不毛の大地
この国には聖女と呼ばれる者が時折現れる。
聖女が現れると国は豊かになり人々の暮らしは楽になる。
先の聖女が亡くなってから三十年。新たな聖女が現れるのを皆が首を長くして待っていた。
その子は八歳の誕生日に魔力判定を受けると、魔力玉が白く光り輝き、その光は国を満たし集束した。
その年の総ての収穫量は倍増し、あらゆる者の生活が潤った。
飢えて亡くなる者は居なくなり、ぼろを纏う者も居なくなった。
教会に人が溢れ、教会の財政は潤う。
たった三年で教会の力は絶大なものになり、一部の者が傍若無人に振る舞うようになった。
日を重ねる毎に人々の振る舞いは酷くなっていく。
七年が経った頃、それを見かねた聖女は聖域に籠もり出てこなくなった。
聖女が居るのに土地が潤わなくなり、教会が責め立てられるようになり、今までの行いもあり簡単に教会が潰された。
人々の争いの中、聖女はその後、聖域から出てくることはなかった。
外からこじ開けようと何人もの人が試したが聖域は聖女を守るように扉を閉じたまま開かなかった。
それから五十三年の月日が流れ、力のない教会が、八歳の誕生日の魔力判定と孤児院を細々と経営していた。
ある日、この国のすべての人が夢を見た。
次も争うのなら聖女は人々を許さないだろうと。
一人二人が見た夢ならば馬鹿なことをと捨て置かれたかもしれないが、国のすべての人が見た夢は無視することは出来なかった。
その皆が見た夢から半年後の魔力判定で、魔力玉は白く光り輝き、その光は国を満たし集束した。
既にその現象を知る者の多くは失われていたが、僅かな者達が聖女が降り立ったと国王へと訴えた。
王はその子を大切に扱い、王城へと匿った。
王は王子に聖女の世話を命じた。
王子は聖女の物語は知っていたが実在するものだとは思ってはおらず、見た夢の意味も考えていなかった。
王子は国のことを知らず、世の中のことを知らなかった。
そんな王子が聖女と言われる者を大切に扱うことはなく、聖女の世話は臣下に任せきりとなった。
聖女は聖域のある場所に移して欲しいと何度も訴えたが、聞き届ける者は居なかった。
王城の狭い一室に自由もなく閉じ込められ、聖女はたった一年で心を病んでしまった。王城の狭い部屋の一室で、窓から身を投げ出してしまった。
聖女が亡くなったその年、収穫量が倍になり、王子は初めて聖女が本物だったのだと知った。
臣下に聖女を呼ぶように言うと、臣下に部屋に閉じ込められたことで心を病み自殺してしまったと初めて聞かされた。
王子はその臣下達を切り捨て、責任のすべてを被せた。
その翌年、収穫は殆どなかった。
その翌年も、そのまた翌年も。
五年と経たずにその国は滅びてしまった。
人が争い滅びてしまった土地に新たな人々が住もうとしたが、作物は育たず、その土地の水を長く飲むと人も動物も死んでしまった。
聖女が誕生しなくなった地には、誰も住めない不毛の土地だけが残された。