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第22話 予選トーナメント(2)


「なっ……!?」


 私の死角からの一撃は1人にまともに直撃をしてそのプレイヤーはドットになって消えていきました。どうやらこのトーナメント中は瀕死の状態からの蘇生はできないようです。


 残った敵プレイヤーたちは一瞬動揺しました。その隙を逃さず、レオンさんも反撃に転じます。彼の剣が空気を裂き、残る敵に向かって猛烈な一撃を放ちます。


「たるひ……!?」


 レオンさんの声に驚きが混じっているのが聞こえました。しかし、私は答える余裕もなく、ただ次の行動に集中していました。



「クダ!」


 竹筒を開いて、怯んでいる剣士のような敵にクダを向けます。クダは瞬く間に空を切り、敵の身体に巻き付き、彼の動きを呪縛で完全に封じてしまいます。


「それと秋葉の舞です!」


 その間に、もう1人の敵に向けて秋葉の舞を使用します。紅葉が舞い上がり、旋風が敵を包み込みます。威力が足りず、相手にとどめを刺すには力不足でしたが……予想通りです。



 秋葉の舞が終わり、紅葉が夜の森に静かに降り注ぐ中、周囲を警戒し続けていました。


「惜しかったがまだHPはあるぞ!そこだ!」

 

 

 敵プレイヤーが私を目掛けて槍を振り下ろします。しかし、彼の槍が突き刺さったのは、ただの紅葉の山でした。



 私の「狐影」スキルで作った幻影に攻撃した直後、レオンさんが敵の背後から現れ、彼の不意を突いたのです。


「はあ!!」


 紅葉が静かに舞い散る幻想的な光景の中で、彼の剣は敵の胸を見事に貫きました。

 その後、敵プレイヤーはドットに変わり、消えていきました。


「クダ、もういいですよ」


 私は狐火を使い、残った1人のプレイヤーにとどめを刺します。私が放った狐火は、青白い炎を描きながら彼に向かって飛んでいき、彼を捉えました。レオンさんとの戦いがあって、彼のHPはかなり減っていたようですね。プレイヤーがドットに変わると、クダは軽やかに空中を舞い、私の元に戻ってきます。


「たるひ、助かった。ありがとう。でも、どうして助けてくれたんだい?」


 レオンさんが私に向かってそう問いかけると、私は少し言葉を選びながら答えました。


「上手く言えないのですが……そうしたいと思ったからです。それだけじゃダメでしょうか?」


 彼は私の答えに少し驚いたような表情を見せた後、温かい笑顔を浮かべて言いました。


「いや、それで十分だよ。感謝する。でもこれで、俺たちは敵同士になるかもしれない。それでもいいのかい?」


「はい、それでも大丈夫です。でも、敢えてお願いがあります。私とパーティを組んでくれませんか?」


 レオンさんは少し驚いた様子で、私の提案をじっと考え込みます。彼の表情には、計算と直感が交錯しているような様子が見えました。


「うーん、それも一つの戦略か。まあ、いいだろう。だけど、トーナメントでは最後は一人だけが生き残る。その時、どうするつもりだ?」


 私は彼の問いに、もう心の中で答えを決めていました。


「全力で戦いましょう!今はお互いに助け合って、最後まで残る。その後は……最後までお互いに全力で悔いのないようにです。キャロルさんとも約束したので迷う必要なんてなかったんです!」


