幕間1 キャロルの戦い
「ふぅ……準決勝ね」
あたしは一人ごちながら、たるひちゃんの戦いを思い返していたわ。彼女の勇気と情熱、あの戦いでの成長は、あたしにも大きな影響を与えているの。
あたしのハートには、たるひちゃんの戦いの余韻がまだ残っていたわ。あの子の勇敢な姿とあたしのライバルオーウェンとの戦いは、あたしの心に強く刻まれている。あの子の勇気は、あたしにも新たな力を与えてくれたのよ。
「準決勝で負けるわけにはいかないわね」
あたしは鏡に向かってポーズを取り、「キャロルお姉さん、今日もバッチリね!」と自分を励まし、自信を持って控室を出たの。たるひちゃんの戦いから得た刺激と、これからの戦いへの期待が心に満ちていたのよ。
あたしの準決勝の相手は、ちょっと生意気だけれど実力は確かなエレストラちゃん。彼女はその自信満々の態度と、鋭い戦い方で知られているから、油断は禁物よ。
「エレストラちゃんね、あの子は本当に生意気だけど、その実力はあたしも認めるわ。油断していたらあたしも負けちゃうかもしれないわね」
コロッセオの中心にワープした瞬間、あたしはエレストラちゃんの準備が整った姿を目にしたわ。彼女は自信に満ちた笑みを浮かべていたの。
あたしは軽く手を振りながら、「β版の時と変わったあなたの種族、とくと見せてもらおうかしら?」と彼女に挑戦的に言ったの。
「きたわねキャロル!」
エレストラちゃんが元気よく返事をしたわ。彼女の目は闘志で燃えていて、戦いへの準備が完璧に整っているように見えたわ。
「今の私はイモータルヴァンパイアよ!もう万年3位なんて言わせない!」
「あらあら、そこに拘っているうちは勝てないと思うわよ?」
エレストラちゃんの目は、あたしの言葉に少し動揺したように見えたけれど、すぐにまた闘志を取り戻したわね。
「そんなのここでアンタに勝つから見てなさい!」
「さあ、エレストラちゃん、お互いに最高のパフォーマンスを見せて、この場を盛り上げましょう」とあたしは心の中でつぶやきながら、彼女に向かって構えたの。
『本選トーナメント準決勝キャロル選手対エレストラ選手。カウントダウンを始めます』
HINAちゃんのカウントダウンが始まったわね。そういえばたるひちゃん、HINAちゃんのことはどうなったのかしら?
『3、2、1……試合開始!』
試合が始まるや否や、エレストラちゃんはすぐに攻撃を仕掛けてきたわ。
「ほら捕まりなさい筋肉ダルマ!」
彼女が叫びながら、赤い鎖のようなものが四方向から飛んできたの。
あたしは慌てず騒がず、その鎖を華麗にかわしたわ。
「あらあら、そんなものであたしを捕まえるなんて、甘いわね」
とは言え確かに、エレストラちゃんとの距離をあまりにも空けすぎるのは戦略的にまずいわ。彼女の鎖の攻撃は距離があるとより有利になるし、あたしのハルバートを生かすには、適切な距離感が重要なのよ。
あたしは素早く態勢を立て直し、自慢のハルバートを手に取ってエレストラちゃんに近づいたわ。
「さぁ、ちょっと近くでお話ししましょうか」
「近付くんじゃないわよ!アンタ怖いのよ!」
エレストラちゃんは突如として私に向かってレイピアを突き出してきたわ。あたしはすばやくハルバートを使ってその突きを防ぎ、「キィン」という音がコロッセオ内に響き渡ったの。
エレストラちゃんが吸血鬼になっても、彼女の選んだ武器がレイピアであることに、あたしは少し驚いたわ。吸血鬼というと、トピックによると普通は魔法よりの戦い方をすることが多いらしいわ。でも、彼女がβ版の頃から愛用しているそのレイピアに、あたしは好感を持ったのよ。
彼女が選んだこの道は、まるでたるひちゃんの戦い方を彷彿とさせるわね。
「なかなか面白い選択ね、エレストラちゃん。もっと色々なあなたを見せて頂戴」
「なんでそんなに余裕なのよアンタ!クリムゾンチェイン!」
さっきの赤い鎖ね。そうなんども効かないわよ。
「アークストーム」
あたしはそう呟き、ハルバートを大きく振り上げたわ。このスキルはそう美しいものではないけれど、ただの孤を無数に飛ばすだけのスキルよ。でも、エレストラちゃんの鎖をなぎ払うには、これだけ便利なものもないわ。
ハルバートが空を切り、無数の孤が飛び出し、エレストラちゃんの鎖を一掃したの。それはまるで嵐のような勢いだったわ。鎖はあたしのアークストームの前には無力で、一瞬で掻き消されたわ。
「あなたの鎖はもう通用しないわよ」
「そんなことわかってるに決まってるじゃない」
いつの間にか消えていたエレストラちゃんはあたしの影から現れたのよ。彼女の動きはあまりにも速く、まるで幻影のようだったわ。そして、あっという間に彼女のレイピアがあたしの肩を貫いたの。
あたしは痛みに顔をしかめたけれど、すぐに反応して、彼女から距離をとったわ。彼女の攻撃は予想外だったけれど、あたしはまだまだ戦えるわ!
