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第24話 エルヴィン


 ~エルヴィン side~


 私、エルヴィンはコロッセオの中央に立ち、手に持った杖を高く掲げる。四つの基本属性―火、水、風、土―を組み合わせ、それらを相互に反発させて莫大なエネルギーを発生させる。このスキル「エレメントデストラクション」は、広範囲を一掃するのに非常に有効だが、その長い詠唱時間とクールダウンは、私にとっての最大の弱点だ。


 私が詠唱している間に、コロッセオの中心に迫ってくるプレイヤーたちが、一斉に私が仕掛けたトラップにかかる。地面から突如現れた木の根が彼らを捕らえ、動きを封じた。自分の弱点は熟知している。だからこそ、トラップを設置しておいたのだ。


「さて、キャロルの隣にいたあの狐耳の子……彼女が気になっていたけど、今のところ動きはない。杞憂だったようだね」


 残っているのは彼女たちを含めて十数名。これならば、この一撃の射程内に十分収まる。


「しかし、近接戦になると、話は変わる。本選ではあの男やキャロルのような強者とどう戦おうか……」

 

 そんな考えを巡らせながら、私は杖を高く掲げ、力強く呪文を唱える。


「エレメントデストラクション!」


 その瞬間、爆発がコロッセオの中心から波のように広がり、猛烈なエネルギーが全体を包み込む。

 光と炎が交差し、一瞬で広場を覆う。周囲にいたプレイヤーたちは、その圧倒的な力の前に為す術もなく吹き飛ばされる。


 私は中心から広がる爆発を見つめ、その光景に満足の表情を浮かべた。この力があれば、予選の勝利は確実だろう。





「この戦場が吹き飛んでしまうところだったかな?」


 私は煙に包まれたコロッセオを見渡しながら、フィールドが元に戻るのを待っていた。私の放った「エレメントデストラクション」によって、この場はすでに私のものだと確信していた。



 その刹那、煙の中から何かが飛び出してきた。それは金色に輝く強烈な蹴りで、私に向かって閃光の如く襲いかかってくる。私はその一撃に対応できず、脇腹にそれを食らい、力強い衝撃によって吹き飛ばされた。


 空中で体をひねりながら、私は地面に激しく叩きつけられる。私は一瞬、思考が停止するほどの衝撃を受けてしまった。


 私は苦痛に顔を歪めながらも、何とか体を起こし、襲いかかってきた相手を警戒する。まさか、このタイミングで反撃に出る者がいるとは……。








 



 ~たるひ side~



「エレメントデストラクション!」


 エルヴィンさんのいる中心から爆発が少しずつ波のように広がっていきます。

 あれを避けるのは……無理でしょう。

 

 しかし、その時レオンさんが前に出ました。


「ふぅ……知っているか?盾役タンクには盾役タンクのプライドがあるんだ」


「レオンさん?」


「俺がいるときに後衛は死んでもやらせない」


 するとレオンさんの姿が前のダンジョンの時のように竜の姿に変わっていきます。


「そういえばレオンさんは竜になれたんです!それなら耐えれるんですね!」


 私はレオンさんの変化に驚きながらも、安堵の気持ちを感じていました。彼の竜の姿は前に見たときよりもさらに大きく、がっちりしていて、強力な守護者のように見えました。


 私の言葉には反応せず、レオンさんは両手で私を抱え込みました。彼の眼差しは真剣そのもので、言葉には決意が込められていました。


「オールレンジカバー、いいか?作戦を伝える。たるひ、君が勝つんだ」


「それってど……」


 私が言葉を続ける間もなく、レオンさんは私を竜の体全体で包み込みました。その瞬間、エレメントデストラクションが私たちを飲み込んでいきます。


 一瞬のうちに爆発の衝撃と熱が私たちを襲い、全てが真っ白になりました。





 

「けほっ……レオンさん?」


 声を出してみるものの、周りが砂煙に包まれているため、視界は限られています。私は慎重に周囲を見渡しましたが、レオンさんの姿はどこにも見えません。


 その時、パーティーの状態を確認すると、私はもう一人だけになっていました。レオンさんとのPTは解消され、私は一人残されていたのです。


 

「……けほ」


 混乱と衝撃で思考が乱れかけていましたが、私は心を落ち着けます。レオンさんの「たるひ、君が勝つんだ」という言葉が、私の心に強い光を灯します。彼は私に全てを託してくれたのです。その信頼と期待に応えなければなりません。


「私は勝てますか?」


 ひっそりとしたコロッセオで、私はふとそんな独り言をつぶやきます。

 

「いえ、レオンさんが信じてくれたんですから、私も自分を信じましょう」


 インベントリを開き、そこから刀を取り出します。砂煙がコロッセオを覆い隠していて、視界は悪いです。でも、私は迷いません。エルヴィンさんはおそらくこの荒れ狂う砂の中心にいるはずです。


