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第29話 明日へ

 オーウェンさんは両手でその大剣を掲げ、構えを取ります。その瞬間、不思議な現象が起き始めました。

 周囲の空気がわずかに震えだしたのです。

 

 「……風?」


 次第にその風は強まり、オーウェンさんの大剣を中心にして渦を巻くように集まっていきました。その風は、まるで生きているかのように大剣を包み込み、剣自体が風の一部になるかのように見えました。


風雲破刃ふううんはじん、CTは長いが2発目はいらないから贅沢にいくぜ!」


 そのスキルを見たとき私はエルヴィンさんの「エレメントデストラクション」を思い出しました。オーウェンさんのこのスキルは、きっと2次職になった際に使用可能になる高威力のものなのでしょう。


「確実にオーウェンさんに勝つためにはスキルを撃った瞬間に攻撃を入れること……」


 スキル:奥義 刹月風華せつげつふうか

 効果

 一撃一撃が必殺の4連撃を行う。

 ……(未完成のスキルのため、詳細は文字化けしていて不明)

 このスキルはまだ未完成であるため、全ての詳細は確認できません。しかし、その基本的な概要としては、一連の攻撃が非常に強力であり、各撃が致命的な威力を持つとされています。使用にはリスクが伴う可能性があります。



 これを手に入れたことには、きっと何か大きな意味があるはずです。このまだ未完成で、文字化けしている部分もある謎のスキルを、私は使いこなしてみせると決意しました。


「覚悟は決まったか?これで終わるのは残念だがこの試合楽しかったぞ!」

 オーウェンさんは真剣な面持ちで、しかし満足げな様子で私に問いかけました。


 私は心からの感謝を込めて答えます。

「はい!私もこんなに楽しかった戦いは初めてでした。オーウェンさんと戦えたこと、本当に感謝しています」


 私たちの間には、純粋な戦いへの楽しさが満ち溢れていました。


「どりゃあああ!!」


 オーウェンさんの力強い気合いとともに、彼の大剣が振り下ろされました――――



 その瞬間、私は「刹那」を使って最高速度で一歩を踏み出しました。私は確信していました。「トランス」の最高速度は、「刹那」を使うことを前提にしているのです。


 この状態では、オーウェンさんの大剣の振り下ろしも、まるでスローモーションのように私には見えました。オーウェンさんの大剣から繰り出される台風のような一撃もまだ完全に発動しきってはいません。潰すのならいまです。


 奥義 刹月風華

 私は瞬きする間もなく、オーウェンさんの大剣に纏わりついていた風を斬り裂く初撃を放ちます。刀の閃光が風を切り裂き、その軌跡はまるで美しい流れ星のようでした。


 続く二撃目は、オーウェンさんの大剣を彼の手から吹き飛ばすほどの威力を持っていました。私の刀は彼の大剣を軽々と打ち上げ、彼の攻撃の芯を完全に狂わせました。


 そして、三撃目――私の刀はオーウェンさんの防御を完全に突破し、彼の体に深い一撃を与えます。私の斬撃は、彼の体を貫くと同時に、コロッセオを揺るがすほどの衝撃波を生み出しました。









「刹月風華」は、私が手に入れた最も強力なスキルで、その4連撃はオーウェンさんをも圧倒する力を持っていました。ですが、四撃目が発動することはありませんでした。


 私はその瞬間に理解しました。このスキルのリスクは、反動にあったのです。力強い三撃目を繰り出した後、私は攻撃の度に体力を消耗しているのに気づかず、HPが急速に0に近づいているのに連撃をやめませんでした。私はオーウェンさんにトドメを刺すことができず、今、私のキャラクターは少しずつ消えていっているような状態になってしまいました。


 私はコロッセオの地面にへたり込み、自分の体が透明になっていくのを感じました。オーウェンさんの方を見上げ、彼に感謝の言葉をかけようとしましたが、声は出ませんでした。私の目の前では、なにかを言っているオーウェンさんの姿がぼやけ、遠くなっていきました。






 ~オーウェン side~


 

 オレの残りのHPは1割を切っていた。確かに少しダメージを受けたときは驚いたが、まさか負けそうになるとは思わなかった。彼女のスキル、その破壊力はオレの想像をはるかに超えていた。


 消えそうになっている彼女に目を向ける。なんと満足そうな顔をしているんだろう。彼女の表情は、戦いにおける充実感と満足感を表していた。

 