「あら、そうくるのね。なかなかやるじゃない!」
「余裕ね、キャロル。もう私の勝ちよ?」
彼女の声には自信が満ち溢れていたわね。
なにを言っているのかしら……
でもこの自信は絶対なにかあるわね。
「すごい自信ね。なにかあるのかしら?」
「私は用心深いのよ。なんでも話すと思わないで」
一体なにが狙いなのかしら……そんなにダメージも大きくはないはずよ。
そこであたしは気づいたわ。あたしのHPが少しずつ減っているのよ! エレストラちゃんは、状態異常を使ってあたしをじわじわと倒そうとしているのね。
「……どうやら速攻で決着をつけなきゃいけないようね?」
「相変わらずそういうのには気付くのが早いんだから」
彼女の声には少し戸惑いが混じっていたわね。
そんな彼女の反応を見て、あたしは「タランドス・レガシー」と呼ばれる特別な斧を取り出したわ。これはあたしの秘密兵器よ。
「じゃあ、行くわよ!」
あたしはエレストラちゃんに宣言して、全力で彼女に襲いかかったわ。ハルバートと斧、この二つの武器を駆使することで、あたしはエレストラちゃんの状態異常に対しても十分に対応できると思うの。
エレストラちゃんはあたしの突然の武器の変更に驚いた様子だったわ。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!なんなのよ、そのごつい斧!しかも両手に持ってるじゃない!」
「あら、あなたがオトメを急かすんだもの。しょうがないじゃない」
そして、一気に攻撃を仕掛けたわ。ハルバートと斧の組み合わせは、攻撃の範囲も大きく、彼女にプレッシャーを与えるのに十分だったの。
その後の戦いは、驚くほど一方的に展開したわ。あたしのハルバートとタランドス・レガシーの斧の組み合わせは、エレストラちゃんの戦術を完全に上回ったのよ。彼女の状態異常の効果も、あたしの猛攻の前では意味をなさなかったわ。
そしてついに、あたしの決定的な一撃がエレストラちゃんに直撃したの。彼女は力なく倒れたわ。その瞬間、コロッセオは大きな歓声に包まれたわ。
エレストラちゃんは、やっぱりプレッシャーに弱いのね。自分より強い相手と戦うとき、ペースを崩されやすすぎるわ。彼女は非常に才能があるけれど、精神的な強さがまだ足りないのよ。
『試合終了。勝者はキャロル選手』とHINAのアナウンスがコロッセオを埋め尽くすように響いたわ。
そのアナウンスを聞きながら、あたしはついに訪れた次の瞬間を思い描いていたわ。とうとう彼、オーウェンとの戦いができるのね。このトーナメントで最も待ち望んだ瞬間よ。
あたしはずっとこの瞬間を待っていたの。オーウェンと真剣に対峙できるこの機会は、あたしにとって大きな意義があるのよ。彼はただ強いだけではなく、あたしにとっては刺激的な存在。彼との戦いを通じて、あたしは自分自身をさらに高めていけると信じているわ。
「オーウェン、今度こそあたしはあなたを越えるわ。あなたとの戦いは、あたしにとって新たなステージへのステップアップになるのよ」
『本選トーナメント決勝Owen選手対キャロル選手。カウントダウンを始めます』とHINAの声がコロッセオに響き渡ると、観客席からは大きな歓声が沸き起こったわ。それはまるで嵐のような歓声で、コロッセオ全体がエネルギーと期待感で満たされたの。
「オーウェンちゃん、あたしの弟子がお世話になったわね」
「弟子ぃ!?お前に弟子なんてのはいたのか?」
あたしは微笑みながら、「たるひちゃんよ。あたしに似ていい女でしょ?」と答えたの。たるひちゃんのことを思い出しながら、彼女の成長を誇らしく感じていたわ。
オーウェンは少し戸惑いながらも、笑いを浮かべて「い、いや、はっはっは……いい戦士ではあるけどなぁ」と言ったわ。彼の反応からは、たるひちゃんのことを認めている様子が伺えたの。
