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【コミカライズ】毒殺された世界無双の毒魔法使い  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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最後の一撃


「げほっ、げほっ、今のは流石に効いたよ……」


 不意打ち気味にポイズンドラゴンを叩き込まれ、更にその間にキュッテから土の砲弾を食らったアルブレヒトは、それでもなお立ち上がる。


 アルブレヒトがどれだけ強く、かつての自分が手も足も出なかったか。

 それを理解しているからこそ、ロンドは緊張することも弛緩することもなく、自然体で周囲に毒の霧を張り巡らせていた。


 現れたアルブレヒトの状態を確認すると……


アルブレヒト


稲妻型紋章(雷魔法)

健康状態 衰弱毒(×龍毒・混合毒『死に至る病』)

HP 431/922



(おいおい、これでようやく半分かよ……本当に化け物だな)


 通常『死に至る病』は、最大威力となる至近距離からの打ち込みで発動させれば、魔物であれば秒間で100近いダメージをもっていくことができる猛毒だ。


 だがことアルブレヒトとの戦闘においては、とにかくHPが減る速度が遅い。

 毒で減るHPより、攻撃を食らわせて減っているHPの方が多いほどだ。


 毒に対して高い耐性を持っているのか、あるいは雷魔法と毒魔法は相性が悪いのか……なんにせよ、時間切れを狙うという戦法では先にこちらがジリ貧になる可能性が高い。


「ここまで追い込まれるのは何時ぶりかな……いやぁ楽しい。まだ自分が死ぬかもしれないと思える戦いに巡り会えるとは……これだから戦いはやめられない」


「戦闘狂が……いい加減、くたばりやがれっ!」


 ロンドは再び毒を硬質化させるポイズンナックルを使い、アルブレヒトへと殴りかかる。

 大技を食らったダメージがまだ抜けきっていない様子のアルブレヒトは、その一撃を避け……ることなく、正面から食らった。


「なっ!?」


「ううん、痛い、やっぱり君の拳は効くなぁ……お返しだよ」


 そして攻撃後の隙を見せたロンドに対して、雷を纏わせた蹴りを放つ。

 ポイズンアクセラレーションを使い緊急回避をしようとするが、拳を振り抜いた直後のために重心が前側にあり後ろに下がれない。

 ロンドは蹴りを食らい、そのまま上にわずかに浮かぶ。


「筋は悪くないと思うが……まだまだ鍛え方が足りないね」


 直後に飛び上がったアルブレヒトの蹴り落としが、背中目掛けて襲いかかる。


「ポイズンウォール!」


 態勢上避けられないことを悟ったロンドは、咄嗟にポイズンウォールを発動させる。

 自身の背中を防護するために型でくりぬかれたようなその魔法で、最悪の事態を防ぐことができた。

 だが衝撃を完全に殺しきることは難しく、毒壁ごしに強烈な衝撃を叩きつけられる。


(けどこれなら……まだ、動けないってほどじゃない!)


 ロンドは手の届く場所に小さなポイズンウォールソリッドを出現させる。

 そして蹴り上げられ無防備になっている空中で右腕を起点にして強引に制動、更に足下にポイズンウォールを滑り台場に生み出すことで後ろに半歩引き溜めを作ろうとしているアルブレヒトの下へ急速落下。

 左右の指を交互にする形で両手を組み、ハンマーのように頭部に叩きつける。


「戦いの中で成長していくとは……美しい! なんて美しいんだ!」


 アルブレヒトの鼻から血が出るが、彼はそれにも構わずロンドに右ストレートを放ってきた。

 ロンドはその勢いを毒魔法を細かく使うことで弱めて身体で受けながら、自分の一撃を放つ。


 アルブレヒトはロンドの動きを止めることはなく、自身の身体に雷を纏わせた。

 対しロンドは己の拳に纏う毒を厚くし、それを即座に看破したアルブレヒトは全身から迸る雷の量を増やしていく。


 アルブレヒトを殴るロンドの指先は痺れ、感覚が消え始める。

 けれど距離を取って回復の魔法石を使うような無粋なことを、目の前の戦闘狂が許すはずもない。


 結果としてほとんどステゴロ同然に毒と雷で殴り合う二人は、かたや全身に痺れを覚え、かたや全身を毒に冒されながらそれでも戦い続ける。


 ロンドが最前線で身を張り続ける間、キュッテは支援に徹することにした。

 彼女は土の精霊に頼むことでアルブレヒトの足下に盛り土を生じさせ、またロンドが態勢を崩しかければ彼の目の前に土の壁を作ることで攻撃をワンテンポ遅らせる。


 ただそうしている間にもロンドとアルブレヒトの戦いは激しさを増しており、更に応酬自体も高度なものに変わっていく。

 近接戦に関しては素人同然であるキュッテには、両者の攻防の機微を理解することができない。


(私に……今の私にできることは……っ!)


