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日常、

実際、俺には学校なんてどうでもよかった。

だから数少ない友人の意見に耳を傾けるのも別に大した問題じゃあない。

授業なんて教科書の文字列をそのまま黒板に教師が写すだけの作業。さらにそれを俺たちがノートに写す。教科書を読み、理解し、覚えること。これが目的ならば授業を聞く、と言うのはただ無駄な時間でしかない。

なるほど、それも一理あると思った。

だが、つまるところその友人は授業をサボりたいだけなのだ。

回りくどい友人のためにも俺は『サボリ』を提唱した。

友人は快く、だけどちょっと後ろめたそうな感じに、「ちょっとだけだからな」などと言いながら鞄を持って下駄箱に向かった。

ちょっとだけなら鞄を持つ必要などあるまいに。


と、移動したのはとある有名ファーストフード店。

昼前……と言うかまだ9時過ぎなので人影もなく、ほぼ貸切状態の店でドリンクとポテトだけを頼んで奥の方の見えにくい席に向かい合って座った。

それから友人の世間話が始まり、何故か変な方向へ話が曲がりだすのは1時間後。

「で、俺は思ったわけよ。学校でサボリと言ったら屋上、そうすると学園一の美少女がそこに立っていて俺に告白。だが俺は少し迷うフリをするんだ、ここが大事だぞ?そう、迷うフリをすることで彼女を精神的に駆り立て……」

「お前の妄想を話すのはいいが俺はそろそろ帰るぞ」

「ちょっ……そんなこと言うなって。悪かったよ、でも少しぐらい俺にも春が欲しい!俺の人生に潤いを!華を!」

「1つ、的確なアドバイスをやるとしよう。屋上の鍵は学校側で管理している。」

「俺ピッキング2段なんだよね」

「……もしもし?警察ですか?」

「おいそれはちょっと洒落にならな……」

「安心しろ、ちゃんと匿名で通報するから俺に迷惑はかからない。」

「その心配じゃねぇよ!」

「冗談だ」

「今のは本気で焦ったぞおい……「あのー……お客様……?」

二人が同時に通路側を見やると、ファーストフード店の男性店員がこちらを見ている。

  【仲間にしますか?】

   【はい】

  ∇【いいえ】

……じゃなくてだな。

「なんでしょうか?」

「いえあの……そう騒がれましては他のお客様のご迷惑に……」

「客いねーじゃん」

「お前は黙ってろ」

ボソッと、だが店員にも聞こえるような声量で友人が言うのを俺は頭から文字通り腕力で押さえつける。本当に空気の読めない奴だ。

「ええと……ですね、あの店長が煩い煩い……と」

……ん?店長……が?

「なんだ。要するに喧嘩を売ってきてるわけだ。いい度胸俺が……ふべっ」

「あぁすいません、今から気をつけますので」

もう一度頭を押さえつけて、スマイルスマイ……

「おい!お前店長が煩いとかそんなん聞こえるわけねーだろうが」

「おいはお前だ。2度とここに来たくないのか」

「あぁ?何わけわかんないこと言って……」

「こいつはこっちで抑えときますんで。すいませんでした。」

軽く頭を下げて謝罪。俺は友人と違って場所をわきまえるし、ちゃんと礼節も重んじる。

別に悪いのは店じゃなくて俺たちなんだから。

「いえ……分かってくださったのならいいです。ごゆっくり」

店員もこちらに一礼。

威嚇するような態度の友人も店員が去るとおとなしくなった。

また店内には静寂が訪れる。

「で?なんであそこで引き下がったんだよ」

「お前知らないのか?ここの店長の噂。」

「噂ぁ?お前駅前の7不思議でもあるまいし……」

「いや、なんか昔この店にヤクザが来たことがあったらしい」

その話はこんなものだった。


今から一年ほど前のこと。

この店が完成すると共に店長となった人はなにかと怖くて、一言で言うと『ヤクザっぽい』人だったらしい。

そんで事件が起きたのはその2ヵ月後。

元団員(なんのとは言わない)だった店長に対しケジメだのなんなので10人ぐらいの刃物を持った怪しげな人が店に入ったのだが、問題はその次。

目撃者によると熊のようにでかい店員が笑顔でその10人を迎えてこう言い放った。

「スマイル0円、水0円。ですが刃物のお持込はお断りしております。」

と、だ。

そしてその瞬間にはもうでかい店員の手の指の間には10本の刃物が納まっていたらしい。

勿論そのでかい店員が店長なんだが……。

そしたら10人は一人、一人と逃げ出して後には笑顔の店長が残ったそうな……


「……ってそれなんのホラーだよ」

「ホラーでもフィクションでもなくただの実話な。」

「いやいやいやだってそれ人間じゃなくね?」

「だからここの店長は怖いんだって」

「ぬぅ……」

おぉ、脳の少ない友人が珍しく考え込んでる。

流石にこんな話を聞けばやたらと騒ぐこともあるまい、店にも迷惑がかからなくて平和なサボリが……

「よし、じゃあ賭けよう。」

「はぁ?」

友人はついに脳が無くなってしまった様だった。少ない脳も今ので蒸発してしまったか。

「俺が店長に喧嘩を挑む。勝ったら俺に1万な。負けたらお前に1万」

「お前勝てるわけもねぇだろ……」

俺が呆れたそぶりを見せるも、効果なし。

フンっ、フンっといつもの喧嘩前の興奮状態に入ってて、もうどうにもなれ状態。

あまり友人の労しい姿はみたくないのだがこれも1万円のため。

「いってらっしゃい。」

「いってく……うぬぁ!」

席を立って通路に出た友人の前を大きな壁が塞いでいた。

いや、正確には壁じゃないのだが……転がって頭を打った友人は突然のことで目を白黒させていた。

「なんだ小僧、俺に用があるんじゃないのか?」

「いてて……なんだこのでかぶつは」

「俺が店長だ。毎度ご利用いただきありがとうございま……」

「先手必勝!」

なんと。

この壁が店長とわかるなり友人は右ストレートをその腹に叩き込んだ。

……はずだったのだが何故か転がってるのは友人。

「ぶぁっ……いてぇ!」

そして出した右腕じゃなくて鼻を押さえている。何故?

「なんだお前素人じゃねぇか。まったく余計なことして寿命縮めんじゃねえぞ」

興味なさげにふぅ、とため息をした壁……もとい店長はのそのそと店の奥に引っ込んでいった。

2メートル以上は確実にあった店長のいた空間は、彼が消えるともはや違和感さえ感じる、それほど存在感があった。

「ってかお前もいつまで転がってんだよ」

ゲシ、と蹴りを入れるも呻いたまま動かない。

面倒くさいので放置することにした。うん、帰ろう。


本日も平和、平和。

ただ帰ってから携帯の着信履歴を見たときにビビったのは幼馴染からのメールの着信件数。

『こら!もう授業始まってるよ?』

『ねえ、寝てるなら早く起きなよ』

『どうしたの?体の調子でも悪いの?』

『ちょっと!先生に確認したら朝は来てたんじゃない!』

『学校終わったら家に行くからね!覚悟しておきなさい!』

……もうちょっと出かけて来たほうがいいのだろうか。

そう思案しているところに


――ピンポーン 鉄拳宅配サービスでーすっ!


本日も平和。うん、平和。


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