第17話 凸凹師弟
11/20 改稿済
12月29日の朝。
私はベッドの中で目を覚まします。布団を押しのけて、部屋の窓から差し込む朝日が目に優しいです。昨日手に入れた大太刀の使い方、おじいさまなら何か教えてくれるかもしれません。
布団から出て、体を伸ばし、深呼吸をします。鏡に映る自分の姿を見て、Ethereal Chronicleでの冒険の興奮がまだ心に残っていることを感じます。
昨日からおじいさまは出かけていて、まだ帰ってきた様子がありません。不在の彼からの教えを楽しみにしていたので、少し寂しい気持ちがこみ上げてきます。
キッチンに向かい、おばあさまが朝食の準備をしているのを見つけます。彼女はいつも通り、朝の忙しさの中でも穏やかな笑顔を見せています。
「おはようございます。おばあさま」
そういいながら私は手伝いに入ります。
「あら、おはよう。いつも助かるわ」
朝食の準備を進めながら、私はおばあさまに「おじいさまはいまどこに行っておられるんですか?」と尋ねます。普段、朝食の時間はおじいさまも一緒に過ごすのが常なので、その不在が気になっていました。
おばあさまは、一瞬何かを考えるような表情を見せ、少し濁した声で「ええ、ちょっと遠くに行っているのよ。でも、心配しなくても大丈夫。すぐに戻ってくるわ」と答えます。彼女の返答には、何か言いたいことを隠しているような様子が感じられました。
その答えに私は少し首を傾げながらも、「わかりました」と答えます。おばあさまが敢えて詳細を話さないのには、何か理由があるのかもしれません。
Carols' Sanctuary
昨日はダンジョンをクリアしたあとりあさんとレオンさんとフレンド登録をして解散をしました。
今日は15まで上がったレベルを更に上げるためにもう一度ダンジョンに行く予定だったのですが……
「めるちゃんはまだこないわねぇ」
キャロルさんが鍛冶屋のカウンターで頬杖をついています。少し退屈そうです。
「もしかしたら遅くなるのかもしれませんね」
その間に、キャロルさんから借りた刀を見ながら、その使い方を考えてみることにしました。
「じゃあ、PvPの練習を先にやってみる?刀のも試せるし、ちょっとしたエクササイズにもなるわよ!」
「トーナメントの練習ですね。取るべきスキルも見えてくるかもしれません」
「なら町の外へ行くわよ!」
私たちはPvPの練習のために、ゲーム内の町の外へと向かうことにしました。
「このゲームのPvPは結構親切なのよ?」
そう言ってウインクをしながらキャロルさんが練習戦の申し込みを飛ばしてきました。
私が承諾をすると
「レベルが30固定になる練習モードが使えるのだから。これでいろんなスキルを試してみて、自分に合った戦い方を見つけるチャンスだわ!」
そして、私とキャロルさんの初めての戦いが始まります。
「レベルが上がった影響か体が前より動くような気がします」
私が感想を言うと
「それはそうよ。15だったのが2倍になったのだもの。ステータス的には大分違うわよ?」
キャロルさんは軽く笑いながら応えます。
「たるひちゃん、胸を貸してあげるから、かかってらっしゃい?」
その言葉に、私は少し緊張しながらも、キャロルさんとの対決にどこかわくわくしていました。
レベルが同じなら少しは戦えるかもしれません。
私は集中を高め、周囲に狐火を放ちます。それはまるで魔法のように青白く輝き、キャロルさんの周囲を舞うように動きます。私はこの狐火を利用して、キャロルさんに一気に攻撃を仕掛けました。刀を構え、全速力で彼女に向かって突進します。
しかし、キャロルさんの反応は素早く、彼女はハルバートを軽やかに操ります。ハルバートの長い柄が私の狐火の一つ一つを容易く払いのけます。そして、私が放った最後の一撃も、彼女のハルバートで弾かれてしまいます。
「たるひちゃん、あなたはフォックスなのよ!化かすのがお仕事じゃないの?戦い方がちょっと正直すぎるわ。予測しやすい動きと攻撃ばかりじゃ、相手にすぐ読まれちゃうわ。もう少し戦術を練って、相手を驚かせるようなことも考えた方がいいわよ。ちょっとしたイリュージョンを駆使するのも、狐の魅力なのよ!」
「そういうのはあまり得意ではないのですが……」
ずっと剣道をやってきたこともあり、化かすことなんか考えたこともなかったです。
「そこはスキルがあるから考えてみましょう?今度はあたしからいくわよ」
そういうとキャロルさんは一歩前に踏み出し、ハルバートを回転させながら私に攻撃してきます。
「いきなりですか!?」
今の私の速さは、多分一度トランスを使えた時と同じくらいだと思います。それでも、キャロルさんの攻撃の速さと正確さは圧倒的で、彼女のハルバートは私の狐火を軽々と払いのけ、私に迫ります。
私は必死に防御しようとしますが、キャロルさんの攻撃は容赦がありません。私の刀が彼女のハルバートにぶつかるたびに、彼女はさらに速い動きで応戦し、私を追い詰めていきます。
「こんなものじゃ勝ち抜くなんて夢のまた夢よ」
「……」
キャロルさんのハルバートに確かに私は防戦一方で……
でもその軌跡は確かに見えていました。
ついにその一瞬を見つけて、キャロルさんに向かって全力で一撃を放ちます。
その一撃はキャロルさんに当たり、彼女は少し驚いたような表情を見せます。
しかし、私の体はその瞬間集中力の使いすぎで限界を迎え、私はその場に疲れ果てて倒れてしまいます。
私のそばに、キャロルさんが近づいてきました。
「たるひちゃん、今のはとても良かったわ」
「キャロルさん、私もキャロルさんみたいに強くなれるでしょうか?」
私が知る限り、Ethereal Chronicleのプレイヤーの中でキャロルさんほどの強さを持つ人は他にいません。
その彼女に稽古をつけてもらえるのですから、きっと私も…
「あなたは強くそして美しくなるわ。このキャロルの弟子なのだから。いいオトメになるのよ?」
キャロルさんは私に向かって、最後にウインクをします。
「お互いトーナメント頑張りましょうね。出来れば決勝で会いましょう」とキャロルさんが言います。
私は意気込んで答えます。
「やるだけやってみます!そしてキャロルさんにきっと勝ってみせます」
私の言葉にキャロルさんはクスッと笑い、頷きます。
こうして、どこか凸凹な師弟でありながら、ライバルな関係が生まれることになりました。