第13話 初めてのダンジョン(3)
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「ツリーのみんな、こっちを見て!」
めるさんが挑発スキルを使いました。
エターナルバウムから、クリスマスオーナメントがめるさんに向かって飛んでいきます。
レベル的に大丈夫でしょうか…?
オーナメントは光り輝きながら空中で軌道を変え、めるさんに向かって急速に近づいていきます。
「それはヘイト管理スキルかい?俺もタンク職だから手伝うよ。フォートレスシールド!」
追いついたレオンさんがめるさんの前に立ちはだかり、大きな盾を取り出します。彼の盾からは、透明なバリアが展開され、飛んでくるオーナメントを次々と跳ね返していきます。
「ほぇー……すごく大きい盾。後ろに剣がついてるんだ!」
戦いの最中にも関わらず、めるさんはマイペースに感想を言います。
その時、バウムセンチネルの蔦が二人に襲い掛かりました。蔦は空中を踊るように動き、二人を絡め取ろうとします。
「あたしを無視するなんて、つれないじゃないの」
キャロルさんが現れ、ハルバートを振り回して蔦を切り裂きます。蔦は断片になり、地面に落ちていきました。
「強いほうから倒すべきですよね。狐火」
4つまで増やせるようになった狐火の火の玉を、私の周囲に浮かべます。
いつもより、戦況をより冷静に見ることができました。5人という人数がいると、戦闘中でも周囲を見渡す余裕が生まれるんですね。
「たるひ、これをあげる。マテリアルブースト」
彼女の言葉が響くと、何かが自分にかかったような感覚がします。
「りあさん、これは?」
「マジックアップよ?」
りあさんはいたずらっぽい笑みを浮かべながら、再び弓を構えます。
「攻撃力が上がったということですね。りあさん、相談なのですが、本体を狙いたいのです。センチネルのほうの蔦はなんとかならないでしょうか?」
私の考えは、ツリー本体の木の部分や、生い茂っている葉っぱの部分に狐火を当てることで大ダメージを狙うことにありました。しかし、どうしても本体の近くにある二つの蔦が邪魔だったのです。
「そうね……多分できると思うわ。10秒後に合わせてちょうだい」
「わかりました!」
私の心は緊張でいっぱいでしたが、今までに経験したことのない新しい挑戦に対するワクワク感もありました。
「今よ、ステッチアロー!」
彼女が放った矢は輝く軌跡を描きながら飛び、命中した蔦を壁に縫い付けるかのように固定しました。蔦は動きを封じられ、もがきながらも動けなくなります。
その隙に、私は集中します。狐火を放つタイミングを計り、センチネルに向けて一斉に狐火を放ちます。火の玉は空中を舞い、煌めきながらセンチネルの本体に向かって飛んでいきました。
全弾がセンチネルの本体部に直撃すると、爆発的な炎が上がり、センチネルは炎上を始めました。火は葉っぱを包み込み、センチネル全体を燃やすかのように広がっていきます。
「燃えるクリスマスツリー……切ないですね」
「燃えている最中はダメージが出ていたみたいだけど、いまはないわ」
私とりあさんが観察しているとバウムセンチネルは炎の中で崩れ去っていきました。
「ほらほら、そんなんじゃ、男の一人も捕まえられないわよ!」
振り返ってみると、彼女はエターナルバウムとの壮絶な1対1の戦いに熱中していました。
エターナルバウムがクリスマスオーナメントを放つたび、キャロルさんはハルバートを華麗に振り回し、オーナメントを一つずつ薙ぎ払っていきます。
「効かないわね!オトメは最強なの」
エターナルバウムが蔦を繰り出すと、キャロルさんはさらにスピードを上げます。彼女のハルバートの鋭い刃が蔦を切り裂き、それらを一つ一つ無力化していきます。そしてエターナルバウムの本体にどんどん近づいていきました。
「んんんなぎ払い!」
キャロルさんが力強く叫びます。その声と共に、彼女のハルバートがエターナルバウムの本体に深く突き刺さり、その大木はまるで紙のように真っ二つに裂かれ、崩れ落ちて消えていきました。
「めるさん、レオンさん。これは一体…」
私は困惑しながら様子を見ていた二人に話しかけました。
「あはは…… キャロルさんのライバルの人がトーナメントに出るんだって」
めるさんが苦笑しながら教えてくれます。
「メールが来ていたみたいでな……それを確認したらテンションが上がって戦い始めてしまったんだ」
レオンさんがちょっと疲れたような口調で補足を入れてくれました。
「キャロルさんのライバル…」
私はキャロルさんのライバルを想像してしまいます。
キャロルさんのライバルは、長い髪を風になびかせながら、輝くような衣装を身にまとい、戦場を華麗に舞う姿。
「キャロル、甘いわよ!もっと私を楽しませて!」
「あら、それは私のセリフ。覚悟しなさい!」
二人はまるで魔法のような戦いを繰り広げています。互いに笑顔を交わしながらも、熾烈なバトルを展開しているのです。
「なんだかすごそうな人です」
「たるひちゃん、いま一瞬どこか行ってなかった?」
めるさんに言われますが、私はただ深く考え込んでいただけです。
「いえ、ここにいましたよ」と私は微笑みながら答えました。
「あら、二人ともセンチネルは倒したのね?」
キャロルさんが戻ってきました。彼女は戦いの余韻を楽しむような表情をしていました。
「りあさんのおかげでなんとかなりました」
りあさんの力強いサポートがなければ、センチネルを倒すことはできなかったでしょう。
「たるひの機転だと私は思うけど」
彼女の言葉には、私の行動を評価する暖かい響きがありました。
「いつのまにか打ち解けたみたいでなによりだわ。たるひちゃん急な話になるけれど、1日からのトーナメント、あたしも出るわ」
彼女の声には、楽しげな期待が込められていました。
「ライバルの人と戦うんですよね?」
「あら、もう二人に聞いたのかしら?」
「はい、ライバルの人もすごそうでした……」
すごいきらきらしてました。
「たるひちゃんには申し訳ないと思っているわ……サポートすると言っておきながら参加するなんて、何を言っているのかしらとあたしも思うもの。でも彼との戦いはどうしても譲れないのよ」
彼女の声には、葛藤と決意が同時に感じられました。
「キャロルさん……私はキャロルさんにずっと助けてもらってばかりなんです。だからそんなこと気にしないでください!」
私はいままで助けてもらったキャロルさんになにもできていません。
ずっと甘えてばかりじゃダメなんです。
「たるひちゃん……わかったわ!」
キャロルさんが言います。
「もし戦うことになっても、あたしはあなたのことをライバルだと思うわ。それがあたしのスタイル! そしてね、1日まではしっかり師匠だから、その輝きを私に見せてちょうだい!」
「はい!その時は私がキャロルさんに勝ってみせます!」
「俺、こういうのには弱いんだ」
レオンさんが少し涙声で言いました。
「たるひちゃん、良かったね!」
めるさんはいつものようにマイペースです。
「たるひもキャロルどっちも応援する」
りあさんも応援してくれています。
この日、私は自分が何か少しだけ前へ進めたような気がしました。キャロルさんとの深い絆、そしてレオンさん、めるさん、りあさんからの心からの応援。これらすべてが私に勇気と自信を与えてくれました。私はほんの少しですが、確実に、一歩一歩、成長しているんだと感じたのです。