 彼女は支援を入れる隙間がほとんどないことを理解し、即座に動きを変えてみせた。

 決定的な隙を見逃さぬよう、キュッテはアルブレヒトの視界に入り常にプレッシャーを与えることで、ロンドに間接的な支援を行い続けることにしたのだ。


 わずかな違いであったとしても、彼女がしていることにはたしかな意味があった。

 そのことを、相対しているロンドは正確に理解することができる。


 アルブレヒトが後ろにわずかに視線を上げるその瞬間、彼は実感するのだ。

 自分は一人で戦っているわけではないと。


 振り上げる拳がアルブレヒトの顎下を打ち抜く。

 対しアルブレヒトの拳が、ロンドの顔面を強かに打ち付けた。


「いいね、なるほど……こんな感じか」


 ロンドが成長する中、アルブレヒトもまた成長をしていた。

 現在アルブレヒトの全身には、薄く膜のように引き延ばされた雷が展開されている。

 どうやら彼はロンドのポイズンアクセラレーションから着想を得て、新たな雷魔法を開発したらしい。


 その効果は、雷魔法の条件付けによる半自動の迎撃。

 ロンドは先ほどから何度か動けなくなるくらいの一撃を当てることができているのだが、アルブレヒトは意識を失っても反射で攻撃をしてくるのだ。


「おおおおおおっっ!!」


「フフフ……まだまだ戦ろう!」


 両者が距離を離したところで、ロンドが放つ毒魔法とアルブレヒトが放った雷魔法がぶつかり合う。

 その威力は毒魔法の方が高い。

 相手もまた消耗しているのだと、ロンドは自分に活を入れながら拳を握る。


 互いの魔法が、拳が、蹴りが、頭突きが、攻守をめまぐるしく変えながら繰り出されていく。

 それは凄絶な戦いでありながら、ある種の美しさを孕んだものだった。

 けれどお互いの魔力と体力に限界がある以上、その戦いも無限には続かない。


「はあっ、はあっ……」


「次で……終わりにしようか」


 ロンドとアルブレヒトは気付けば距離を取り、踊り場の端と端に位置していた。

 戦いの余波を受けぬようキュッテは既に自身が作ったシェルターの中に退避しており、そこには未だ意識を取り戻していないアマンダの姿もあった。


 既に己の限界がそう遠くないことを本能で理解していたからこそ、二人はこのまま殴り合いを続けるのではなく、敢えて全力の一撃を放って勝負の決着をつけることを自然に選んでいた。


