幕間2 祖父の手記
最初の手記
桜子さんが亡くなった。姫華もまだ3歳だというのに、どうしてこんなことが起こるのだろうか。桜子さんはいくら病弱だったとは言え、そんなにも早くこの世を去るとは思わなかった。彼女がどれほどの負担を抱えていたのか、今はただ、その辛さを想像するしかない。
第二の手記
幸弥も私たちの元を去ってしまった。姫華の5歳の誕生日の日だった。電車事故とのことだが、最近起きている不審な出来事が多すぎる。これらの出来事はすべて偶然なのだろうか?私は、この背後に何かあると感じている。真実を突き止めるために、自ら調べることに決めた。姫華の未来のためにも、真相を知る必要がある。
第三の手記
姫華は私たちが引き取ることになった。幸弥と桜子さんがいなくなってから、彼女はずいぶんと静かになってしまった。
姫華が私たちと一緒に暮らし始めてからしばらくすると、彼女に変化が見られた。私が剣道の練習をしているのを見てか、彼女も見よう見真似で剣道をやり始めたのだ。道場での動きはまだぎこちないけれど、彼女なりに一生懸命で、その姿はなんとも言えず愛らしい。
そして、幸弥が遺したゲームにも手を出し始めた。ゲームの世界に没頭する彼女を見ると、どこか他の場所に心を遊ばせているようで、少し寂しげでもある。両親の死という大きな喪失を経験して、心に傷を負ってしまった彼女には、時間が必要なのだろう。
私たちは、彼女が自分のペースで進めるよう、優しく見守っていくことにしている。剣道も、ゲームも、彼女が何かを感じ、何かを学べる場所であればそれでいい。彼女が少しずつでも前を向いて歩き始められるよう、支えていきたい。姫華が元気を取り戻し、再び笑顔でいられる日が来ることを願ってやまない。
第四の手記
今日、あの馬鹿息子が久しぶりに家に帰ってきた。久方ぶりの訪問にも関わらず、彼の口から出たのは「兄貴が作ったものはどこにあるのか」という質問だけだった。彼には、幸弥が生前に何を作っていたのか、どこに隠していたのか、何も教える気にはならない。知らぬ存ぜぬで通した。
確かに幸弥は生前、何かを作っていたようだ。夜遅くまで何かに取り組んでいることが多かった。しかし、この無責任な息子に渡していいものではない。彼には何も残してやるべきではないと思う。
幸弥が何を作っていたのか、その全貌はまだ私にもはっきりとはわからない。しかし、彼が残したものは大切に保管し、必要な時に姫華に渡すことにする。彼女が幸弥の意志を継ぐべきだと思うからだ。
あの息子には、幸弥の遺したものの価値を理解する資格はない。ただ、彼が何を求めているのか、気になるところではある。彼の真意が何なのか、引き続き注意深く見守っていくつもりだ。
第四の手記
早いもので、あの日からもう13年もの歳月が流れた。まさかの出来事が起きた。幸弥のことを恩人と称する男が突然現れたのだ。彼は幸弥が残したというゲームを持ってきて、それを姫華に渡してほしいと言った。そのゲームは「Ethereal Chronicle」という名前で、幸弥が開発に関わっていたらしい。
この男の言葉を信じていいものか、少し迷ってしまう。しかし、もし本当に幸弥の願いだとしたら、姫華にはそのゲームを渡すべきかもしれない。姫華は今や17歳になり、自分で物事を判断できる年齢になっている。彼女が幸弥の遺した世界に触れることができるのなら、それも一つの縁かもしれない。
今日、そのゲームを姫華に渡した。彼女の反応は予想以上に穏やかだった。幸弥のことはあまり記憶にないかもしれないが、どこか興味を持ったように見えた。ゲームは彼女に新たな世界を開くかもしれない。そして、もしかしたら、幸弥の想いがその中に込められているのかもしれない。
姫華がこのゲームを通じて、何かを見つけ、何かを感じることができればと願う。幸弥の遺したものが、彼女にとって何らかの意味を持つことを願ってやまない。
第五の手記
ゲームを始めてからわずか数日が経過しただけなのに、姫華が目に見えて変わってきているのが分かる。ゲームの中での新しい友達との出会い、強敵との熱い戦い、そして師匠との運命的な出会い。これら全てが、彼女の内面に大きな影響を与えているようだ。
以前はどこか閉じこもっていた彼女が、今では明るく、生き生きとした表情を見せるようになった。ゲームというものが人をここまで変える力を持っているとは、正直、思ってもみなかった。このゲームが彼女にとって単なる遊びではなく、何かもっと大きな意味を持っているように感じる。
幸弥がこのゲームに込めた思い、それはきっと姫華に届いている。ゲームの中で彼女が経験している冒険が、彼女にとっての成長や自己発見の旅になっているのだろう。幸弥が残したこのゲームが、姫華にとってかけがえのない贈り物になることを信じている。
第六の手記
私は、もう会うことはないだろうと思っていた馬鹿息子に会うために、遠出をすることになった。そのため、姫華との朝の剣道稽古を休むことになり、彼女には申し訳ない気持ちでいっぱいだ。しかし、あの男を家に招きたくはない。何かを感じ取ってしまったのだ。
彼は幸弥が作ったもの、何か特別なものを求めているらしい。彼の言葉によれば、それは「AI」だという。そんなものは知らないと答えて彼を帰らせたが、私の中にはある心当たりが浮かんでしまっている。
幸弥が生前、夜遅くまで何かに取り組んでいたことがあった。そのとき彼が何をしていたのか、私はよくわかっていなかったが、今になって考えると、彼が開発していたのは、まさにそのAIなのかもしれない。
もしかすると、そのAIが「Ethereal Chronicle」の中に存在しているのかもしれない。だとしたら、姫華が今夢中になっているそのゲームの中に、幸弥の遺したものが隠されているのだろうか。
どうやら、このことはさらに深く調べる必要がありそうだ。ただ、馬鹿息子には絶対に知られてはならない。彼には幸弥の遺した大切なものを渡してはいけない。姫華が安全に遊べるように、そして幸弥の意志が正しく伝えられるように、私が守らなければならない。