第14話 ミノス=タランドス(1)
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二体のバウムを倒した私たちは、そのままダンジョンの探索を続けることにしました。このダンジョンは、なぜかクリスマスに関連したモンスターが多いようです。
「ねー、キャロルさん。前にこのダンジョンに入った時も、こんな感じだったのー?」
めるさんが蔓を巧みに払いながら聞きます。
「うん、そうよ。今日の朝に一度しか行ってないけれどね。雑魚モンスターは一緒よ。ボスはミノタウロスだったの」
彼女はハルバートを振り回しながら、バウムに続く一撃を加え、その巨体を容易く倒します。
レオンさんもまた、盾で味方を守りつつ、時折ロングソードで敵に強力なカウンターを見舞っていました。
「なんというか、慣れましたね……」
私は秋葉の舞で蔦を払いつつ、狐火を使って本体を攻撃しました。
私の手から放たれる狐火は、青白い炎を描きながら敵に向かって飛んでいきます。バウムは一瞬で炎に包まれ、脆くも崩れ去りました。
「行動パターンが分かればそんなに強くないと思う」
りあさんがそう言いながら、冷静に弓で攻撃を続けます。彼女の矢は正確無比で、敵の弱点を見事に射抜いています。
「即席PTにしては嚙み合いすぎなのよ。あたしたち」
キャロルさんが前のモンスターを全滅させながらこちらへと戻ってきました。
「えへへ、それは嬉しいな!」
めるさんが、とても嬉しそうに笑います。
「そろそろ、ボスなんじゃないか?」
レオンさんはちょっと満更でもなさそうです。
「疲れたわ。たるひ。ちょっと抱き着いてもいいかしら?」
りあさん、まだ終わってないのでせめてまたあとからにしてください。
そんなことをやっているうちに、私たちはコロッセオのような場所に出ました。
「あら、ついたのね。ここがボスの出るところよ。準備はいいかしら?」
キャロルさんの言葉と共に、全員に緊張が走ります。
「ミノタウロスなら大丈夫よ。あたし一人でも勝てると思うわ」
さすがキャロルさんです。
彼女の言葉を受け、私たちはコロッセオの中へと進んでいきました。圧倒的な大きさのアリーナに立つと、その広さと壮大さに一瞬息をのみます。
「あれがミノタウロスです……?」
目の前にいるのは、思っていたミノタウロスとは少し違う姿をしていました。それは牛というよりは、鹿のような顔をしていて、その異様な姿に一瞬固まります。
「いくよー!牛さん、こっち!」
いつも通りめるさんが元気よく挑発スキルを発動します。彼女の明るさが、緊張感の中にもほんのりとした笑顔をもたらします。
ですが、
「だめよめるちゃん!この相手をあなたが引き付けるのは無理だわ!!」
キャロルさんが急いで叫びます。キャロルさんの経験と直感が、危険を察知しているようでした。
【ミノス=タランドス】
HP: 8000
説明:
ユニークボスモンスター。強靭な肉体を持つこのモンスターは、トナカイの頭を有し、その姿は圧倒的な迫力を放ちます。その外見は、一般的なミノタウロスのイメージを逸脱しており、猛烈な攻撃力と堅固な耐久力を兼ね備え、プレイヤーにとっては手ごわい敵となるでしょう。
「……へ?」
めるさんは呆けた声を上げましたが、もう遅かったです。彼女の元へ、タランドスが投げた斧が届く直前でした。その巨大な斧は空を切り裂き、圧倒的な速度で彼女に向かっていました。
一瞬の静寂の後、緊迫した空気がアリーナを包み込みます。めるさんの安全を心配する声が、ほとんど聞こえないほどの緊張感が漂います。
「たるひちゃん、ちょっとこれを持ってくれるかしら。これ、とーっても大事なアイテムなの。あたしとレオンちゃんが敵を引き付ける間に、1分以内にめるちゃんにこれを使ってあげて。大丈夫、あなたなら上手にできるわよ」
エーテルライフ
レア度:B
プレイヤーを瀕死状態からHP30%で回復させることができる。
「めるさんは……めるさんは無事なんですか!」
私はあまりの出来事に一瞬固まってしまいましたが、急に話しかけられ、思わず心の内があふれ出してしまいます。
「無事よ、まだね。このゲームにはHPが0になっても1分間だけ瀕死状態になる時間があるのよ。でも、その間は本人は動けないし、もしもう一撃受けたら、それで終わり。だから、その間にあなたがエーテルライフを使ってあげて。それでめるちゃんは復活するわ」
私はキャロルさんの言葉を受け、すぐに動き始めます。
「キャロルさん、レオンさん、よろしくお願いします!」
私は力強く言い、二人に支援をお願いします。
キャロルさんとレオンさんは、決意を込めた表情で頷き、戦闘準備を整えました。
レオンさんは盾をしっかりと構え、キャロルさんはハルバートを軽やかに振り、敵に向かって進み出します。
「りあさん、もし何かあれば援護をお願いしてもいいですか?」
「もちろん、任せて」と冷静に答え、弓を構え、戦闘の準備をします。彼女の態度には自信と落ち着きが感じられて、すごく頼もしいです。
私は自分の役割を確認し、めるさんのもとへ急ぎます。心の中では、PT全員が無事であることを願いながら。
「斧が落ちたあたり……この辺りですか!」
私はめるさんが倒れていると思われる場所へ急いで走ります。
そこには、キャロルさんからもらった犬の着ぐるみパジャマ姿のめるさんが、ボロボロになって倒れていました。
「めるさん!大丈夫ですか!?」
「たるひちゃん……せっかく可愛いのもらったのに、こんなになっちゃったよ」
めるさんは苦しそうながらも、防具のことを心配しています。そのコメントに、私は少し笑ってしまいながら、エーテルライフを彼女に使います。
青白い光がめるさんを包み込み、傷ついた彼女の体は徐々に元の状態に戻り始めます。エーテルライフの力で、めるさんの体力は見る見るうちに回復し、彼女の表情にも再び生気が戻っていきます。
「こんなアイテムがあるんだね……」
めるさんが起き上がりながら言いました。彼女は不思議そうにエーテルライフの残骸を見つめています。
「もう大丈夫なんですか?」
「全然大丈夫!」彼女は元気に答えますが、「あぁ!?」
「どうかしたんですか!?」
「ぱじゃま……直ってない」
着ぐるみパジャマがボロボロのままで、彼女は少し残念そうです。
「なにかあったのかと思いました」
私はほっとした表情で一息つきながら言いました。
「めるさん、みんな戦っています。一緒に勝ちましょうね」
「うん!パジャマの恨み、絶対に許さないんだから!」
私たちは急いで戦場へと戻り、キャロルさんとレオンさんが果敢に戦っている場所に合流します。彼らはタランドスに立ち向かい、その巨大な姿を防御しながら攻撃を続けていました。
「お待たせしました」
「める、復活です!ご心配をおかけしました!」
めるさんが元気いっぱいに宣言します。
その時、キャロルさんはタランドスの斧と彼女のハルバートで激しく打ち合っていました。圧倒的な力でタランドスの斧を振り払います。
「んん、ふん!あら、おかえりなさい、二人とも。この子、結構手ごわいから手伝ってくれると嬉しいわ」
「よく帰ってきたよ。俺では少し火力が足りないみたいなんだ」
レオンさんが安堵の表情を見せます。
「いいタイミングね。もう時間を稼ぐ必要はないわ」
りあさんの弓はタランドスの弱点を常に狙っているみたいでした。
そして、私たちは一丸となってタランドスに立ち向かいます。私にとっては初めての強敵とのPT戦です。