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エレメント・メメント  作者: 廣瀨 玄武
第一章【万物は流転する】
12/44

11.回帰的ダイナミズム

Mr.クーロンの謎、ダイナミック・レンジ事件の真相、アイソトープの信じる「神」の正体。

重なる混沌に一筋の青白い光。

その名も「モメント」。

さらには"医術師"を名乗る怪しい人物。


そしてメメントに迫るのは…

「水上宇宙は俺が殺す。」

モメントの宣言が央駆とくるみの耳を貫く。

「何が目的だ。」

その声に震えは無かった。央駆の器官を通った音は目前の悪を滅亡させようという殺気さえ纏っていた。

「これは恩返しだ。あの方への…」

央駆が考察を始める間もなく、室内に宇宙がやってきた。

傷だらけである。

口は切れ、耳鼻からは黒みがかった血が垂れ、焦げた服から吹く赤に震える手で蓋をする。

「大地…」

そう言うと、宇宙は歩く力を失ってしまった。

「どうして。」

「死にに来たのか。」

モメントが手を挙げると、くるみがその手を掴み止めた。

「何だ。」

「手を出すな…!」

央駆同様、殺気溢れる声色でくるみはモメントを睨みつける。

「…日香くるみ、お前は何も知らない。」

モメントはくるみを引き離す。


「はーいそこまでえ。」


聞き馴染みの無い質感の声が、拍手と共に風に乗る。

現れたのは、白衣の男だった。

「さあ、帰ろうか。下方(ゲホウ)大地(ダイチ)くん。」

男は宇宙を見ると眼鏡をかけ、宇宙に近づく。

「おやおや?」

宇宙の身体中をまじまじと見る男。

「君は…水上(ミズカミ)宇宙(ソラ)くんかい?」

宇宙は体力の限界で返事が出来なくなっていた。

「うーん返事がない。ただのしかばねのようだ。」

「今度は誰だ…?」

何度目の質問なのだろう。央駆は問うことにさえも疲弊していた。

「ちょっと宇宙くん借りていいかな?」

満面の笑みで央駆に確認をとる。央駆の質問には全く答える気配が無かった。

「ありがとう借りていくよ。」

白衣の男は宇宙の左手を持ち、引きずっていく。

「待て!」

男は妙に上手な鼻歌を歌いながら、去る。

『水素!エレメント・ショット!』

央駆は撃った。


『屈折』


銃弾が弾け飛んだ。

弾の生んだ煙が開け、そこに彼らの姿は無かった。

「くそ…!一体何がどうなっているんだ。」

央駆は地面に拳を叩きつける。

くるみはモメントや宇宙をさらった白衣の男の他、遊園地で出会った女性のことも考えていた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ソラ兄ちゃん…」