「……君って子は」


 レオンさんは私の言葉に少し笑いながら呟きます。


「少し見ないうちに大きくなったね。さて、ではこれからの戦い、お互い全力を出し合おう。最後は一人だけど、それまでの道のりを共に歩もう」


 レオンさんが私の方に手を差し伸べてきます。私たちは再び手を握り、決意を新たにしました。


Lionheart(レオンハート)とPTを組みました】


 私たちが会話していると、突然、HINAのAIの声が響き渡ります。


『各参加者の皆様、フィールド移行の30秒前です。ご準備を』


 そして、カウントダウンが始まります。10、9、8……と数字が減っていき、私は心の準備を整えます。


『3、2、1……』


 そして、周囲の景色が一変しました。夜の森から広大な平原へと変わり、私たちは開けた空間に立っていました。


「なんだ、もう次のフィールドに……」


 新しいフィールドは見通しが良く、隠れる場所が少ないです。ここでは戦略を変えなければなりません。


「まだ30分も経っていませんよね?」


「そうだな、5000人も脱落したとは……一体なにが起きているんだ」


 あまりにも早い半数脱落に、私たちは驚きと戸惑いを隠せませんでした。


「そこの二人!狐耳のほうは久しぶりだな」


 突然現れたのは、森フィールドで気絶していた人でした。彼は私たちを見つけ、決意に満ちた表情で近づいてきます。


「あなたは……」


「久しぶり?」


「ええ、あの人とは森フィールドで一度会っているんです。でも、その時は狐火を見て気絶してしまって……」


 彼が私たちの近くに来ると、レオンさんは警戒しながらも彼に対して穏やかに挨拶します。


「ああ、久しぶりだな。どうやら無事で何よりだ」


「いや、お前じゃない。狐耳のほう。ツェントラルライヒ以来じゃないか!」


 あ、さっきの出来事は忘れているみたいですね。それにしても、なぜ私の狐耳にそんなに興味があるんでしょうか……


「あ、あの動物の耳ならあなたにもあるんじゃないでしょうか?」


 私は彼に向かって少し戸惑いながら言いました。


「わかってない!ケモミミと尻尾は女の子についてるからこそいいんじゃないか」


 多分、話は聞いてくれないタイプの人だと思います。今も「なのに姉貴はショタにこそ至高とかいいやがる」って、よくわからない独り言を言ってます。


 私とレオンさんは困惑しながらもとりあえず聞いてみることにしました。


「それで何か用があったんじゃなかったのか?」


「そうだ、そうだ!フレンドを頼む!」


「え、さすがに嫌です……」


 私は彼の要求を断ります。彼の突然の要求に戸惑いを隠せず、少し後ずさりしてしまいました。

 どう考えても良いって言えませんよね。


「なんで!?じゃあこうしよう。俺が勝ったら頼む」


 彼突然そう言って、武器であろうヌンチャクを取り出しました。彼の突然の行動に、私は驚きを隠せません。


「俺たちはPTを組んでるから2対1になるがそれでも?」


 レオンさんが私の前に立ち、彼に向かって言い放ちます。彼の態度は冷静で、相手に対する挑戦を受ける覚悟が感じられました。


「全然構わない。俺のヌンチャク一つで十分さ!」 


「そこまでする理由がわかりませんが……」


 その時一瞬のうちに彼が、私の目の前に迫りました。なにかスキルを使われたのだと気づいたのですが反応は遅れてしまいます。


「先手必勝ってな!」


 ギーン!!という鋭い音が響き渡り、その一撃はレオンさんの盾によって見事に受け止められます。


「さすがにそうはいかないさ」


 レオンさんの迅速な対応に、私は安堵の息をつきました。彼の盾の動きは確かで、彼の表情からは冷静さが感じられます。彼の盾が受け止めたその衝撃にも関わらず、彼は微動だにしません。


「……狐雨」


 空には一片の雲もないのに、不思議と雨が降り始めます。

 少量ではありますが、レオンさんのHPを回復できました。


「狐火!」


 私は周囲に5つの狐火を浮かべ、攻撃のタイミングを計っています。



「雨?たるひのスキルか……」


 レオンさんは盾をしっかりと構え、ヌンチャクを振るう敵に集中しています。


「それにしても、ヌンチャク相手はやり辛いな」


「守ってばかりじゃ終わらないぞ!」


 敵は一気に攻勢に出てきます。彼のヌンチャクはさらに速く、激しく振り回されて、レオンさんに対して連続攻撃を仕掛けてきます。


 「なら少し攻めるぞ?」


 レオンさんは敵のヌンチャクの攻撃を盾で弾き飛ばし、そのまま流れるように敵の攻撃の軌道を変えます。敵は慌てて攻撃を続けますが、レオンさんはそれを容易くかわしながら、一歩も引かずに前進を続けます。盾を使った攻撃は重く、しかし緻密で、敵の態勢を徐々に崩していきました。


 敵のヌンチャクは速いですが、レオンさんの盾の動きはそれを上回る上手さです。一瞬の隙をついて、彼は盾の縁で敵のヌンチャクをはじき、さらに盾で強く押し込んで敵を圧倒しています。その動作は滑らかで、まるで水が流れるような自然さがあります。


「くそっ……硬い」


 敵プレイヤーは、レオンさんの圧倒的な防御と反撃に押されてバランスを崩し、一瞬の間に後ろに下がるしかありませんでした。


「たるひ、いまだ!」


「はい!」


 後ろに下がった瞬間を狙って私は狐火を放ちます。


「いや、まだだ!」


 彼は態勢を崩したながらも、ヌンチャクで狐火を迎撃します。最初の狐火を弾き飛ばし、続く二発目、三発目も同様に防ぎます。


「三発も弾かれるとは……!」


 レオンさんの声にも驚きがこもっていました。私はその場で一瞬戸惑いを感じましたが、すぐに次の行動に移ります。


 私は残りの狐火を戦略的に使うことにしました。まずは、あえて少し間を空けてから4発目を発射します。相手はこれまで通りヌンチャクで応戦しようとしますが、この狐火はわずかに軌道を変え、彼の防御をすり抜けます。


「なっ!」


 敵プレイヤーは一瞬驚きの表情を見せ、狐火が彼の側面に当たります。その衝撃で彼はバランスを崩し、一瞬の隙が生まれました。


 このチャンスを見逃さないように、私は最後の狐火、5発目を放ちます。この狐火はより高速で、より正確に敵の方向へと向かいました。彼は回避しようとしますが、今度は間に合わず、直撃を受けます。


「よし!」「やりました……!」



 その瞬間、フィールドが再び移行しました。私たちは草木がまばらな平原から、乾燥した荒野へと変わった環境に立たされていました。空はより一層澄み渡り、遠くまで見渡せる広大な地平線が広がっています。


「もう荒野のフェーズになったのか……!?」


 レオンさんが驚きの声を上げます。荒野のフェーズは、予想外に早く訪れたようです。


「カウントダウンなんてありました?」

 

 私は混乱しながらも、確認のために尋ねます。


「いや、それよりも先ほどの彼を倒せたか確認しないといけない」


 レオンさんは落ち着いた様子で、先ほどの戦闘のことを思い出しています。荒野のフェーズへの突然の移行により、私たちの注意は再び戦いに集中する必要がありました。

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