴染みのある声達が重なると共に、痛みが落ち着く。

過呼吸気味の宇宙の目の前に、墓が現れる。

「、、お墓…?」

「エレメントスティックを供えよ。」

「え?ぐ…っ!!」

宇宙は微々たる抵抗さえ何かに背かれ、ネオンのスティックを墓に供える。

するとスティックは人の形を模し、

バケモノへ姿を変えた。

「これがバケモノの誕生…」

ネオンのバケモノは闇の中で宇宙を襲う。

Mr.クーロンの声が鳴り響く。

「それもまた、(ガイネン)の力だ。」

「この存在に忠誠を誓わぬ者を、お前はどうする?」

「俺は…」

ネオンのバケモノが宇宙を殴る。

「ぐはっ!」

バケモノが首を絞める。

「…ッ!」

「そうだ。なあ、そうだろう。」


メメント・モリの往く先は、蓮であった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「インの奴、終わったなあ」

ヨウが少し寂しそうに、しかし嘲りを込めて言う。

「生き急ぎすぎたのよ、あの子は。」

「おっ、こいつは中々美人なんじゃねえか?」

チューは顔の整った女性を眺めている。

「美とは穢れをいかに上手く隠すかということ…。あなたにそう見えているようね。」

「あ?なんの事だ?」

「インも子供ね、自分の導く未来だけを見ている。」

チューはヨウの肩を持つ。

「なんだ?」

「いいえ…あなたを私のモノにしようかなって。」

「俺を使ってくれるのか!?インは何かこう…臭えんだよ、チューの方が居心地がいい。」

「まあ、どうせインの奴はもうじき死ぬしな。アイツはダイナミックタムを独り占めした。」

「さあ…私たちはそろそろ行きましょうか。」


ヨウとチューは向かった。

その時彼らはメメント・モリの存在を知らなかった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「逃げろ、蓮!」

央駆が必死に銃を撃ち言う。

「で、でも!!」

逆説の詞が蓮の口から漏れた瞬間、央駆は元素シューターを蓮に突き出す。

「ヒーローのヒーローになるんだな…。」

央駆の鋭い視線。そこに如何程の心配の意の込められたことを蓮が自覚していたかは計り知れない。

しかし、蓮は確かに銃を受け取った。

「もちろんですよ…」

蓮が銃を構えた途端、

「耳を塞げ!!」


大音波。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「うっ。何か起こった…?」

樹林は振動を感じ、呟いた。


彼女は既に音が聞こえていなかった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

静寂。

「…あれ、?」

耳が塞がれ続けている。

手を離しているというのに。


「何も…聞こえ無い。」

震える手をただ眺める事しか出来ない蓮。

前を向く。黒い化け物が己に迫る。

ただ無言で。無機的に。

蓮は恐怖から成る涙を滲ませた。


ダイナミックタムの構築する精神世界。

ネオンのバケモノは、宇宙の身体を足で踏む。

朦朧としていた意識も限界が近い。

「お前は信じなければならない。神の力を。」

「お前は認めなければならない。モリの存在を。」

「人々はライフステージの一端でやがて絶望し、必ず神に縋る。」

「信じぬ者は確実に苦渋を舐め、憤り、荒れる。そんな人間はもう目にしたくは無い…。だから消すのだ!」

「私の預言を受けない者達を…!」

揺れる空間。

「なんだ…、?」

「ダイナミック・レンジ…7年前。私の残した設計図に従って、インが完成させたダイナミックタムの起こした革命だ。人々は聴力を失い、血を吐き、見えぬ神に縋った…。」

「そしてまた一人…」


無音の恐怖に怯える蓮へ、逃げろ逃げろと言い続ける央駆とくるみ。

「え…?」

警告は届かない。

「ああっ、ああ…っ!」

『タングステン!エレメント・ショット!』

「あああっ!!」

パニックで闇に撃ち続ける蓮。

「くっ…うおおおおおおおおおおお!!」

央駆がメメント・モリに突進する。

抵抗の為かメメント・モリがダイナミックタムの装填された元素プレイヤーを構えると、それを奪い取る。

「何をするのです…!?」

観戦していたインが焦り出す。

央駆の手は最大の力で元素プレイヤーからダイナミックタムを引き剥がす。


瞬間、バケモノは宇宙の目の前で忌まわしく溶けた。


「しまったっ!」

異形の戦士は宇宙の姿と成る。

呪いが一時的の解かれた宇宙は、その場に倒れこんだ。

ダイナミックタムが落ちる。

「折角Mr.クーロンとのコンタクトに成功したというのに…」

インがダイナミックタムに触れようとする。

と、ダイナミックタムはまるで拒否反応を示すように波動を放つ。

「何…ッ?」

「大丈夫か…、!」

ボロボロの央駆はボロボロの宇宙へ這う。

くるみは蓮の方へ向かう。

「何も、聞こえないです。」


無駄に閑々とした空気を吸って目を覚ます宇宙。

「俺は…」



誰も、何も、答えない。



「次は必ず…」

その一言で撤退しようとするイン。

するとダイナミックタムは怪しく光を放ち、蓮の頭上を通って宇宙の手元にある元素プレイヤーへと装填される。これは彼の意図的なものではない。勝手に、生命でも込められているかのようにプレイヤーの方へと身を傾け進み宇宙の姿を再び変えた。

『ダイナミクス オブ ジ エンド!象徴化(シンボライズ)!』

闇の戦士─メメント・モリに。


宇宙は再びペタンブラックの世界へ転送された。

殴り掛かる右腕。

ネオンのバケモノだ。

「何なんだよ!!」

「水上宇宙くん!私と1つにならないか!!!!!」

Mr.クーロンの声が聞こえる。

「1つ…?」

「まだ終わっていないだろう?先程は強制終了されてしまったようだが…。」

「あ゛ああああああああああぁっ…ッ!!」

宇宙の意識は無視される。


「あ゛ああああああああああぁっ…ッ!!」

メメント・モリから音声が流れる。

メメント・モリは動き続ける。

それは蓮の腹部を殴った。

「やめろおおおおおおおおおおおぉぉっ…!!」

蓮には何も聞こえなかった。

蓮は必死に聞こうとした。

蓮は必死に聴こうとした。

蓮は必死に涙を流した。

蓮は必死に。

蓮は。

『ダイナミックメメント・インパクト!』

ドラムフープの輪が蓮を拘束する。

「ああっ、ああっ。」

インが恐怖に怯える。

その音を感知したメメント・モリは、インをもドラムフープで拘束する。

「うわあっ!」

輪は徐々に彼らを締め付けていく。

逃れる事はできない。

「やあああめえてええくれええええええええっ…!!」

輪は締まりきった。

二人の口から血液が漏れる。

体力の限界か。宇宙はその場に倒れた。



二つの死体の上に。

【所持スティック】

〈クラック〉

ダイナミックタム、水素、炭素、酸素、フッ素、ネオン、リン、アルゴン、カルシウム、クリプトン、イットリウム、キセノン、タンタル、タングステン、オスミウム、ホルミウム

〈アイソトープ〉

ヨウ素 (ヨウ)

〈大地&アルト〉

セレン、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、アクチニウム、トリウム、ウラン、ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウム、バークリウム、カリホルニウム、アインスタイニウム、フェルミウム、メンデレビウム、ノーベリウム、ローレンシウム


NEXT▶13.無意識的バイオレンス

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