序章~転生~
キーン コーン カーン コーン
「気をつけぇ、礼!」
「「ありがとうございましたぁ…。」」
級長の号令でクラス全体が気だるそうに挨拶をし、私立S高校1年B組から生徒が退出したり、友達と雑談するものもいる。ここ私立S高校は首都圏でも随一の中高一貫の進学校である。この学校は男子校で、さらに高校入試がないため、人物関係に飽き飽きするものもいる。また高校に入ってからは授業も格段に難しくなり、まだ5月だというのに、すでにこのような気だるそうな雰囲気ができている(五月病のせいかもしれない)。
松村裕太は、この1年B組の生徒だ。見た目はごくごく平凡でどこにでもいるような顔つきで、成績も中の下、運動も中の下といういかにも平凡な男の子だ。その上、小学2年生から親の教育方針というやつで塾に通っており、現在も続いているため、人付き合いは下手くそ。つまりコミュ障で陰キャだ。
そんな裕太が一人で学校の最寄り駅まで歩いていると、
「あっ。裕太じゃん!また一人で帰ってんの?たまには友達と帰れよ。」
「何言ってんの、光輝。こいつ友達いねーじゃん。流石に可愛そうだろ。」
「あ、そうだったっけ?ごめんごめん悪かったわ。」
絡んできた。
光輝と呼ばれた男は裕太の幼馴染の中山光輝だ。塾には小学6年生の頃しか通っていないのに、S中学に余裕で入学。学校に入ってからの定期試験でも、毎回一桁に乗るという化け物。さらに、運動神経も抜群で、弱小サッカー部を県大会優勝まで導かせた、天才。さらにさらに、顔もイケメンで、女子に告白された回数は2桁を超えるというモテモテな野郎。正に完璧超人。唯一玉に瑕なのが、悪意があるわけではないのだが、人を傷つけてしまうことだ。
もう一人の男は、光輝の親友の田中悠輔。あまり詳しいことは知らないがサッカー部の一人で、部で光輝の次の強いらしい。こいつは悪意を持って、人を傷つける節がある。裕太の苦手なタイプである。
「別にいいよ…。事実だし…。」
「もう、拗ねちゃったじゃん、裕太のやつ。どうすんだよ、光輝。お前が拗ねさせたんだろ。」
「あぁ、すまねえ、裕太。傷つけちまった。」
「あっ、いやっ…。」
突然謝られて、少し焦る裕太。ここで変なことを言ってしまうと、悠輔に難癖つけられて面倒なことになることは容易に想像できたので、適当に誤魔化して、さっさと、どっかに行ってくれないかなぁと思っていると、
「そうだ、お前友達いないんだったら、今度サッカー部の打ち上げに来ない?いいヤツらだから楽しめると思うぞ。」
「………………?……………?…………………?………はぁ?」
思わず言われたことを理解できず、「はぁ?」という情けない声を出してしまった。…いやっ、いやっ、冷静に考えてみると、とんでもないことを言い出したぞ。殺すきか??陽キャの集まりであるサッカー部の打ち上げに、こんなガチの陰キャである僕を連れて行って、どうするつもりなんだ?
いや落ち着け、サッカー部の打ち上げにこんな見ず知らずの僕なんかが行けるはずない。そうだ悠輔が否定してくれるはず。
期待の眼差しを向けて、悠輔を見ると、
「…………。いやっ、いいと思うぜ。裕太も友達できるからなっ。」
揃いも揃って、いや…悠輔の方は悪意ありだな。って、どうすればいいんだよ。やばい、間違いなくやばいに決まっている。かと言ってサボったら、それはそれで、悠輔と光輝に「「なんで、来なかったんだ?!」」って言われる自信がある。
こんな感じで、裕太が自分の未来に絶望していたときその瞬間、
「「「ブーーーーーーーーーーン」」」
鼓膜が痛くなるほどの爆音を出しながら、突進してくる物体があった。バイクであった。時速100km近くの速さで走っており、その進行方向上には、横に広がって、歩いていた光輝の姿があった。
光輝の体はまるで石のごとく微動だにせず、硬直していた。このまま直撃すれば、間違いなく死ぬに決まっている。だが、光輝は動かない。…否動けないのだ。時速100km近くで走るものをすぐ避けろというほうが酷であろう。誰もが思った。そのまま光輝はバイクと激突して死ぬと。
「「「光輝ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」」」
先程のバイクの爆音に匹敵するほどに声を張り上げながら、光輝の体の前に飛び出すもの。
裕太だった。
裕太はこのとき、何も感じていなかった。サッカーの打ち上げに行きたくない思いでもなく、塾にもう行きたくないという思い出もなく、ただただ体が勝手に動いていたという表現が正しいだろう。
「「「ドンッっっっ」」」
「「「裕太ァァァァァァァ」」」
後に残ったのは、赤黒い液体と、力の抜けた肉体。そして、光輝の凄まじい絶叫と涙だけだった。
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光が目に差し込んでくる。僕は確か光輝をかばって死んだはず…。ここはどこだ………?まさか天国なのか?そうかやっぱり僕は死んでしまったのか。まだまだやりたいことはあったけど、体が勝手に動いていたからあれが本当の僕の意志なのか。それだったら不満はない……。………?
ここで、裕太は自分の体の違和感を感じる。体が、すごく小さく感じるのだ。天国だと、体が小さいのかなぁ?とか思っていたが、そこは別に重要ではない。体を自由に動かせないのだ。
疑問に思っていると、裕太の耳に何か聞いたことのない言語が耳に入ってくる。
「"*"~”}<“"·'~;~{¡””|:"·~¢!!」
全くわからない。一体何を言いたいんだろうと思案したが、ここで裕太は1つの結論にたどり着く。
僕転生してしまったんじゃないか?