3話
爺さんが懐から眼鏡を取り出した。
本当に普通の黒縁眼鏡だ。老眼で近くが見えないのだろうか? それにしてもこのタイミングで出してくるか? 最初から眼鏡くらいかけてればいいだろうに。
「準備オッケーじゃ。うーむ。すぐにおぬしの力を測るのも芸がないか。そうじゃ、まずはおぬしがこの眼鏡をかけてわしを見てみるといい」
「なんで俺が老眼鏡かけないといけないんですか? 別にまだ老眼じゃないですよ。舐めてます?」
「老眼鏡じゃないわ。これは神しか持つことを許されておらん。スーパーアイテムなんじゃぞ!! これをかけて対象を視認することで内包している力を数字化して見ることができるのじゃ。わしはこの眼鏡で世界中の人間を観察して選び抜いたのがロドリゲス何じゃ」
ふーん、この眼鏡がそんなすごいアイテムなのか……もう少し見た目に気を使った方がよかったんじゃないか? どこからどう見てもただの黒縁メガネなんだよ。すごい感が一切ない。
爺さんがかけていた眼鏡を外し、俺に手渡してくる。
「何か拭くものはありませんか? 人がしていた眼鏡をそのままかけるのは衛生的な面から見てどうかなと思うので」
「失礼な。まるでわしが汚いみたいにいいおって!! 毎日風呂にも入っとるし、問題ない!!」
「いや、爺さんだから言ってるわけじゃないですって。誰から手渡されても同じことを言ってますから安心してください。こう見えて結構綺麗好きなんですよ俺」
人がかけていた眼鏡をかけるなんてちょっと考えるだけでも鳥肌が立つ。
見ず知らずの人となればなおさらだ。せめて、気心知れた友人であったらここまでのことは言わなかったかもしれない。
「まったくいろいろとめんどくさい奴じゃな。ほれ、これはわしが予備で持っておった分じゃ。これで問題なかろう?」
「最初からこっちを渡してくださいよ。どっちがめんどくさいんですか、それでこれをかけて何をすればいいんですか?」
「わしを見るだけで大丈夫じゃ。どうじゃ? わしの頭の上に数字が出ておるじゃろう?」
確かに爺さんの頭の上には大量に0がついた数字が並んでいる。
えーと、1,10,100……10億かな。
「10億ってすごいんですか? 数字だけ見たらすごそうですけど、比べるものがないといまいちピンと来ませんね。普通の人だったらどれくらいの数字になるんですか?」
「そんな反応をしておられるのも今のうちだけじゃぞ? 一般人の平均は10から30というところじゃな。つまりわしはその1億倍近い力を有しておるのじゃ。どうじゃ? 神と呼ばれるのにふさわしいとは思わんか」
へー、そりゃすげぇ。桁が違いすぎて実感が湧かないのが悪いところだが、しょうがないだろう。この爺さんは満足しているようだから俺が口をはさむのは野暮ってもんだ。
「すごいですね。ちょっと見直しました。流石は神様です」
「おぬしあまり感情がこもっていないようじゃが、本心からそう思っておるのじゃろうな? 適当に返事している訳ではないじゃろうな?」
「そんなことするはずないじゃないですか。本当にすごいと思ってますって。逆にこの数字を見させられてすごいと思わない奴なんていると思いますか? いないでしょ」
なんで俺はこんな場所に呼び出した爺さんの機嫌を取らないといけないんだ? マジでやってられないって。
「爺さんがすごいのはわかったけど、俺の力を見る前にロドリゲスの数字を教えてくださいよ。人類最強って言うくらいだから爺さんを超えるか迫るくらいの数字はあるんですよね?」
「おっと、そうじゃったな。おぬしの力を図ってロドリゲスと比べるというのにロドリゲス数字を教えておらんかったわ。失敬失敬。期待しておるところ悪いのじゃが、ロドリゲスで100万くらいじゃったかな。これでもダントツの一番じゃったぞ。どうじゃ? わしの凄さが際立つじゃろう」
この爺さん自分のことを神様とか言っておきながら人間相手にマウントを取るとか器の小ささが滲み出てるな。隠しきれてないぞ。もう少し考えてしゃべってくれよ。
「それじゃあ、俺はせめて1万くらいはあってほしいですね。間違えて呼び出されたのに10とかだったら許しませんから」
「わしにそんなことをいうのはお門違いというものじゃ。わしが呼び出した本人じゃが、選んだのはあくまでもわしが作ったシステムであってわし自身ではないのじゃ」
「もう言い訳はいいですから早く見てみてくださいよ。きっと驚きますから」
これで俺がロドリゲスを超えていたらシステムが爺さんよりも優秀だったってことを裏付けることになるんだがそこのところは大丈夫なんだろうか? まあ、平凡な俺に隠された力なんてあるはずもないがな。
「よし、見るぞ」
そう言って爺さんは外していた眼鏡をかけなおした。
パリン!!
爺さんがしていた眼鏡のレンズにヒビが入り、砕けた。
「どういうことじゃ? 眼鏡が壊れたぞ!! まさかおぬし測定不能なレベルの力を有しておるというのか!?」
まためんどくさいことになりそうだ。