第28話 反撃
~オーウェン side~
刺突スキルは、通常、相手の急所を狙うと一撃必殺の効果がある。彼女を仕留めるのに、これで十分だと思ってたんだ。だからこそ、彼女が最後の瞬間に刀を逸らしたとき、オレは少し驚いたもんさ。
彼女の反応速度、それにその場の判断力。正直言って、なかなかやるじゃないか。オレが彼女を甘く見てたってわけだ。
立ち上がった彼女は、なんらかのスキルを使ったのかその全身が金色から銀色へと変わって尻尾が増えていた。それにその体からはなんとも言えない淡い光が放たれている。今の彼女には、普通じゃない何かがある。それが今、明らかになってきている。
彼女がオレに向かって笑いかけてきた。その新しい姿に、オレは一言かけてやることにした。
「とっておきかい? それともこの土壇場で2次職に目覚めたとか燃える展開かね」
オレは半ば冗談交じりに言った。
「さあ、どうでしょう? 私にもよくわかりません。ですが……オーウェンさんお待たせしました。ここからが本番かもしれません」
さっきまでの焦りや不安を感じさせる彼女はどこへやら、今の彼女はまったく別人のようだった。オレは心の中で思った。いいだろう、お前の次の一手がどんなもんか、オレは楽しみにしているぜ。
たるひの次の一手を待っていたその刹那、目の前にいた彼女が突如として消えた。オレの目には彼女の動きが捉えられず、瞬間的に混乱が生じる。その直後、オレは強烈な衝撃波を感じ、それによって微弱なダメージを受ける。
「ぐっ」
オレはその衝撃に耐えた。なにがあった?
そのとき、オレの後ろ、コロッセオの遠くでガガガガガという音が響き渡り、オレは振り返った。そこには、地面に刀を突き刺した彼女の姿があった。
「オレの横を通り過ぎたのか……?」
おいおいおい。なんて無茶苦茶なスキルを作りやがるんだ。ソニックブームかよ。その速度は見るほうも動くほうも人間の限界超えてるだろう。オレは彼女のこの無茶苦茶な能力に、半ば呆れながらも感心していた。
「ただ」
たるひが見せたその驚異的な速度、それが強力なのは間違いないが、制御できるかどうかが問題だ。
彼女のスキルは確かに凄まじいが、その制御ができなければ、ただの無駄な力に過ぎない。オレは彼女が刀を地面に突き刺したところを見て、考えた。
「まともに当てれないだろうな」
彼女がその力をどう扱うか、それがこの戦いの鍵になるだろう。制御できれば、彼女は驚異的な戦士となる。しかし、制御できなければ、彼女自身がその力の犠牲になる可能性もある。
~たるひ side~
私はガクガクしながら立ち上がり、「し、死ぬかと思いました……」と、私は声を震わせながらつぶやきました。
もう少し反応が遅れていたら、私はコロッセオの壁に突っ込んでいたかもしれません。
私は刀を地面に突き刺すことで、何とか自分の身を守ることに成功しました。しかし、その衝撃は私の全身を駆け巡り、立っているのもやっとの状態です。
このトランスは確かに私を強くするものですが、まだ完全に制御できていません。全力で動くのはやめておいたほうが良さそうですね。
「では、改めて……」
深く息を吸い込んだ私は、今度はゆっくりと、しかし確実に一歩を踏み出しました。先ほどのような無謀な速さではなく、今回は幾分かは遅い速度で前進することにしました。これならば、トランスの力を制御しながら戦うことができそうです。
ガキンという音がコロッセオに響き渡りました。それは、鉄と鉄がぶつかり合う音――オーウェンさんの刀と私の刀が交錯した瞬間の音でした。
オーウェンさんは驚いたように言いました。
「いや、すっげぇな。てっきりオレは自爆すると思ってた」
私は集中を崩さないように注意しながら答えます。
「いま話しかけないでください!こっちも必死で慣れようとしてるんですよ!」
私たちの刀は再びぶつかり合い、金属がぶつかる響きがコロッセオを包み込みました。私はこの新しい力を使いこなすために、全神経を集中させていました。
「狐火!」
私はオーウェンさんの注意を逸らすために狐火を発動しました。しかし、予想外のことが起きました。私の周囲に現れたのは、炎ではなく、5本の氷柱でした。これも私が発動させた「トランス」の影響なのでしょうか。
氷柱は、停滞することなく、驚異的な速度でオーウェンさんに向かって突き進んでいきました。これは狐火とは全く異なる効果で、私自身もその変化に驚いていました。
「なんの!風車!」
オーウェンさんは刀を巧みに操り、氷柱を全て防ぎました。
この機会を逃すわけにはいきません。「刹那」と私は心の中で呼びかけ、時間が一瞬にしてスローモーションのように変わりました。
「やああああ!」
私は渾身の突きをオーウェンさんに放ちました。
「突きをいなすのは得意でね」
オーウェンさんは自分の鞘を取り出しました。彼はその鞘を使って、私の刀の突きを歪めてしまいます。
「私は狐なので化かすのがお仕事だそうです」
その瞬間、私の足元から紅葉が舞い上がり始めました。これは私の「秋葉の舞」スキルです。今回は攻撃としてではなく、オーウェンさんの視界を塞ぐために使うことにしました。
紅葉が舞う中で、オーウェンさんと私は激しく刀を交えました。彼の鞘での防御を見極めながら、私は刀を振り回し、彼と何度も打ち合いました。
オーウェンさんは、紅葉が舞う中で私に向かって笑いながら言いました。
「風流だねぇ!彩ってくれてるのかい?」
「そういうわけじゃないんですけどね!」
私は飛び上がり、空中からオーウェンさんに向かって上段から斬りかかります。
空中からの攻撃は、オーウェンさんによって防がれました。彼は冷静に言いました。
「空中じゃ動けない。悪手じゃないかい」
その時、紅葉が周囲をさらに濃く覆い始めました。
そのとき私の刀を弾いたオーウェンさんの横なぎが私の体を切り裂いた。
かに見えました。
「そこには尻尾しかないですよ?」
この紅葉は、狐影スキルを使うための隠れ蓑でした。しかし、オーウェンさんは偽物をすぐに見抜く洞察力を持っています。そこで、私は自分の一部をおとりにすることにしました。私の刀が弾かれたとき、その勢いで空中で一回転し、尻尾をその部分に置いて狐影を使用したのです。
私の狐影を利用した戦略が功を奏し、ついに私の刀がオーウェンさんの体に届きました。
オーウェンさんは大きな声で笑いながら言いました。
「は、ははは!! 本当に今日は驚くことばかりだ。嬢ちゃん、いやたるひ。ここから先はただの自己満足になるが良ければオレの全力に付き合ってはくれないか?」
「はい!私も全力で最後まで戦わせてもらいます!」
「その意気気に入った!だがもう限界がきているだろう?」
「……」
たるひの限界というよりも姫華の精神的な限界が大分近いのは確かです。
こんなに集中したのはいつ以来でしょうか……
オーウェンさんは決意を固めたように言いました。
「だから一合だ。次の一回で仕舞いにしよう」
彼はその言葉を残すと、刀を仕舞い、代わりに柄の長い両刃の大剣を取り出しました。
「まだ試作品なんだが、この舞台で日の目を見るのはちょうどいい!」
私はオーウェンさんが新しい武器を取り出すのを見て、その驚異的な大きさに驚きを隠せませんでした。しかし、同時に私の心は決意に満ち溢れていました。もはや迷うことはありません。
「トランス」を使えるようになってから、私には新たなスキルが使用可能になりました。私はそのスキルにすべてをかけてみることにしました。