10.過渡的ダイアクロニー
襲撃により弱った状態で現れたくるみ。
そこでインは、世界を襲った大音波=ダイナミック・レンジの原因であるダイナミックタムの能力で蓮をMr.クーロンと出会わせる。
その中で蓮に語られた「神」の意味とは何か。
謎の青白い戦士が宇宙を狙う理由とは何か。
そして、その戦士の正体は何か。
煙幕の先。
日香くるみが倒れた。
「くるみ!!!」
央駆らは駆ける。
「何が起こった?」
チューに動揺が現れる。
「新たな勢力、ですか。」
インが迷惑そうに吐くが、メメントのいない事には触れずに去っていく。
「あっ、おい!」
蓮がインを呼び止めると、インはこれまでにない鋭さで蓮を睨んだ。蓮は戦慄した。
「なんでしょう?」
とだけ聞くが、それは焦燥を土台として歯痒さと意図的な威圧を纏った声色であったのだ。
止めたものの、蓮は何も言えなかった。
「はあ…。仕方ないですね。来なさい。」
「え?」
インは突然ダイナミックタムを取り出すと、謎の穴が空間に刻まれる。
「なんだ!?」
「特別に会わせてやろう。Mr.クーロンに。」
「えっ、ちょっま、…うわああああああああああ!」
禍々しい穴は蓮を連れ去った。
「Mr.クーロンとは…何者なんだ…!」
「Mr.クーロンは我々アイソトープの創始者。私は信じたのです。あの方の唱えた【神】の存在を!!」
「神…?」
「いつまでよそ見しているの?」
チューが央駆に襲いかかる。
『イットリウム!エレメント・ショット!』
必死に抵抗する央駆。施設内に電撃が走る。
が、なかなか優勢には立たない。
央駆は元素シューターを撃ちながらインの去る姿を確認する。
「ここでクラックの司令官を散らす。」
弾丸をものともしないチューが央駆を殺しにかかる瞬間、轟音と共に何かが二人の間を横切った。
「始末はまだ付けるな。」
あまりの音に、はっと目を覚ますくるみ。
銃も手放し顔前にかざしていた両手をどかす央駆。
そこには、青白く光る戦士がいた。
「お前は…?」
チューが問う。
「こいつは元素プレイヤーの事を知っている。運命だか過ちだか何だか知らないが、お前はただのノイズだ。」
『元素プレイヤー!!』
「元素プレイヤーだと!?」
戦士はおもむろに元素プレイヤーを取り出した。
が、造形はメメントのもとは全く違い打楽器ギロのような形をしていた。
戦士は"Ac"と書かれたスティックでギロ型プレイヤーの表面を擦った。
『アクチニウム・スマッシュ!』
戦士はギロをチューに向けると、ギロの先端から一本の放射線が放たれる。
チューは人型に戻され、ヨウが分離した。
「ぐはっ…!行くわよ…。」
「全部インの野郎のせいだ…っ!」
二人はそそくさと離脱した。
「あなた…何者…?」
くるみの第一声。
「くるみ…!」
心配そうな央駆とは真逆に、謎の戦士はくるみの脳を締め付けるように話す。
「モメント…。」
何も分からなかった。
今何が起こったのかも。夢のように折りたたまれていく展開に、央駆らはついていけなかった。
モメントは去ろうとする。
「待て!」
モメントは背中を向けたまま眼だけを央駆に向ける。
「何故くるみを狙った…」
「狙ったのは彼女では無い、水上宇宙だ。」
くるみは非常に弱い声で付け足す。
「水上宇宙の場所を言えって、何度も…」
突然バケモノの表示が消えたあの時。
「何があったのかしら、あんなに早いタイミングでバケモノが居なくなるなんて。」
くるみは一瞬だけ表示のあった遊園地に向かった。
静かだった。
「本当に居ない。損傷の跡も無い。」
すると、ベンチに女性が座っているのを見た。
「寝てる…?」
そっと肩を叩いてみる。
「あの…すみません。」
女性は目を覚ました。
「あれっ、宇宙。宇宙は!?」
あくびさえせず、すぐさま聞き馴染みのある名前を口に出した女性をくるみは怪訝に思った。
「宇宙って…」
焦っていた割にはこれほど小さな声で我に返ったらしい。
「ああ!すみません、ええと。」
「クラックの、日香くるみです。宇宙って、水上…?」
「はい!知っているんですか…って。宇宙と鍾乳洞にいた人だ!」
「ああ、はい。」
あの時逃がし切れなかったという事実がくるみに重くのしかかったが、その結果を思い出し本題に移ることにした。
「ここら辺で、怪物を見ませんでした?」
唐突かつ人生で一度も聞かないのが正常であろう質問に女性は呆然としていた。
「いや、見てないです。」
「そう…ですか。ありがとうございます、では。」
くるみは任務を終えて遊園地を去ろうとする。
「あの…っ!」
女性は前日の夜を思い出して少し顔を赤らめながら言う。
「ええっと…戦ってるんですよね、宇宙。」
くるみはその確認を受けた。
「…ええ。そうです。」
「私嫌です!こんな関係の無いことで宇宙が傷つくの!」
女性は縋る。
「私も同じ気持ちです。」