 刀をしっかりと握りしめ、私は静かに走り出します。足元は不安定で、砂が舞うたびに前が見えづらくなりますが、私の決意は揺らぎません。エルヴィンさんとの対決、もしかしたら、それがこのトーナメントでの私の最後の戦いになるかもしれません。



 エルヴィンさんの声が砂煙の中から聞こえてきました。その声を聞いた瞬間、私はもう一切の迷いを捨て、彼の方向へと全速力で走り出します。心の中で「刹那」と呼びかけると、周囲が一瞬にしてスローモーションのように変わります。この瞬間、私の感覚は鋭く研ぎ澄まされ、エルヴィンさんの位置を正確に捉えました。


 砂煙から一気に飛び出し、エルヴィンさんに向かって私は左斜め下から「クレッセントストライク」を繰り出しました。この三日月の軌跡を描くような動きの蹴りは、エルヴィンさんに向けて放たれ、彼の脇腹に直撃しました。驚きと共にエルヴィンさんの体が吹き飛ばされ、砂煙がさらに激しく舞い上がります。



「お、驚いたな。さっきのはどうやって避けたんだい?」


 エルヴィンさんがよろけながら立ち上がり、私を見つめながら問いかけます。


「レオンさんが私に託してくれたんです。彼のおかげで、エレメントデストラクションを耐えることができました」


「なるほど、そういうことか。君もやるね。でも、まだまだ終わりじゃないよ」


 エルヴィンさんは少し驚いた表情を見せながらも、次第に笑みを浮かべました。


「いえ……申し訳ありませんが、もう詠唱させるわけにはいかないのです。連」


 スキル:連

 効果:刃系武器の基本スキル。攻撃が命中する度に威力が上がっていく、プレイヤーがダメージを受けると解除される。※上限1.5倍



 私は一気に攻勢に出ます。エルヴィンさんは自身の杖を巧みに使い、私の攻撃を防いでいますが、次第に私の攻撃が彼に命中し始めました。


「連」の効果が積み重なるごとに、私の一撃一撃の威力は増していきます。エルヴィンさんはそれを感じ取っているのか、少しずつ表情が硬くなります。彼の防御は依然として堅固ですが、私の攻撃の連続により徐々に隙が生じ始めています。

 

「クダ!」


 私は竹筒からクダを呼び出し、エルヴィンさんに呪縛をかけようとします。しかし、クダの呪縛はエルヴィンさんによってレジストされ、いつもの巻きつくことができません。


「相手の動きを拘束する魔法は、相手のINT+MENを超えていないと成功しずらいんだよ」


「教えてくださってありがとうございます!!」


 戦闘の激しさが増す中、私はエルヴィンさんとの会話を交わしながら、刀を持った手の動きを速めていきました。エルヴィンさんは杖で防御を固めているものの、私の連続攻撃は次第に彼の防御を突き崩し始めていました。


「くっ、なかなかやるね!」


 攻撃が続く中、エルヴィンさんの防御にわずかな隙が生まれました。それを見逃さず、私は一気に攻め込みます。彼の杖がふらつき、その隙をついて私は刀を振り下ろしました。


「今です!」


 その瞬間、地面から木の根が生えてきて私をとらえました。


「便利だろう?お気に入りなんだ」


「そうですね。ただ、さっき見ているので。炎狐の舞!」


 私は木の根に捕らわれた状況を一瞬で把握し、即座に反応しました。エルヴィンさんの声がまだ耳に残っている中で、私は「炎狐の舞」を発動しました。


 私は周囲に狐の幻影を作り出して、周囲を炎で包み込みます。それが周囲の木の根を焼き尽くし始めました。


「なかなかやるじゃないか。しかし、そう簡単にはいかないよ」


 やっぱり、魔法攻撃は効き目が薄いですね。

 でも、これで最後です。


「時間を与えてしまったじゃないか、アイスバースト!」


 炎狐の一体が直線攻撃によって消されてしまいました。


「こっちです!」


「見えてるよ、これ連射できるんだよね」


 エルヴィンさんはその方向に「アイスバースト」を連射します。

 でもそっちは……


 なにかにアイスバーストが弾かれました。

 

「なっ!」


 そこには狐影の能力で私が投影されているヨミの姿がありました。


 この一瞬の隙を逃すわけにはいきません。


「これが最後です!」


 私は「刹那」のスキルを発動し、瞬時にエルヴィンさんの胸元へ刀を突き刺しました。時間が一瞬だけ遅くなったように感じられる中、私の動きは彼にとって予測不可能な速さで迫ります。


 私の刀がエルヴィンさんの胸に達すると、彼の表情は一瞬驚愕に変わりました。その瞬間、彼は何も言葉を発することなく、力なく立ち尽くします。


 そして、彼の姿は静かにドットになり、ゆっくりと消えていきました。その消失する姿を目の前にして、私は刀を地面に深く突き刺し、その柄をしっかりと両手で握りました。まるで杖のように、刀は私を支えてくれていたのです。戦いの激しさが体中に残る中、私は深く息を吸い、ゆっくりと息を吐き出しました。



「勝てた……勝てました」

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