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第7話 トランス

11/20 改稿済

【狂気のフライドチキン】

 HP80


 説明

もともとはただの鶏だったが、あるプレイヤーが火属性の魔法を使って攻撃したところ、予想外の変化を遂げた。なんとその鶏は美味しそうなフライドチキンへと変身したのだ。しかしその姿はただの食材ではなく、狂気を秘めた危険なモンスターとなった。


※調理済みのように見えますが、生の部分も残っているので食べることは推奨されません。

※遭遇した際には、おいしそうに見つめないように。その視線は狂気のフライドチキンをさらに怒らせるかもしれません。




 いや生の部分も残っているので食べることは推奨されませんじゃないですよ。

「その見た目で、どこから声が出ているんですか?」


「今、そんなことを言っている場合じゃないでしょう!」

 めるさんらしくないツッコミを入れてきました。



 フライドチキンにしては変な軌道で飛んでおり、それに鶏だった時よりも明らかに速いです。


「私、目が回りそうだよ…」


 めるさんの周りをフライドチキンが不規則に飛び回っています。めるさんは一生懸命に剣を振っていましたが、どう見てもその攻撃が当たる気配はありませんでした。私が何とかしようとしても、狐火が効くかどうかもわからないですし、それに、そもそも当たる自信もありませんです。


「めるさん!いま、チョーを倒してクダを呼び戻すので、もう少しだけ耐えてくださいね!」


 その空飛ぶフライドチキンには正直、驚きと困惑が隠せませんでした。秋葉の舞をチョーに向けて放ったのは良かったのですが、その後、クダを呼び戻すことをうっかり忘れてしまいました。


 紅葉が舞う中、私の放った技はチョーを包み込むように広がり、その旋風がクダもろとも巻き込んでしまいます。


「ああっ、これは……!クダ、大丈夫ですか!?」


【クダが待機状態になりました。現実の時間で3時間再召喚ができなくなります。】


 私は心の中で頭を抱えました。こんなミスをしてしまうなんて。でも、メッセージを見て、クダが死んでいないことだけは確かめられて一安心しました。

「少なくとも命の危険はなさそう…… でも、本当にごめんなさい、クダ…」


 再召喚までの3時間、その間クダの力を借りることはできません。チョーが無事に倒れていることを確認した後、私は深呼吸をして、状況を把握し直すためにめるさんのもとへと足早に駆け寄ります。


「たるひちゃん、やっと帰ってきた!このチキン、体当たりが物凄く痛いの……」


 めるさんがチキンに向けて剣を振り下ろし、「たぁ!」と攻撃をするも、反撃を受け「いたあ!?」と声を上げてしまいました。フライドチキンの動きは明らかに速くなっており、めるさんの攻撃を簡単にかわしながら、次々と反撃を仕掛けてきます。


 そのチキンの速さと攻撃力に私は驚きを隠せませんでした。

「めるさんのHPがあれだけ減るなら、私はもって2回くらいになりそうですね… でも、このチキン、そんなに体力は多くなさそうなので、どうにかして一発当てられないでしょうか?」


「絶対無理!こんな小さくて速い相手に、私じゃ当てられないよ!」

 めるさんは焦りを隠せずに言いました。


 この状況では、秋葉の舞が頼りになるしかなさそうですが、その技が当たるかどうかは確信が持てません。


「めるさん、スキルの持続時間、あとどれくらいですか?」


「あと10秒しかない!」


「それなら、こちらに全力で走ってきてください!」


 言葉を待たずに、めるさんは私の方へと急いで走ってきました。その技が当たるかどうかは、まさにタイミングがすべてです。


「あはは、たるひちゃん、見て!もう、体力が半分〜!」

 彼女が笑顔で私の方へと走ってくる姿を見て、つい笑ってしまいました。でも、そんな時に笑ってしまうと、集中が切れてしまいます。


「秋葉の舞」を正面に向けて放つために、私は前方に旋風を作るイメージを浮かべて唱えました。詠唱と共に、私の手のひらから鮮やかな紅葉の葉っぱが無数に舞い上がり、強力な旋風を作り正面へと向かっていきました。


 めるさんはその動作を見てヘッドスライディングで即座に避けました。飛んでいたフライドチキンは紅葉に飲まれていったように見えましたが……


「フライドチキン、やっとおとなしくなったんでしょうか……」

 安堵する間もなく、何かが私の横をビュンと飛んできました。すかさず身を伏せたものの、頭の部分を軽くかすめたようで、熱さとともにHPが6割も減少しました。


 めるさんが目を丸くし、フライドチキンを指差して私に言いました。

「たるひちゃん、そのフライドチキン、マジックレジストが表示されてるよ!」


 なんて理不尽なことですか。

 フライドチキンなのに魔法耐性を持っているなんて、どういうことでしょう。


 それでも、めるさんが笑い始めると、私もつられて笑い出しました。


「ふふ、なんでこんなところで笑っちゃうんですか!」


「だって、フライドチキンが魔法耐性を持っているなんて、誰が想像できるの!もうさ、楽しもうよ、こんな変な敵との戦闘も!」



めるさんがこんなに楽しそうにしているから、私も調子が狂っちゃいます。彼女のその姿を見て、私はふと思いました。たるひとしてなら、私も変われるかもしれない。精一杯今を楽しんでみましょう。



