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エレメント・メメント  作者: 廣瀨 玄武
第一章【万物は流転する】
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9.脅威的アイソトープ

突如消えたバケモノ出現の警告。

その真相を探るべくクラック一同は対応する。

その頃、宇宙のレッスンを受けている光太郎は打楽器のコンクールに出るという。

そして生徒の目標を見守る宇宙、謎に迫る組織の前にインを中心とする組織【アイソトープ】が立ちはだかる。

混乱を加速させるかのように出現する謎の戦士。


今、物語が動き出す。

「セレンが倒されてしまったとは。」

当然かのような顔つきでは言うチュー。

「おいおい、しかも倒した奴はメメントじゃなかったみたいだなあ。ナニモンだ。」

「さあ…ですが私達に時間が無いことは明白。一刻も早くメメントを連れて来なければ。」

「どうするつもりだ?イン。ちょっと前からコソコソと。」

インに冷たい視線を送る人間態のヨウ。

「全く…コソコソしているのは私だけでも、チューだけでも、貴方だけでも無い。揃ったつもりで別行動。誰が為に我々は戦っているのか。誰も、何も理解出来ていない。我々は何者だ。決まっていただろう?」

チューは目を逸らさなかった。

「お前の言いたい事は分かった。ならば…」


「突撃だ。」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「打楽器コンクールに出る!?」

俺はこの狭い一室に声を響き渡らせた。

光太郎がドラムで打楽器コンクールに出ると言うのだ。

「お父さんの許可は取ったのか?」

お母さんと言いかけたが、止めてみた(これは昨今の性別役割分業への対抗の意味だけでは無い)。

光太郎の母親は未だ失踪中なのである。

「うん!絶対金賞とって啓太君と差をつける!」

「啓太…そうかー!!じゃあ頑張れよー!」

この瞬間俺の中に講師側として存在してはならない比較癖がどこかに芽生えて、著しい発達を知らせるのを感じたが、良心がそれを麻痺させ、俺は違和だけを抱ききった。

「俺が全力で鍛えてやるからさ!」

今日も啓太はレッスンに姿を見せなかった。


「今日から本番までコンクール特化レッスンだ!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「さて、課題曲とかはあるのか?」

「えっと、"Walhalla"だよ!」

「Walhalla?…ああっ。」

宇宙は懐かしいと思った。

偶然にも、本当に偶然にも。宇宙が高校時代に部活動のコンクールで演奏した事のある楽曲であった。

「めちゃめちゃ難しい曲を課題にしてきたなあ。でもそれって、一人では完成しないやつじゃないか?」

宇宙はかつてのコンクールで上方樹林(カミカタジュリン)下方大地(ゲホウダイチ)との3人で演奏していた。当時は樹林がトムトム、大地がティンパニで臨んでいた。

「他に誰かと一緒に出るってことか?」

光太郎は目を輝かせて首を縦に何度も振る。

まだ決まっていないけど、と一言添えて光太郎は個性豊かな打楽器達に囲まれた椅子に座る。

一音目はロータム、フロアタム、バスドラムから始まる。変拍子が不規則に繰り返され、とても初心者には向かないような独特なテンポではあったが、光太郎は拙くも正確に叩いてみせた。

「お!すげえじゃん!こりゃ優勝だな」

1つのフレーズ(楽譜で記載されたBまでのパート)を終えた後、光太郎は手を止めた。

「何って?」

シンバルに掻き消されて宇宙の声が聞こえなかったようだ。

「ああ、ごめんごめん。すげえ叩けてるっていう…」

こう、特に重要では無い事を聞き返されると、どこか申し訳なくなるのである。宇宙は気まずくなる未来が見え、冗談の部分は初回限定に留めておいた。

「本当に?やった。」

光太郎は輝いたままの目で続ける。

「そうだ!一緒に叩く子!」

光太郎はコンクールのパンフレットを見せつけた。

響木(ヒビキ) (セン)-ティンパニ

紺賀(コンガ) 希人(マレト)-トムトム、ボンゴ

なるほど。

本番は2ヶ月後。その1ヶ月前から彼らと合同で練習をするらしいが、初対面に強い光太郎ならば人間関係においては問題無いだろう。

「楽しみだなあ。光太郎が関わったことのない人と演奏するの早くみてえなあ。」

光太郎は唇を噛み、ふうっと息を抜いてドラムスティックを構える。


ハイハットが開く。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「なぜ突然消えた…。」

央駆は脳の端まで駆使したつもりで考えていた。

「誰かが倒してくれたんじゃないすかね?」

蓮は冗談のような適当な呟きを央駆の耳に挟ませた。

「まさか。現状バケモノを排除できる組織はクラックだけの筈。新たな組織でも現れたというのか。」

そうなのであればもっと早くバケモノが排除され、過去の己の傷、仲間の感情の揺動の無に帰す仮想の存在を恐れ怯えたことを央駆は自覚した。

現場を確認中のくるみの不在故、妙に張り詰めた空気が眼球をも潰しにかかる。

苦しみを表す表情さえも繕ったものになり、蓮がその異変に気付き心配の声を投げようとした。

その時、


警告。


それもバケモノの出現を意味するいつもの音では無い。何者かが施設に侵入した事を意味する警報であった。

『クラックの皆さん!私です。インです!』

聞き馴染んでしまった声がクラックの施設に響き渡る。

『メメント!どこにいやがる!?とっとと出て来い!』

『こら、ヨウ。もう少し大人しくね。誰かがいるのでしょう?破壊等の行為は美しくないからしない。が、上層部は一分以内に我々の前に姿を表せ。』

『放送室で待っている。』

謎の女の声だ。

央駆と蓮は未曾有の出来事に焦り放送室へ向かう。

「なんで放送室なんだよ、お前らも動けよ!」

蓮は憤りながら宇宙に電話をする。宇宙は即座に出た。

「宇宙さん!」

何かが違う環境音に事件を察した宇宙は相応の返事をした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「何、クラックの拠点に侵入者!?」

