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第10話 ツェントラルライヒ

11/20 改稿済


キャロルさんの提案により、私とめるさんはツェントラルライヒへの行くことが決まりました。


 フレンドコールが終わると、すぐに詳しい位置が示された地図が送られてきます。


「たるひちゃん、私、地図を読むのが苦手なの」


 めるさんは何処か遠くを見つめながら言いました。


「そんなに複雑な地図ではないようです。現在位置も示されていますし、この町名が載っている方向へ進めば大丈夫そうです」


 私はまだレベル7、めるさんはレベル6になったばかりで、本当に大丈夫か少し心配です。変なモンスターに遭遇しないようにと願うばかりです。


「とりあえず、こうしていてもしょうがないですし、向かってみましょうか」


 めるさんの目が輝き、彼女は楽しそうに言った。


「中央都市ってくらいだから、きっと大きいんだろうねー!」


 新しい町へのワクワクするような期待感と、そこで待ち受けるイベントに対する期待と不安を心に抱きながら、私たちはツェントラルライヒへの旅路を歩き始めた。


 旅の途中で私たちは古い貿易路を進んでいきました。その道はレンガでしっかりと舗装されており、歩くには意外に快適でした。古い車輪の跡が深く刻まれており、その光景は何とも言えず感慨深いものがありました。


「ここは今は使われていないのかな?」


 めるさんの問いに、私は周囲を見渡してから答えました。


「そうみたいですね。車輪の跡からはもう長い時間が経っているみたいですし、新しい痕跡も見当たりません」


 道中、たまに現れるモンスターは私たちにとっては意外とちょうどいい強さで、大きな苦労もなく進むことができました。歩き始めてから約2時間、遠くにそびえ立つ堂々たる城壁が視界に捉えられ、それが目指すツェントラルライヒらしきものでした。


「壁?」


 めるさんが小首をかしげながら言いました。


 私も目を細めて遠くを眺め


「壁……ですね」


 と同意しました。お互いに何の壁なのか確信は持てず、ただその巨大な影にただただ圧倒されてしまいました。


「地図の位置的にはあれがツェントラルライヒですね。」


 私は地図を確認しながら言いました。


「そうなると、あの壁は城壁……なんですかね?」


 私は首をかしげながら壁の高さに目をやります。


「こんなに高い城壁、一体何を想定して作られたんだろう…」


 めるさんは壁の高さとその存在理由について不思議そうに考え込んでいました。


 しばらく歩いて、ついに城門に到着しました。そこでは多くの人々が出入りしており、賑やかな雰囲気が漂っていました。


 めるさんが指を差しながら興奮気味に言います。


「きっとあそこから入れるんだよ!」


 私は周りの人々が持っている物や手続きをしている様子を観察し、少し不安げに尋ねました。


「そうみたいですね。でも、入るのに必要なものとか、特別な手続きがいるんでしょうか?」


 周囲の状況から何か手続きが必要かもしれないと感じて、私たちはそれを探るべく周りをよく見てみることにしました。


 城門で立ち止まっていると、突然私たちに声をかける者がいました。


「そこの獣耳の二人!この町は初めてか?」


「じゃ、じゃあフレンド!フレンドだけでもどう?」


 それでもまだ彼は引き下がらないみたいです。


「あ、あの……!」


 私は思い切って口を開きましたが、声がほんの少し震えていたのが自分でも分かります。


「ご親切には感謝しますが、私たちにはすでに約束が……」


 一瞬言葉を詰まらせながらも、なんとか気持ちを込めて続けました。


「あの、もうこれ以上は困ります。私たちの意思を尊重していただけないでしょうか?」


 勇気を出して言ったにも関わらず、私の声はまだ微かに震えていました。


「たるひちゃん……」


 めるさんが困っている。


 彼女一人ならいくらでもどうにかできたと思う。


 男性のフレンドらしき人が合流してくる。


「わりーまたせたな」


 合流した男性のフレンドは、私たちとのやり取りの背景を把握していないようで


「おっ、これがその二人か?」


 彼は何も知らない様子で、楽しげに私たちを見回しましたが、私の緊迫した表情に気づくと、少し首をかしげました。


「なんか雰囲気ピリピリしてるけど……どうしたんだ?」


 うつむいて、震える手で自分の袖を強く握りしめる私。そんな状況の中、


「あらん?あなたたち?あたしのフレンズに。何をしようとしてるのかしら?」


 その声に頭を上げると、キャロルさんがそこに立っていました。


 服装こそ変わっていますが、長身で目を引く彼女の姿は、ゲームを始めた初日に私を救ってくれた時を思い出させます。


「キャロルさん…!」


 あれだけ緊張していたのにどこか安堵してしまっている私がいます。


「あれがキャロルさん!? おっきい!」


 目を丸くしためるさんは、キャロルさんの圧倒的な存在感に目を輝かせながらも、彼女の背の高さに驚きを隠せずにいた。


「ちょっと、あんたたち、うちの可愛い子たちに何か用?」


 キャロルの目は鋭く、男性たちを睨みつけていましたが、その態度にはどこか楽しそうな、いたずらっぽいニュアンスも感じられます。


「いや、その、ちょっと話を……」


 男性たちはキャロルさんの圧倒的なオーラの前に弱々しく言い訳を始めました。


「話ならいいわよ、あたしが相手になってあげる。だから、これ以上この子たちに迷惑をかけないでくれる?」


 キャロルさんは微笑みながら腕を組み、その場の空気を完全に掌握していました。


「キャロルさん…また助けて頂いて本当にありがとうございます」


「もう、心配したわよ。でもまあ、大事に至らなくて何よりね」


 キャロルさんは手を腰にあてながら言った。その言葉にどこか安心を感じながら、私たちはツェントラルライヒの中心へと歩を進める。


 城壁を背にして、広々とした石畳の道が広がっている。人々は賑やかに行き交い、馬車がゆっくりと石畳を転がりながら進んでいく。どことなく懐かしさを感じさせる木組みの家々は、温かみのある色彩を放ち、屋根の上には煙突からほのぼのと煙を立てる家もあった。