あたしはオーウェンとの対決に向けて心を引き締めたわ。見ていて頂戴たるひちゃん。この決勝戦は、あたしにとっても、そしてたるひちゃんにとっても、意味のある戦いになるはずよ。
「それじゃあ、本気で行くわよ、オーウェンちゃん。あたしの全てを見せてあげるわ!」
さっきエレストラちゃんとの戦いで使ったタランドス・レガシーの斧とハルバートの二斧流を、最初から構えていたの。オーウェンとの戦いでは、最初から全力を出す必要があるわ。
HINAの声がコロッセオに響き渡る。『3、2、1……試合開始!』とカウントダウンが終わり、決戦の時が訪れたの。
試合が開始されると同時に、あたしはオーウェンに対して一気に攻め込んだわ。
ガキンという金属音がコロッセオに響きわたったわ。オーウェンの大剣が、あたしの斧の攻撃を完璧に防いでいたのよ。
「オーウェンちゃん……! あなたも本気ね」
「お前相手に小細工は必要ないだろう?」
たるひちゃんとの戦いで見たあの大剣が彼の手に握られているのを見て、あたしは彼の真剣さを感じ取ったのよ。
「あたしの攻撃を完全に防げるなんてオーウェンちゃんも大概馬鹿力ね!」
「久しぶりに純粋な殴り合いをしたくなってな!」
あたしは内心で「この馬鹿男ったら、もう……」と思ったけど、それが彼の魅力の一つよね。オーウェンちゃんとの戦いは、力だけじゃなく、心のぶつかり合いもあるの。
あたしとオーウェンちゃんの戦いは、スキル抜きの、まさに泥臭い殴り合いになったわ。ゲームの世界において、こんな原始的な戦いが繰り広げられるなんて、なかなか珍しいことよね。
あたしの二斧流とオーウェンちゃんの大剣は、互いにぶつかり合い、金属音を響かせていたの。この戦いには派手な魔法や複雑なスキルは必要なかったわ。ただ、互いの武器を振り、力と力をぶつけ合う。それがこの戦いのすべてだったの。
「オーウェンちゃん、これこそが真の戦いよ!」
彼との戦いは、技術や戦略を超えた、純粋な力のぶつけ合いになっていたのよ。
オーウェンちゃんは、その大剣を振り下ろすたびに、あたしの斧と激しくぶつかり合ったわ。あたしも負けじと、斧を振り回して彼の攻撃に応じたの。この殴り合いは、互いの力を最大限に引き出してくれたわ。
戦いは一層激しくなり、コロッセオはその迫力に呑まれていたわ。あたしとオーウェンちゃんは、お互いを尊重しながらも、最後まで全力で戦い続けたのよ。この戦いは、技術やスキルを超えた、本能のぶつかり合いだったわ。
息を切らしながら、あたしはオーウェンちゃんに「でも、どうしてこんな戦いをしようと思ったのかしら?」と尋ねたわ。
彼は少し真剣な表情を浮かべて、「オレは……本当なら負けてたかもしれなかった。だから鍛えなおす、それだけのことよ!」と答えたわ。
その言葉を聞いて、あたしは彼の真剣さを改めて感じたの。オーウェンちゃんは、自分自身に厳しく、常に成長し続ける戦士なのね。たるひちゃんとの戦いで彼が感じたことが、この決戦での彼のスタンスに影響を与えたのよ。
「あなたってば、いつも全力で自分を高めようとしているのね。尊敬するわ」
「キャロル、お前もなかなかやるよ。またいつか、もっと強くなって戦いたいな」
そう言って、私たちはその日の雌雄を決したわ。今日の戦いはあたしの負けだった。でもね、これからも、あたしは彼と同じく、常に成長し続ける戦士でありたいと心から思うの。
この戦いはあたしにとって、ただの負けではなかったわ。オーウェンちゃんとの戦いは、あたしにとって大きな学びとなったのよ。彼はあたしに、まだまだ成長の余地があることを教えてくれたわ。
あたしは、この敗北を糧にして、さらに強くなるわ。そして、いつの日か、もっと強くなってオーウェンちゃんに再び挑戦するのよ。その日が来ることを楽しみにしているわ。