前に光太郎がいることを忘れて驚き立つ宇宙。

当然、光太郎も驚いた。

「どうしたのソラ兄ちゃん?」

宇宙は詳細を説明する事と同時に起こっている事を天秤にかけ、ちょっと練習をしていて欲しいとだけ伝えてレッスン室を出た。

状況が整理できなかった光太郎だが、新しいタブでも開いたかのようにクラッシュシンバルを叩き出す。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

走る。

この時だけ二人は施設の規模を恨んだ。

「宇宙さんは今向かってます!」

「助かる。くるみも到着する、とりあえず俺たちは放送室へ行かなければ…!」


危なかった。

無事辿り着いた放送室には、三つの影があった。

央駆が影を認識する。

影が央駆を捉える。

「待っていましたよ…、」

「メメント。」

インは得意げに言うが、宇宙の姿が無いのを確認する。

「おい!メメントいねえじゃねえか!」

ヨウがインに怒鳴る。

「いやいやいや、私だって実は今驚いてますから!」

「おいどうすんだよ!チュー!」

「ええっと…。まあ、良いわ。まずは名乗りから─」


「みんな!!」


全員が聞き馴染みのある声だった。

水上宇宙が到着したのだ。

「あっ、イン!と…」

「待っていましたよメメント。改めて…」

インが咳払いをする。

「私はイン!Mr.クーロンが貴方をお呼びです…。」

「俺はヨウ。メメント…ぶっ潰す。」

「私の名前はチュー。今まで彼らがお世話になった。が、もうすぐ終わるから安心してね。」

「我々は神による麗しき支配の元で生ける者【モリ】の共同体!名は…」


「" アイソトープ "だ。」


今まで聞いたことの無い組織名に眉をひそめる一同に構わず女は言葉を放つ。

「今まであなた方が"バケモノ"と呼んでいる子たち。」

「ずっと名前が決まっていなかったの。丁度いい、それで行こうと思うわ。」

「えっ、バケモノで行くんすか…」

蓮の呟きをも妨げるヨウ。

「うるせぇ!チューがそう言ったんならそうだ。」

そう怒鳴るヨウは宇宙に指をさす。

「それよりメメント。今日という今日は…!」

宇宙は首を傾げる。

「え、誰?」

「おいおいおいおい嘘だろお前!」

ヨウの顔が若干引きつる。

「俺だよ、俺!!」

「誰だよ!」

「俺だって!」

「どこで会ったよ!?」

「お前が洞窟に向かったあの頃からだ!」

宇宙は考え、思い出す。が、

「あぁ!…ぁあ?それインじゃね…?」

「だあああもう!いい!潰す!」

頭を掻きむしったヨウは、ヨウ素のスティックへと形を変えた。

「ええええええええ!?エレメントスティック!?」

宇宙と蓮の顎が外れる中、央駆は白眼を広げた。

「スティック化する人間だと?どういうことだ…?」

「いくぞ!チュー!」

「あーはいはい。使ってあげるわよ。」

チューの長いまつ毛の根元は彼女の眼球の半分の地点にまで下る。チューは先程までヨウであったヨウ素のスティックにそっと口付ける。


「いただき…ます。」


チューはヨウ素のバケモノへと変貌する。

しかし、インの時とは見た目が少し違う。

胸には焦げ茶の液体が、首筋には紫色のタトゥーの様なデザインが施されていた。

「さ、いきましょ?」

「宇宙さん…、」

蓮が調整済みのリンのエレメントスティックを宇宙に手渡し、何かを願うように見つめる。

「ああ。いくぞアイソトープ…!」

『元素プレイヤー!!!』

『ネオン!象徴化(シンボライズ)!』

『リン!象徴化(シンボライズ)!』

メメントの左肩に、赤リンの面を手前としてマッチ箱が装着される。

「バケモノ。」

ヨウ素のバケモノは続けるとメメントは構え、止まった。それを確認してからバケモノは再び語る。

「あの子たちは人類の敵ではない。だけど…」

「人類はバケモノの敵になってしまった。」

央駆はすかさず食らいつく。

「どういう事だ?」

「ふふ…っ、最終的に分かるわよ。」

バケモノは胸からメメントに向けて弱体化能力のある液体を放つ。

「運命の過ちが!!!」

メメントは手で顔を塞ぐことしか出来なかった。

蓮は右足を出すも、何かがそれを引き止める。

央駆がメメントを見た頃には、液体がぶつかる音がクラックの施設中に鳴り響いた。


「メメントォォォッ!!!!」


央駆の叫び声もまた、鳴り響いてしまった。

衝撃に現る煙。

そこにあったのはメメントの姿では無く、



弱っている日香くるみであった。

【所持スティック】

〈クラック〉

水素、炭素、酸素、フッ素、ネオン、リン、アルゴン、カルシウム、イットリウム、タンタル、タングステン、オスミウム、ホルミウム

〈アイソトープ〉

謎のタム状アイテム、ヨウ素 (ヨウ)

〈???〉

セレン、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、アクチニウム、トリウム、ウラン、ネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウム、バークリウム、カリホルニウム、アインスタイニウム、フェルミウム、メンデレビウム、ノーベリウム、ローレンシウム


NEXT▶10.過渡的ダイアクロニー

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