0.歴史的パラダイムシフト
7年前。
世界を襲った音波【ダイナミック・レンジ】が起こった。
地は痙攣を起こし、人々は宛先の無い助けを求める声を四方八方に投げ続けたが、多くの者が犠牲になった。
あらゆる元素を象徴する怪物=バケモノが街を襲い始めた
2020年。
怪奇物質特別対抗部隊=クラック(CLAQUE)の英雄、リム・ストローク博士の遺した『元素プレイヤー』を中心に、人類の闘いが始まる。
夜の東京。
それは突然起こった。
林立する高層ビルを破壊する程の力を持ったその音波は、あらゆる人の世界を一瞬にして奪った。
「ついに…ついに完成した…!!」
不敵な笑みを浮かべる男が一人、墓の前に立つ。
手元には、太鼓のような装置があった。
男はそれを強く握り、黒目を空に向ける。
空に太鼓型装置を差し出す。
「見えますか…これが貴方だ。Mr.クーロン。」
男は目を瞑る。
「…ええ、そうですか。神が……。」
「かしこまりました。私が必ず神に出会わせます。」
男の胸元からドラムスティックが抜かれる。
ドラムスティックは光を放ち、眼中を白一色で埋め尽くす。
次に男の目が認識したものは、ヒトの姿であった。
「ついに完成した様だな。」
「ええ。Mr.クーロンの鼓動を感じる…。」
装置を胸に当て、何千回目かの宣言する。
「「我々は信じる。神による麗しき支配の元で生ける者、【モリ】である事を。」」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
組織を開いたリム・ストローク博士の死から半世紀が経とうとしている。
博士の顔は写真でも見た事が無いが、遺言書に書かれた近い将来訪れる怪物の襲来に備え、加入10年目にして未だ準備を進めているのは奈良 央駆だ。
央駆はメイプルという上司が目新しい機械を観察しているのを見た。
「メイプル先輩、それは?」
「これか?これは元素プレイヤー。15年前にようやくここで発見されたんだ。ストローク博士の遺言書に書かれた"怪物の対抗手段"っていうのは多分こいつのことだな。」
「なる、ほど……」
四文字で終わるような会話を持ち込んだ事を若干反省しかける。
「化け物、いつ来るんだろうか。」
「そうですね……その、元素プレイヤー…?の使い方は分かっているんですか?」
「それがまだ分からないんだ。このまま来られちゃまずいな…」
メイプルはドラムスティックを手に取る。
「それは?」
「さあ。分からない。ストローク博士はこれを持った時、未来が怪物に襲われる…と。」
なんか…、怖い。
そう言いかける口を、央駆は必死におさえた。
すると、
警報。
「なんだ!?」
央駆と他の隊員は皆、聞き馴染みのない音に焦り、組織全体がパニックに陥る。
「先輩!…あっ、」
央駆がメイプルの後ろに見たのは、化け物だった。
それは丸みを帯びたフォルムに禍々しい顔の付着した、正真正銘の"バケモノ"だった。
バケモノはメイプルに水をかけた。
「先輩!!」
「!!?」
メイプルは水浸しになった。一瞬情報の整理が追いつかなかったようだが、眼中上部に移る髪先から滴る雫を見て、それだけは理解し、そして振り返る。
バケモノを目にしたメイプルは怯まなかった。
しかしメイプルは焦りを感じていた。
想像よりも早く、さらにその標的が自分である事に、はちきれんばかりの恐怖を感じていた。
その恐怖とは目に映る異形の化け物に対するものではなく、確実に彼の人生の終え方を考えた時のその選択肢の縮まっていく様に対するものであった。
メイプルは自分に託すように決意した。
「私が皆を…」
元素プレイヤーとドラムスティックには何らかの結びつきがあると察したメイプルは、ドラムスティックをプレイヤーの空白部分にセットした。
すると、先程まで簡素であったプレイヤーはドラムセットの形となり、突如ドラムソロが始まった。
「世界を守る!!」
メイプルがドラムスティックをはじいたその時。
爆発。
燃え上がる炎と痺れ渡る電撃は、組織を一瞬にして潰してしまった。
その波動と稲妻で、バケモノは"H"と刻まれたスティックを落とした後、追加注文をされたように爆発した。
機械は故障、中には跡形もなく消えたものもある。
言葉を発しない横たわる隊員たち。
言葉を発する事は出来た者は一人の男(=央駆)と、一人の女(=日香くるみ)のみであった。
メイプルの瞳孔は開いたままだった。
それは、彼の人生が閉ざされた事を意味するものだった。
人類を背負う戦士の誕生は、遅すぎたのかも知れない。
NEXT▶1.内発的ファイト