「めるさん、試してみたいことがあるんです。そのショートソードを借りても大丈夫ですか?」

 ショートソードを借りた私は、スキルを持っていないせいか、予想以上に重く感じましたが、これなら訓練相手にちょうど良さそうです。


「さあ、狂気フライドチキン、私と勝負してください!」


 フライドチキンは雷のごとく私に向かって突進してきました。私は一瞬のうちにバランスを取り、ショートソードをしっかりと握りしめます。冷静にその動きを追い、剣を正確に振り下ろしました。剣の刃がフライドチキンの体を捉え、硬い何かに当たる感触が手に伝わります。しかし、想像していたほどのダメージは与えられていないようで、剣がフライドチキンの硬い外皮をわずかに切り裂くのが精一杯でした。


「私の力が弱いのか、適正がないせいなのか、どちらなのでしょうか?」


 フライドチキンは不規則な動きで何度も私に向かって突進してきました。それらの突進に対して、私はショートソードを巧みに操り、一つ一つの攻撃を受け流して反撃を試みます。剣を振るたび、フライドチキンの金色に輝く肉汁が空中に散り、その硬い表面をかすめていきます。しかし、どんなに正確に攻撃しても、その外皮は驚くほど堅く、剣の刃がほとんど効果を発揮していないようでした。


 この世界で感じる疲労は、現実のものとは異なりますが、それでも私の腕は少しずつ重くなっていきました。


「たるひちゃん、無理しないでね!」


「無理なんかしてないです。だんだんと楽しくなってきました」


 ダメージはほとんど与えられていませんが、フライドチキンの攻撃も私には当たりません。両者ともに決め手が欠けているようです。


 ~める side~


「たるひちゃん、無理しないでね!」

 たるひちゃんが何か試してみたいことがあるらしく、私の剣を使って一人で戦っているの。


「無理なんかしてないです。だんだんと楽しくなってきました」

 たるひちゃんが応えるけど、なんだかちょっと興奮してるみたい。ずっとフライドチキンを剣でバンバン殴ってるもんね。でも、四方八方からの攻撃をスイスイと剣でかわすたるひちゃん、まるでダンスをしてるみたいでキラキラしてたよ。


 10分くらい経った時、フライドチキンのすごい攻撃にたるひちゃんの剣がついに弾かれちゃったの。私、ちょっとヒヤヒヤしちゃったよ。たるひちゃんを助けようと思ってスキルを使おうとした瞬間…


 びっくり!たるひちゃんの髪の先がキラリと銀色に輝き始めたの。そして、あっという間にフライドチキンに追いついて、ドーンと蹴り飛ばしちゃったんだから!


 ~たるひ side~


「もう少しで腕が限界です…」と思いながら、フライドチキンも疲れているのではないかと期待しましたが、それは甘い考えでした。私のスタミナもこの戦いでほとんど尽きかけています。


【トランスの一部機能を使用できます】


 というメッセージが目の前に浮かび、使ったことのないロックされていた不思議なスキルの存在を思い出しました。具体的な効果は分かりませんが、使えるなら使ってみようと思いました。


 フライドチキンの激しい突進が続く中、私は思い切って手にしていたショートソードを放り投げ、深呼吸をして「トランス」と声に出しました。その瞬間、私の体は重力を失ったかのように軽く浮き上がる感覚に包まれ、まるで別世界に足を踏み入れたような錯覚に陥りました。

 

【バトルスタイルからクレッセントストライクを習得しました】


 この新しい力に気づき、私は心を落ち着けてフライドチキンに向かって静かに歩き始めました。以前は圧倒的な速さで私を追い詰めていたフライドチキンの動きが、今は遅く感じられ、その間に私は距離を詰めました。心の中で「クレッセントストライク」と静かにつぶやきながら、全身の力を足元に集中させ、美しい三日月の軌跡を描くように、フライドチキンに向けて猛烈な蹴りを放ちました。


 クレッセントストライクの衝撃は強烈で、フライドチキンはその力に耐えきれずに大きく後方に吹き飛ばされました。地面に激しく打ち付けられた際、小さな土煙が上がり、周囲の景色がわずかに揺れました。フライドチキンは静かに動かなくなり、その姿は戦いの終わりを告げているようでした。私は深い息を吐き出しながら、立ち上がり、「これで、もう起き上がることはないでしょう」と心の中で確信しました。


「たるひちゃん!その見た目、何?」


「見た目?」

 私は自分の姿を確認しました。髪と尻尾の毛先が部分的に銀色に変わっていることに気づきました。


「あと、目の色だよ!いつもは金色なのに、今は真っ赤!」

 めるさんが興奮して言いました。私には自分の目の色は確認できませんが、トランスというスキルの影響でしょう。


「トランスというスキルを使ったので、髪と尻尾の毛先が銀色に変わったみたいです。でも、またスキルがロックされてしまいました」


 めるさんはじっと私を見て

「いまの姿、ちょっとぐれた子っぽくなってない?でも、なんだかカッコイイ感じもするよ!」


 この変わった姿をカッコいいと思うのは、なかなか特殊な感性を持っているのではないかと思います。めるさんはそんな私の変貌を楽しそうに眺めていました。


「多分、トランスが発動していた時にステータスが上がっていたんだと思います。でも、今は効果を詳しく見ることができない状態に戻ってしまって…」


「まあ、それでもあのフライドチキンを倒せたんだからいいじゃん!それに、見て!レアドロップがたくさん手に入ったよ!」


「レアドロップって…そうだ、あのフライドチキン、ユニークモンスターとかでしたよね。」


 完全に忘れていました。

 一応元のモンスターはユニークということでレアなモンスターだったはずです!

 きっといいアイテムとか手に入るんじゃ…


 鶏肉×20個


「もしかして、これだけ…?」


「そう、これだけ!たるひちゃんにも見てほしかった!」

 と言いながら、めるさんは笑いをこらえきれずに噴き出しました。


 私は、もう二度とこのフライドチキンと戦うことはないだろうと思いました。



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