「すううぅっ……」


 ロンドが目を瞑りながら意識を集中させれば、彼の周囲の空気が一段重くなる。

 その全身からは紫色の魔力が迸り、瞳には強い力が宿る。そしてその背中には、放たれる大魔法が形作られていく。


「コオオォッ……」


 アルブレヒトの周囲は、今が夜とは思えぬほどの光に満ちていた。

 戦場全体を奔る稲妻はバチバチと音を鳴らし、全身から噴き出す魔力は禍々しくも怪しく光を放っている。

 そしてその後方では、高貴な光を発し頬から涙を流す、一体の女神が生み出されていった。


 とてつもない勢いで魔力を使っていくことで、二人の息はドンドンと荒くなっていき、それに比例するように背後で生じた気配はどんどんと強くなっていく。


 彼らの背中で発動の準備が整っていくのは、お互いの持てる最高の一撃――つまりは必殺技である。


 その時間はお互いにとって一瞬のようであり、そして永遠のようでもあった。

 二人はお互いを見ず、己の内側にのみ精神を集中させている。

 にもかかわらず、彼らは互いのことを他の誰よりも強く意識していた。


 今のロンドの脳内では、ここまでやってきたその道程も、目的であるマリー救出のことも、全てが意識の端に追いやられていた。


 今は、今はただ……目の前の敵を倒すために。


「ポイズン――ドラゴン!」


「サンダーゴッデス!」


ロンドが放った一撃は、彼にとって最もなじみ深く、また最も頼りにしてきた魔法であるポイズンドラゴン。

 使うのは龍毒、そして魔力は今の自分のありったけを超えた。全ての魔力だ。


 通常一つの魔法に込める魔力量は、ある程度決まっている。

 けれどロンドはその限界量を超え、更に魔力を込めすぎてはち切れそうになっている魔法に追加で魔力を込めた。

 故にこれが彼の、正真正銘の全力の一撃だ。


 毒魔法は四属性の魔法と比べても、はるかに燃費の高い魔法である。

 故にロンドは今までどれだけ毒魔法を使っても、大技を放っても、魔力切れの症状に陥ることはほとんどなかった。


 けれど今のロンドは、一撃を放つと同時に意識がなくなりかけている。

 気力を振り絞りながら、なんとか二本の足で立つ。


『GAAAAAAAAA!!』


 彼が放ったポイズンドラゴンは、普段の彼が使っているものとはその見た目が大きく変わっていた。

 先ほども放った通常のポイズンドラゴンは全身が毒で構成されているために紫色の体色をしているのだが、今飛び出している龍はその全身が真っ黒になっている。


 毒液によって構成されているために流動的だったはずの全身は黒く硬い鱗のようなものに覆われており、完全に硬質化し、まるで本物の龍のように変質していた。


『LUAAAAAAA!!』


 漆黒の捕食者に対するは、全身から雷を迸らせる女神だ。

 編み上げた髪を右側に流し、しっかりとしたロングスカートを履いている。

 しっかりとした造形をした固めの像でありながら妙に肉感的で蠱惑的であり、そしてなぜか両の瞳から涙を流している。


 今まで戦った時は見なかった、彼の正真正銘の切り札ということなのだろう。

 技を放ったアルブレヒトからは、かなり憔悴した様子を見てとることができた。


『GAAAAAA!!』


『LAAAAAA!!』


 互いに向かい合いながら近づいていく龍と女神が激突する。

 全身に紫色のオーラを纏った龍が、女神の喉元を食らいちぎらんとその顎を大きく開く。

 女神は閉じていたその瞳を開き、両手を開いて龍を絞め殺す態勢に移った。


「はああああああああああっ!!!」



 ロンドは自身が放ったポイズンドラゴンを更に魔力を追加することで強化させていく。 


 もちろん、とうに限界は超えている。

 既に魔力が枯渇し、歯を食いしばらなければ意識を保つことすら難しい状態だ。

 けれどロンドは鼻と耳から血を流し、気力と体力ををすり潰しながらそれでも黒龍を強化し続けた。


「おおおおおおおおおおおっ!!!」


 対するアルブレヒトもまた、目から血を流しながらそれに対応する。

 女神はその両手を器用に動かしながら、黒龍の勢いを削ぎ潰そうと全身で攻撃を続けている。


 毒と雷。

 この世界でただ一人ずつしかいない系統外魔法の使い手が、しのぎを削りながらお互いの最高峰をぶつけ合う。


 その魔法のあまりの激しさに巨大な屋敷全体が揺れ、足下の床材がバキバキと嫌な音を立て始めていた。


 けれどそれら全てのノイズは、二人の耳には届かない。


「おおおおおおおおっっ!!」


「があああああああっっ!!」


 互いは互いの全てをぶつけ合い……そしてその均衡が、崩れ去る。


『GYAOOOOOOONN!!』


 黒龍が女神の顔面に思い切り噛みつき、その凶悪に並んだ歯で噛みちぎってみせた。

 顔の半分を失った雷の女神はそのままその場で爆散。

 その勢いすら利用しながら、黒龍は己の敵であるアルブレヒトへと突き進んでいく。


 目の前に迫ってくる黒い龍を見たアルブレヒトはにじりよる死の気配を感じ取る。

 そして彼は――にこりと純粋な笑みを浮かべてみせる。


「――見事ッ!!」


 そして黒龍はアルブレヒトをまるごと飲み込み……勢いそのまま屋敷を突き抜け、天へと駆け上っていった――。

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