立派なツンデレになりたい従妹は、上手くツンツン出来ずにデレッデレ
※R15は保険
※エッチな要素はほぼありません
「兄さん! 遊びに来たわ!」
「お、いらっしゃ~い」
母さんから連絡を受けていた通り、日曜日のお昼過ぎ、従妹の沙希ちゃんが家に遊びにやってきた。
大学2年生、20歳、男、1人暮らしの俺の家に、中学3年生の沙希ちゃん1人で、だ。
本当に俺と、少しでも同じ血が流れているとは思えないほどの、キラッキラ美少女沙希ちゃんと自宅で二人きり……。
もしも俺がラノベの主人公だったら、絶対に何かイベントが起こるシチュエーション!
……まぁ、俺はただのアニメや漫画好きの隠れオタクでしかないんだけどさ……。
「勘違いしてよね! 兄さんに会いたくて来てあげたんだから!」
「え? あ、うん……」
沙希ちゃんて、こんな子だったけ?
約2年ぶりに話すので、いまいち従妹との会話が噛み合っていない気がする……。
「ど、どうですかっ!? 立派なツンデレさんに、私なれましたよね!?」
「な、なれたんじゃないかな?」
「やったぁー!! そしたら兄さん、私達が提出する婚姻届を貰いに行きましょう!」
んんー!? ナンの話ですかー!?
そもそも君、まだ15歳なんだから、結婚出来ませんよ!?
昔はともかく、今は男女共に結婚は18歳からです!
「さ、沙希ちゃん? どういうこと?」
「……もしかして兄さん、私とした2年前の約束、忘れちゃったんですか?」
「ご、ごめん」
「よ~く思い出してみて下さい」
2年前。沙希ちゃん。立派なツンデレ……?
…………。
……………………。
『お兄ちゃんは、ツンデレさんが好きなんですか?』
『ああ、大好きさ!』
『それじゃあ、沙希が立派なツンデレさんになれたら、沙希と結婚してくれる?』
『勿論! 楽しみに待ってるよ!』
『うん! 沙希頑張るね!』
あ、してた。
間違いなく約束してたわ。
あの頃は、ちょうど夢中になっていたラノベのツンデレヒロインがお気に入りで、可愛い沙希ちゃん×ツンデレの可能性を想像して萌えてしまい、深く考えずに約束したんだった……。
「どうです? 思い出せましたか?」
「……うん」
「では、役所に行きましょう!」
「待って! 沙希ちゃん待って!!」
俺の手を引いて玄関に向かおうとする従妹を止める。
「む~~~っ。なんでですか? まだ何かあるんですか?」
「お、俺でいいの?」
「勿論ですよ! 私の兄さんへの想いは本物です! き、キスとかで……。しょ、証明してあげてもいいんだからね!!」
うん、あんまりツンデレっぽくはない。
というより、ほぼデレしかない。
ていうか、それはまだ色々とまずい。
「分かった分かった! 一旦落ち着こう、な?」
「私は冷静ですよ? 兄さんとのキスだって、何度もイメトレしているので――大丈夫です!」
全然大丈夫じゃねぇから!
社会的にまずいから!
と、とにかく!
沙希ちゃんは本気っぽいし、その好意は嬉しい。ならば……。
「後3年。沙希ちゃんが高校生を卒業して、それでも俺への想いが変わらなかったら……」
「今度こそ本当に、結婚してくれるんですか?」
「ああ、約束する。絶対だ」
「……分かりました」
ワンチャン、沙希ちゃんが忘れたり、俺以外に好きな人が出来る可能性もゼロじゃ……。
「一筆書いて下さい」
……あれ?
マジで俺も覚悟を決めといたほうがいいのでは?