「たるひ、お前さんほんとは勝ってたかもしれないんだ。なんでそんなに満足そうな顔をしてるんだ?」


 オレは声をかけたが、彼女には聞こえていないようだった。返事はなかったが、彼女の表情を見れば、すべてがわかる。


 彼女は、オレらと同じだった。戦いの最初こそ、彼女は心の中で負けそうになっていたが、戦いが進むにつれて、すべてを楽しむようになっていた。その変化が、彼女の目にはっきりと映っていた。彼女の中での成長、それは単なる勝ち負けを越えたものだった。


『試合終了です。勝者Owen選手』


 HINAのアナウンスが響き渡り、同時に観客からは大きな歓声がコロッセオに満ちた。


「はーはっはっは!」とオレは大きな声で笑いながら、興奮と満足感を隠せないでいた。


「これでは再戦が楽しみで仕方ないな」


 たるひとの再戦は、次はこんな不完全燃焼ではなく、お互いの全力を出し切る完璧な決着をつけようと決意した。


 彼女との戦いは、オレにとって多くの意味を持っていた。彼女の成長、戦いへの情熱、そして彼女が最後に見せた強い意志は、オレにも新たな刺激を与えた。オレは彼女がいなくなったコロッセオを見渡し、彼女との次の戦いを心待ちにしていた。




 ~たるひ side~



 消えた後、私はコロッセオの中の控室で目を覚ました。どうやらやられると、プレイヤーは自動的にここへ飛ばされるようですね。


 私が控室から出ると、そこにはめるさんがいました。


「だーるぅひぢゃぁーん!!」

 と泣きながら私に抱きついてきました。彼女の耳は悲しげに垂れ、尻尾も落ち着かない様子で動き回っていました。


 彼女は私の目をじっと見つめて、「大丈夫だったの?心配で心配で……」と尋ねました。彼女の声は涙に震え、その心配は彼女の動きにも現れていました。


「あの戦い…ほんとにすっごかったよ!痛くなかった?どこも悪くない?」と彼女は続けました。彼女の耳は私の答えを待つようにピンと立ち、彼女の尻尾は私の周りを不安そうにバタバタと動いていました。


 立て続けに私の心配をしてくれるめるさんにくすぐったさを覚えつつも私は微笑みながら答えました。


「大丈夫です。ちょっと疲れましたけど……心配してくれてありがとうございます。あなたがいてくれて、本当に嬉しいです」


 めるさんに抱きしめられたまま、私は背後から新たな声を聞きました。


「めるちゃんってば、一人で行っちゃうんだからぁ……たるひちゃん、よくがんばったわね」


「キャロルさん……」


 キャロルさんは私の頭を優しく撫でながら言いました。


「あらあら、あの戦いは本当に素敵だったわ。私も見ていてハラハラしちゃった。あなた、本当に成長したのね。素晴らしいわ!」


「そういえば、レオンさんはー?」


 めるさんが一緒にいたであろうレオンさんのことを探します。


 キャロルさんは指をさして、「そこにいるわよ?」と言いました。


「レオンさん?」


 レオンさんは何故か壁に寄り掛かったまま動こうとしませんでした。


 キャロルさんは小さな笑いをこぼしながら言います。


「彼ったら情熱的でね」


「やめろ……」


「たるひちゃんが刺されたとき」


「やめてくれ!!」


 レオンさんが声を荒げました。

 

 キャロルさんはクスクスと笑いながら、最後に言い放ちました。


「怒ってモニター壊しちゃったのよ」


 レオンさんは、キャロルさんの明かした出来事に真っ赤になりながら恥ずかしそうに顔を逸らしました。彼の頬は照れくさいほど赤く染まっており、通常のクールな態度とは一線を画していました。


「もう、知らん……」とレオンさんは小声で呟きながら、壁にもたれ掛かったまま、彼の照れ隠しのために顔を片手で覆いました。


 めるさんは大きく笑いながら、レオンさんに向かって「レオンさんもたるひちゃんのこと、いっぱい心配してたもんね!」とからかうように言いました。


 キャロルさんも笑みを浮かべながら、「あらあら、情熱的なレオンさんも可愛いじゃない。たるひちゃんのことが本当に大事なのね」と付け加えました。


「皆さん本当にありがとうございます。私はこのゲームを始めて本当に良かったです」


 私は心からの感謝を込めて言いました。私の言葉には、彼らとの出会いと、共に過ごした時間への感謝が込められていました。


 キャロルさんは、派手なポーズを取りながら、ちょっと冗談っぽく「安心しなさい。たるひちゃんの仇はあたしがとってあげるわ!」と言いました。


 私たちはキャロルさんの言葉とポーズを見ながら、一斉に笑い出しました。めるさんはクスクス笑いながら、レオンさんは苦笑いを浮かべ、私は幸せな気持ちで満たされます。


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