「すごい…!アルフェンシュタットとは違ってすっごいよ!」


 めるさんの語彙ごいがなくなっている。


「でしょう?ここの町、一つ一つの建物がもうアートよ。アルフェンシュタットも素敵だったけど、ツェントラルライヒはまた違った魅力があるわ。」


 キャロルさんは得意げに胸を張りながら言いました。


「ねえ、あそこの建物見て!屋根の色がどれもこれも違うんだよ!それに、あの窓のステンドグラス!キラキラしててきれい……!」


 めるさんは周囲の風景に目を輝かせながら、興奮を隠せない様子です。


「ところでどうしてキャロルさんは城門のところへ?」


 私は疑問に思ったので聞いてみました。


 キャロルさんは片手を腰に当てもう片手で空中に表示されたフレンドリストを指差しながら答えた。


「あら、これ見ての通り。あなたたちが近くにいるのがわかったから迎えに来たのよ!」


 キャロルさんはそう言いながら微笑んだ。


「ここがあたしの仕事場よ」


 そう言って、キャロルさんはある建物に案内してくれました。


 ―――――Carols(キャロルの)' Sanctuary(聖域)


 それは町の一角にある鍛冶屋でした。


「わー!いっぱい武器があるよ!」


 めるさんが店内を尻尾を振りながら行ったり来たりして、そこにある武器を見て回っています。


「これは全部キャロルさんが作ったんですか?」


 並んでいる様々な武器を見ながら尋ねてみました。


「あら、もちろんよ。これらは全てあたしのハンドメイド。でもね、クオリティーはまだまだよ。完璧主義のあたしだから、自分で完璧って胸を張って言えるものを作るまで、永遠に満足なんてしないのよね」


「キャロルさんってすごいんですね!私もそんなの作ってみたいなー……」


「うふふ、鍛冶をやってみたいのかしら?」


「ううん!洋服を作りたいの!」


 めるさんは裁縫を取っているから装備とは言ってもキャロルさんとは違うのでしょう。


「あら、それはとっても素敵なアイディアね!」


「洋服作りだなんて、まあ、華やかでステキ!服もちゃんとした防具になるのよ。それは鎧とは異なって、職によってその重要性が変わってくるわ。あたし、そういうの大好き!全力で応援するわよ」


 私の友達が二人話をしているのを見ていると、心がぽっと温かくなるのを感じます。


「さあ、本題に入りましょうかしら」


 話が一区切りつくと、キャロルさんが真剣なトーンで話し出しました。


「さて、今回のイベントで最も重要なポイントをおさらいするわよ。たるひちゃん、あなたはHINAちゃんという管理AIに会いたいのよね?」


「はい、今回のアナウンスで少し違和感を感じたんです…」


 私はアナウンスの時のどこか感情のないあのHINAの声を思い出していました。


「キャロルさん、何か心当たりはないですか?」


 めるさんが、キャロルさんに向けて質問を投げかけます。


「うーん、確証はないのよねえ。でもね、大会で1位になれば、普通はそのゲームのトップがお出ましになるものだと思うの。華やかな場にふさわしい顔ぶれを揃えたいでしょうしね」


「大会の1位ですか……」


 私は思わず落ち込んでしまいます。その気持ちが直に表れるように、耳と尻尾も垂れ下がってしまう。私が出て果たして勝ち上がることができるのでしょうか?。


「あらあら、そんなネガティブなお顔はナシよ!元気出して!あたしがここにいるのは、あなたたちを全力でサポートするためなのよ!」


「大会の日程は1月からの3日間なのよ。それまでに特別ダンジョンでレベルをぐんと上げて、必要なスキルをばっちり身につけましょ。PvPのコツについては、心配しないで!その辺のことはお姉さんが手取り足取り、優しく教えてあげるから!」


「キャロルさん…」


 どうしてキャロルさんがそこまでしてくれるのかわたしにはわかりません。でも、ここまで言ってもらった以上、頑張らないわけにはいきませんよね。


「そうだよ、たるひちゃん!私も私も全力で応援するから、できることをやってみよ!」


 キャロルさんは立ち上がり、華やかなポーズを取りながら宣言しました。


「さぁ、それじゃあキャロル式特訓を始めるわよ!お姉さんがしっかりサポートするから、信じてついてきて。さ、美しく強くなるための時間よ、レッツゴー!」


「おぉー!!」めるさんが元気に叫んで、「ぉ、おぉー…」私が控えめに続くように叫びました。



「といってもイベントは明日からなのだけれどね」


「そういえばそうです」


「えぇー!?もう行く流れだったよ!!」

 めるさんが驚き、声を大にして叫びました。彼女の元気な反応に、部屋全体が振動したような気がしました。


「そんなこと言ってもしょうがないじゃない。今日はログアウトして明日からにしましょ」

 キャロルさんは軽く肩をすくめます。



 出鼻を挫かれてしまった感じはします。それにキャロルさんの特訓がどんなものになるのかはわからないです。それでも私はどこかこうしていることが楽しいと感じているのでした。


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