くるみは手のひらを眺め、歩いて行った。
期待された時点で央駆からの電話が鳴る。
施設に侵入者が現れた、宇宙が向かっているという旨を聞き急いでトラックへ駆けた瞬間、
「逃げて!!!!」
轟音。
「!?」
前回の反省からでは無いが即座に女性を逃がしたくるみは自分の胸ぐらを何かに掴まれているのを感じた。
「クラックか、水上宇宙はどこだ」
青白く光る戦士。
「あなたは…?」
「水上宇宙はどこだ」
「何をするつもり…?」
「水上宇宙はどこだ」
「言えない…」
「あわせろ。水上宇宙はどこだ」
戦士はくるみの目線がトラックにあることを察し、
「吐けば施設へ行かしてやる、水上宇宙はどこだ。」
くるみは歯を食いしばり、信頼と申し訳なさを含んだ声で答える。
「…今、施設に向かっている…。」
「ふっ、丁度良いじゃないか。」
戦士はトライアングル型の元素プレイヤーを取り出す。
「元素プレイヤー!?」
ビーターのような形に変えられた"Bk"と刻まれたスティックで、トライアングルの一番下を叩く。
『加速』
0.7秒後。
くるみは施設へと運ばれる。
0.2秒後。
戦士はトライアングルの両端が塞がれている側をバークリウムのスティックで叩く。
『屈折』
襲いかかってきた液体は各々移動時に発生した煙へ分散されていく。
0.1秒後。
メメントは首を掴まれ、施設外へ飛ばされる。
メメントは宇宙の姿に戻る。
「ぐ…っ!ってえ?あれ、さっきまで放送室に…」
「ああ、そうだ。」
宇宙は振り返る。
「ようやく見つけたぞ、水上宇宙。」
「ようやく?誰だ。」
「モメント。お前を殺す。」
モメントはギロ型プレイヤーにスティックを擦る。
『アクチニウム・スマッシュ!』
宇宙の脳にギロの先端を向ける。
「色々意味わかんねえけどとりあえず敵か!」
『アルゴン!象徴化!』
宇宙はメメント・アルゴンへと姿を変え、モメントと対峙した。
「死ぬのはお前だ。」
メメントは鉄パイプから盾を作り出す。
モメントの放つ放射線は盾によって防がれた。
が、盾は再起不能なまでに歪んでしまった。
「メメント…聞いていたよりもやるじゃないか。」
「だが…」
モメントは"Th"のスティックを擦る。
『トリウム・スマッシュ!』
ギロから電撃が放たれる。
『水素!溶液化!!』
トリウムの電撃は水壁を貫く。
『タンタル!メメント・インパクト!』
メメントは銀白色の板で自身を塞ぎ、板はモメントに向かって倒れていく。
モメントはすかさずトライアングル型プレイヤーを叩く。
『加速』
タンタル壁を避け、即メメントの腹にギロの先端を向けスティックを二度擦る。
「終わりだ。」
「終わらせない。」
『トリウム・クラッシュ!』
『フッ素!メメント・インパクト!』
大爆発。
空間が裂ける勢いの爆風に飛ばされるメメントとモメント。
両者とも、普通の人間の姿に戻った。
メメントは水上宇宙に。
そして、
モメントは下方大地に。
「大地…!?うっ…、」
あまりにも意外な正体に対するショックと、大量の毒素(元素プレイヤーのシステムによって半分以下に緩和されているが)によって血を吐く宇宙。
すると施設から音が聞こえた。
7年前、世界を襲った【ダイナミック・レンジ】の起こったあの時に近しい感覚が大地を揺るがす。
「おい…大地、!」
宇宙は這いつくばって大地の名を呼ぶ。
それまで狙っていなかったかのように、まるで存在していなかったかのように宇宙の声を聞き入れない。
大地は施設を見つめ続け、ティンパニを象った元素プレイヤーを取り出す。
ティンパニのチューニングペダルのようなパーツを4つ押すと、重厚な音楽が奏でられる。
"Ac"の文字が刻まれたスティックで、なぞる様にティンパニを叩く。
『象徴化!』
『モメント・アクチノイド!!』
設置されたシリーズインジケーターが【A】を指す。
宇宙は目の当たりにした。
かつて共に打楽器を演奏した友が自分と戦い、
青白く光る戦士 ─ 【モメント】に姿を変えるのを。
『加速』
【所持スティック】
〈クラック〉
水素、炭素、酸素、フッ素、ネオン、リン、アルゴン、カルシウム、イットリウム、タンタル、タングステン、オスミウム、ホルミウム
〈アイソトープ〉
謎のタム状アイテム、ヨウ素 (ヨウ)
〈???〉
セレン、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、アクチニウム、トリウム、ウラン、ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウム、バークリウム、カリホルニウム、アインスタイニウム、フェルミウム、メンデレビウム、ノーベリウム、ローレンシウム
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