フィルインの手が止まる。

光太郎は、バケモノにされたあの日の事を思い出す。

自分がイットリウムのバケモノになり、意識を無視して宇宙を襲った感覚が蘇る。

下から上へ悍ましい生命が身を伝っているのが感じられた。

近頃宇宙は途中でどこかへ行ってしまう事が多い。

光太郎は解っていた。

戦士メメントは今も何かとたたかっている事を。

「…やってやる!」


力強くバスドラムを踏み込んだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

蓮が目を覚ますと、そこは暗い空間だった。

これまで"闇"と表されていたものよりも、それは遥かに闇であった。

「えっ僕、死んじゃった?」

言葉の宛先がどこかも分からぬ問いを置く。

「ちょ誰か。誰かいないすか、?」

人の姿は無い。

「ええ…終わった。クラックに入ったばかりなのに…」

「ごめん、宇宙さん、央駆さん、くるみさん。」

蓮は親とはぐれた子供のような泣き面をする。


「ようこそ、私の部屋へ。」


威厳のある男性の声が空間中に木霊(こだま)する。

「えっ、どなた?ですか。」

「少年よ、如何(いか)にしてここへ来た。」

「いかにして…イカにして…?ん?」

「どうやってここに来た。」

言い直した。

「なんかインとかいう奴に、でっかい打楽器のタムみたいなの出されて、したらなんか穴が出てきて!」

必死に伝えようと試みるが語彙が足りない。

「そうか。」

理解してくれた。

「あなたは?」

「私はMr.クーロン。」

「Mr.クーロン…?あ!アイトソープの奴がなんか言ってた!」

「アイトソープではないアイソトープだ間違えるな。あの組織は私が創り上げた。」

「なに!?」

「森羅万象はガイネンから成る。」

初めて(ガイネン)の名を聞いた蓮。

謎の空間は熱を帯びる。

「暑っ!こんな気温高かったっけ…?」

Mr.クーロンは語る。

「気温。これもまたガイネンによるものである。」

銃声が響き渡る。

「うわびっくりした!!何!?」

「音。これもまたガイネンによるものである。」

隕石が蓮を襲う。

「えっ、えっ。えっ?…わあああああああ!!!」

「隕石の落下。あらゆる事象は、ガイネンによるものである。」

蓮の目の前にメメントが現れ、殴りにかかる。

「宇宙さん!?」

「生命の誕生もまた…」

隕石やメメントは消滅。気温は無になり音は消えた。

「あれっ」

「少年。仲間とは何だと思う?」

「え、同じ未来を信じてる人たち。まあ同じ未来じゃなくても、似た信念がある人っていうか…」

「そうか…」

Mr.クーロンは噛み砕いて言う。

「アイソトープに入らないか?」

「え?」

「今見ただろう、あれは神の力。我々はいついかなる時も神の支配下にある。行動、現象、全ては神の書き込んだ通りの運命だ。」

「我々はそれを信じる。(ガイネン)に忠誠を誓い、正しい方向へ共に歩む。」

「どうだ?」

「断る。」

蓮は答えた。

「僕は僕が支配する。運命は変えられる、僕が信じるのは僕の歩む未来だ。」

言い切る。

「そうか…ならば帰れ。」

蓮の後ろに穴が出現する。

「え?ちょあっ、うわああああああああ!!」


穴は蓮を吸い込み、空間から排除した。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

穴から出てきた蓮。

「あれ?放送室。」

四つん這いの蓮を囲むのは、央駆とくるみ。

「大丈夫だったか。」

蓮の表情をよく見る。

「穴の向こうで何があった。」

「何か…隕石が落ちて、銃声が鳴って、宇宙さんが僕を、ってああ、その宇宙さんは偽物で…」

くるみも央駆も疑いの目を向ける。

「そうっすよね、ちょっと何言ってるかわかんないすよね…あ!」

思い出したように人差し指を立てて言う。

「Mr.クーロン!!」

蓮を除く二人は興味深そうに指先に注目した。

「それって…アイソトープが言ってた。」

「そうっす。アイソトープの創始者…あの三人はそのMr.クーロンが唱える思想に共感してるっす。」

ほう、と頷くくるみ。

「インが言ってた神って言うのがきっとMr.クーロンの唱えている存在…」

「その神が隕石を落としてきたんすよ!!」

説得力が発揮されるのはここしかない、と蓮が食いついた。

「その…Mr.クーロンの声が聞こえて、色んな事が起こって、全部ガイネンの力だって。」

「ガイネン?」

「いわゆる神っす。」

「なるほど。要はその神の力に縋っているという事か。」

「簡単に言うとそうっすね。まあ結果として僕には何も無かったけれど…」

若干アトラクション的な感覚もあってか、あっさり帰されて少し寂しかった節があったようだ。

「宇宙さんが…」

モメントと白衣の男に攫われてしまった。

「このまま次襲撃をくらえば…」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「やあ、水上宇宙くん。」

宇宙のまぶたが開く。

「誰!?」

「私かい?誰に見える?いや分かるかーい!なんつってね笑」

一瞬の沈黙も許さない口調で次々に言葉を発する。

「私の名はアルト。最強の…」

白衣の男、アルトはけん玉を手に取って玉を中皿に乗せてみせた。


「…医術師さ。」


「君をこの場所に呼んだのは…ああ、呼んだというよりかは連れてきたの方が正しいのか?まあ何だっていい他でもない、交渉をしに来たんだ。」

自問自答が挟まった台詞。

「心臓をくれないか?」

えっ、と恐ろしくなる宇宙。

「やっぱそうだよね、流石にそんな事急に言われても考えさせてよって感じだと思うんだけど、どうしても必要なんだよね。ああ、どちらかというと必要としているのは私ではなく彼なのだけれども。」

