第21話 予選トーナメント(1)
予選は32ブロックあるうち、私は7ブロック目に参加するようです。1ブロックには1万人もの参加者がいて、最終的には1人になるまで戦うことになるみたいです。こんなに大勢の中から勝ち上がるのは大変そうですが、私も頑張らなくちゃいけませんね。
「じゃあ、あたしはいくわ。くれぐれもエルヴィンには気を付けるのよ?」
「はい、簡単には負けたりしません!」
互いにエールを交わし、私たちはそれぞれのブロックへと進みました。待機場所へ着くと、すでに大勢のプレイヤーたちがその場に待機していました。
『お待たせしました。全ブロック参加者の入場が確認できましたので、各ブロック予選を開始しようと思います』
相変わらずどこか機械的なHINAの声ですね。
これだけの人数がいるんですか……本当に今日一日で終わるのでしょうか?
『ルールの説明をさせていただきます。制限時間は3時間となります。初期の戦闘フィールドは森林地帯からスタートし、参加者の数が半減するごとに次の段階に移行します。森林から平原、次に荒野、そして最終的には街中となり、街中のフェーズで参加者が50名になった時点で、フィールドはコロッセオへと移動します。それぞれのフェーズでの戦い方や戦略が鍵となりますので、ご注意ください』
ただ戦うだけでない、この多様な環境に私は思わず息をのみます。
そんな中でキャロルさんが以前に言っていた「戦闘を少なくする」というアドバイスが、私の頭をよぎりました。確かに、このような環境では、ただ闘うだけではなく、いかにずる賢く生き残るかが鍵となるでしょう。
『さらに、この予選ではパーティーを組むことも自由です。ただし、ご注意いただきたいのは、本選に進出できるのは各ブロックから1人のみということです。また、各ステージへの移行時には30秒のカウントダウンが表示されます。そのカウントダウンは次のステージへの移行の目安としてご利用ください』
PTが組めるルールは、一見すると協力を促すように見えますが……結局、最終的には一人しか本選に進めないので、喧嘩や裏切りの元になりそうです。
まあ、私のように知り合いが少ない場合、その点ではあまり影響を受けないかもしれませんね。
『では、準備はよろしいでしょうか?30秒後に戦闘フィールドに移行します』
そのアナウンスが流れると、私は深く息を吸い込み、自分のこれまでの経験を振り返ります。ゲームを始めた頃の自分と比べて、明らかに成長していることを感じます。戦いの技術だけでなく、心の強さも少しながら確実に増しています。初めてこのゲームの世界に足を踏み入れた時の不安や迷いが、今は自信と決意に変わっているのです。
私は静かに目を閉じ、心を落ち着けます。カウントダウンの秒読みが始まると、私は自分自身に誓います。どんな強敵が待ち受けていても、悔いのないように全力で戦い抜くことを。
周囲の景色が一変し、私は夜の森の中に立っていました。月明かりが木々の間を照らし、神秘的な光景が広がります。夜の森は静寂に満ち、どこからか敵が現れるかもしれないという緊張感が漂っています。
「広さはわかりませんが、本当に1万人もいるんですか?」
夜の森は密集しており、視界が限られているため、他の参加者の姿はほとんど見えません。しかし、HINAの発表によると、どのブロックにも1万人のプレイヤーが参加しているはずです。
「1万人ものプレイヤーが同時に戦うなんて、想像もつかないです……」
もうそれが当たり前のようになってしまった狐火を5つ、周囲に浮かべながら、私はゆっくりと歩き始めます。夜の森は暗く、どこか不気味な雰囲気を漂わせていますが、狐火の青白い光が周りを照らし、どこか幻想的でもありました。
ガサッという音が響き、突然の悲鳴が夜の静けさを切り裂きます。
「キャアアアあああ」
「誰ですか!?」
私は反射的に振り向きます。
そこにはどこかで見たことがあるような人物がいました。彼は驚愕と恐怖の表情をしていますが、一体何に怯えているのでしょうか?
「ひ、火の玉……!」
そうつぶやき、そのまま気を失ってしまいました。
「お化けが苦手なんですね……」
私は彼が気絶した姿を見ながらつぶやきます。私の狐火が彼にとってはお化けのように見えたのかもしれません。
「気絶って、どんな判定なんでしょう?誰か教えてください……」
その人を放っておくわけにもいかず、私は途方に暮れてしまいます。
それに見たことあると思ったらこのビーストの人ツェントラルライヒで私たちに話しかけてきた人じゃないですか……
すると、少し遠くから戦闘の音が聞こえてきました。剣がぶつかり合う金属音や、何かが空を切る風切り音が、静かな夜の森に響き渡っています。
このままでは、戦闘の音が近づいてくるかもしれません。少し警戒しながら、様子を見るためにその方向へと静かに進んでみることにしました。音がする方向に向かいつつ、周囲の状況に注意を払い、できるだけ音を立てないように慎重に歩みを進めます。
群青色の髪、小さな角、そして長い尾を持つレオンさんが、三人のプレイヤーと戦っているのが目に飛び込んできました。彼は、以前ダンジョンで共に冒険したフレンドです。彼の戦い方は、以前に見たときと変わらず、上手く、冷静に敵を受け流しながら戦っているようです。
「レオンさんも同じブロックにいたんですね……」
レオンさんは、彼に立ち向かってくる三人のプレイヤーに対して劣勢のように見えました。私は隠れてその様子を見守りながら、どう行動するべきか考えていました。彼の戦いぶりはとても上手く、状況判断も素早いのですが、数の上でタンクだけというのは不利な状況に置かれているのは明らかでした。
「助けるべきでしょうか……?でも、これがトーナメントのルールなら、介入するのは……」
私は自分自身との葛藤に苦しみながら、レオンさんの戦いぶりから目を離せませんでした。
仮に私が助けても最後はレオンさんと戦うことになるのです。
ただ、以前のダンジョンでの共闘を思い出すと、ただ見ているだけでいいのかという疑問も浮かんできました。
「どうすればいいんでしょう……」
私の内心は激しく揺れ動いていました。理性はトーナメントのルールに従うように、感情はレオンさんを助けたいと訴えていました。レオンさんが次第に追い詰められていく様子を目の当たりにすると、私の躊躇は徐々に消えていきました。
「……助けないと」
その瞬間、私の体はもはや理性の声を聞かなくなっていました。レオンさんへの信頼と感謝、共に戦った仲間への義理――これら全てが私を動かしたのです。
私は静かにそれでいて素早く、気配を慎重に隠しながらレオンさんと敵プレイヤーたちの間に近づきます。私の心は決まっていました。このトーナメントでは、自分の信念に従って行動することが、何よりも大切だということを。
「レオンさん、少しの間だけですが、お力になります!」
私はそう叫びながら飛び出し、周囲の狐火を敵プレイヤーに向けて放ちます。これはただのゲームの戦いではなく、私の中での重要な一歩だったのです。