「捺印もして下さいね」
さ、最近の女の子は、しっかりしてるんだなぁ。……本気で覚悟しておこう。
「はい、確かに頂きました。これで兄さんと3年後には……ムフフ♪」
俺が書いた念書を嬉しそうな表情で眺めながら、何やら妄想中の従妹に一言。
「あ、沙希ちゃんに宿題。立派なツンデレには、まだまだ修業が足りないので、もっと勉強して下さい」
「えぇ~? 今日のツンデレ沙希、何点?」
「100点満点で……20点」
「赤点じゃん!」
「いくら念書があるとはいえ、立派なツンデレになることが結婚の条件だったんだから……頑張らないとね?」
「うん! 沙希頑張るよ! 兄さんの好きなツンデレになって、兄さんに沙希のこと、大好きになってもらうんだから!」
……そっか、そういうことか。
ツンデレになりたいんじゃなくて、あくまでも俺に好かれたい一心で、俺の好きなツンデレに……。
俺も色々と、準備しておくか。
まずはそうだな……。
俺の母さんと、叔母さんに話を通しておかないと……。
♢ ♢ ♢
3年後。
社会人になって1人暮らしをしていた俺の家に、再び沙希ちゃんが遊びに来た。
「じゃじゃ~ん! 見て下さいお兄さん! 私、高校生を卒業しましたよ! これが卒業証書です!」
「おめでとう」
「これであとは、私が立派なツンデレさんになっているところを見せるだけですね!」
「ああ」
「では、さっそく始めます!」
念書を書いた日から3年。
それだけの月日があれば、きっと沙希ちゃんも完璧にマスターしていることだろう。
「か、勘違いしないでよね!? お兄さんが好きなわけじゃないんだから!」
お、ついに立派なツンデレに……。
「好きなんかじゃなくて、大好きなだけなんだからね♡」
はい、ツンが消えました!
デレしか残っていません!
「沙希ちゃん、もう1回!」
――ハッ!?
あまりにも真っ直ぐなデレッデレが可愛いすぎて、俺、無意識にアンコールしている!
「か、勘違いしないでよね!? お兄さんと結婚したいだけなんだから♡」
ツンデレのデレ部分が溢れまくり!
めっさ可愛い!
「お兄さん、どうですか!? これで私と……んんっ!?」
年下の女の子に、そこまで言わせるほど男は廃っていない。
沙希の唇を、俺の唇で塞いでやった。
「――ぷはっ! ま、まさか、お兄さんからしてくれるなんて……嬉しいです♡」
「か、勘違いするなよ! この3年間を待ちわびてたわけじゃねぇからな!」
「わ、すごいツンデレっぽい! 男性のツンデレも可愛いですね♡」
沙希のツンデレもどきの方が、100倍可愛いに決まってる。だから……。
「沙希ちゃん、もう1回!」
「えへへ♡ 私のツンデレ、好きになってくれましたか?」
「ああ、好きだ」
「私、沙希本人のことはどうなんですか?」
「勿論好きだ」
「どっちのほうが好きなんですか? 沙希のツンデレ? それとも沙希自身?」
「どっちも」
「ふふ。欲張りなお兄さんですね。では、リクエストに応えて――コホン」
「か、勘違いしないでくれる!? お兄さんのことなんて、大・大・大好きなだけなんだからね♡」
ツンデレのツンツン部分なんて微塵もない、ツンデレ未満の沙希ちゃんだけど……。
「あ、忘れてました! さっきはキスで誤魔化されちゃいましたが、私のツンデレさん、何点ですか!? 80点以上なら、念書の通りに結婚なんだからね!」
俺の好きなツンデレ以上に、ツンデレ未満の沙希ちゃんが可愛いすぎる。
「10000点」
「っ!! と、ということは、つまりお兄さんと……」
「沙希、俺と結婚して下さい」
「――はい、喜んで♡ あ! ち、違うよね!? お兄さんはツンデレ好きなんだから……」
恐らく、沙希は今の自身の言葉を、俺好みのツンデレに変換させているのだろう。
……上手くツンツン出来ずに、デレッデレなセリフが飛び出すのだろうけどな。
もう俺の中ではツンデレよりも、ツンツンの欠片もない、沙希ちゃんなんちゃってツンデレの虜になっているけれど……。
それはまだ、本人には言わないでおこう。何故なら――
「し、仕方ないわね! 沙希の大好きなお兄さんに貰われてあげる♡ か、勘違いしないでよ! 沙希は13歳の時にはもう――お兄さんに心奪われていたんだからね♡」
こんなデレッデレな言葉を、もっともっと沙希ちゃんに言われたいからな。
立派なツンデレになりたい従妹は、上手くツンツン出来ずにデレッデレに好意を伝えてくるので、俺は沙希ちゃんにメッロメロです。
「か、勘違いしないでよね! 沙希と従兄のお兄さんは、合法的に結婚出来るんだもん♡」