そう言ってアルトは大地に指をさす。

「大地…」

「俺は俺の手で殺す。交渉はしない。」

昔と一人称が変わっている。と、宇宙はどこか寂しくなった。

「俺の心臓って…どういうことなんだよ!」

「まーまーまーまあ、気にしないでおくれ?彼との約束なんだ。とりあえずお譲りいただけ無いだろうか…」

「ふざけんな!」

『元素プレイヤー!!』

元素プレイヤーを構える宇宙。

『元素プレイヤー!!』

ティンパニの元素プレイヤーを構える大地。

「ちょっと!」

制止にかかるアルト。

「まずは倒すべき相手が他にいる事だろう宇宙くん。えっと…アイソトープ。心臓を譲って欲しい気持ちは当然あるが、一旦彼らを討伐したくはないか?先に我々の目的を伝えたくて君との対話を申し込んだんだ。」

宇宙はアイソトープ撃退に対してはそうだ、と頷く。

「帰すのか」

大地は問う。

「ああ。」

「…」

大地は逆らおうとする表情が一瞬見えたが修正して従ったように見えた。

「出会いの証だ。受け取ってくれたまえ。」

けん先に玉を刺し、そっとけん玉を机に置く。

アルトは"Xe"と書かれたスティックと、"Kr"と書かれたスティックを宇宙に渡す。

疑い深い表情で貰う宇宙の肩を二回叩く。

「近い将来、君は自分自身に戦慄する事になる。」

そう言い切って、男は続けた。

「じゃ、とりあえず次はアイソトープを倒してからかな」

宇宙の視界が白くなっていく。

瞬間、大地の憂いを目に止めた。


宇宙が目を開けると、そこはレッスン教室だった。

「ソラ兄ちゃん?」

光太郎は帰る準備をしていた。

「あっ…。」

分かっていた。本当に申し訳ないとも思っていた。

人命が何よりも優先されるべきだとも断言できたが何食わぬ顔で自分を見つめる光太郎を見ると、彼に対する失礼が胸を締め付けた。

「今日はここまで叩けるようになった!」

楽譜の左下を指さす光太郎。

宇宙は声が出なかった。


「ソラ兄ちゃん、いつもありがとう!」


その後光太郎は父の車に乗り、笑顔で帰宅した。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「次にアイソトープの攻撃を受ければ、傷だけでは済まない。」

「そうすね…あ!」

宇宙がクラック本部へやってきた。

「無事だったんですか?」

「一体モメントとあの男に何をされて─」

宇宙は先程受け取ったXe=キセノンのスティックと、Kr=クリプトンのスティックを央駆に見せつけると、

「あの男はアルト。この2つのスティックはあいつから貰った、出会いの証だって。」

「調整済みっすね…」

蓮は舐めまわすようにスティックを見て言う。

「どこからこんな物を…」

くるみが考察を始めた途端、


爆発。


バケモノの位置表示ディスプレイが破壊された。

「何!?」

イン。

再び奴はやってきた。

ヨウとチューの姿は無い。

「先程は邪魔が入りましたが…必ずお前を連れていく。」

インは7年前世界を襲った謎のタム型アイテム─ダイナミックタムを一同の眼に刻み込む。

口角が張り裂けんばかりに不敵な笑みを浮かべるイン。

「これで、序章の終わりが始まる。」


『ダイナミクス オブ ジ エンド』


荘厳なストリングスで迎え入れられる絶望。

男の目が紅く染まる時、地は揺れ、空は光を忘れた。

「やめろおおおおおお!!!」

『ネオン!象徴化(シンボライズ)!』



『ダイナミック・レンジ!』



「いってらっしゃい。」

賛美歌の指揮は振られた。

男の目が紅く染まる時。

ネオンに輝く漆黒の戦士は、輝きを忘れた。

「さあ、崇めましょう。預言者と交わりし神の子…」



「【メメント・モリ】の誕生を!!」

【所持スティック】

〈クラック〉

水素、炭素、酸素、フッ素、ネオン、リン、アルゴン、カルシウム、クリプトン、イットリウム、キセノン、タンタル、タングステン、オスミウム、ホルミウム

〈アイソトープ〉

ダイナミックタム、ヨウ素 (ヨウ)

〈大地&アルト〉

セレン、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、アクチニウム、トリウム、ウラン、ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウム、バークリウム、カリホルニウム、アインスタイニウム、フェルミウム、メンデレビウム、ノーベリウム、ローレンシウム


NEXT▶12.不可逆的アポリア

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