秘策
ロンドが前衛を張り、キュッテがそれを補う。
この戦い方をしていればアルブレヒトがしびれを切らし自身に対して大技を放つことは、事前に想定のできたことであった。
そしてこの瞬間こそが正に、ロンド達が待ち望んでいたものだ。
アルブレヒトの放つ雷魔法は威力が高く、攻撃を加えた相手に麻痺を与えるという極めて凶悪な魔法である。
だが決して弱点がないわけではない。
雷魔法に対抗するため彼らが事前に想定していた方策が、彼女が戦いが始まると同時に生み出したいくつもの土柱であった。
「大地よ!」
キュッテは新たに土魔法を発動させる。
ここ最近更に精霊との親和性を上げた彼女の土魔法の練度は更に向上している。
今ではただ土を生み出すだけではなく、そのまま石を生み出したり、土の中の成分をある程度弄ることもできるようになっていた。
彼女は土柱の中にある鉄分を誘導し、先端から地面を通る形の一本のラインを作り上げてみせた。
――雷魔法によって生じる雷は、自然現象の落雷と同じ性質を持っている。
故にどれだけ威力が乗っていたとしても、アルブレヒトによって打ち出された雷は、そのまま物理現象の法則に従う。
アルブレヒトが放った雷の蛇が、そのまま吸い込まれるようにキュッテが生み出した土柱へと流れていく。
「――何ッ!?」
長いこと外の世界と隔絶した幽閉生活を送っていたロンドには、雷に対する知識を持っていた。
そしてそれは自然と共に生きてきたエルフの知識によって補強され、一つのアイデアとして結実していた――。
『雷ですか……落雷が起きそうなくらい天気が悪くなった時は、大樹の下に行くように教えられていますね』
エルフ達のアイダでは、雷雲が出るほどに雨が激しくなった時、大樹の下で休むようにと口伝で言い伝えられていた。
どうやら彼らは経験則で、雷は樹齢の高い大木へ落ちるという法則を見つけていたらしい。
『それなら俺達よりも高い柱をいくつも用意しておけば……雷がそちらに流れていくんじゃないか?』
故にその性質を利用するため、ロンド達はラースドラゴン討伐の報酬があっても足が出るほどに高価な雷の魔法石を使い、実験を行った。
そしてその結果、電気を良く通す性質を持つ鉄分を多く含ませた土柱を使えば、柱から地面へと雷を流すことができることを発見する。
アルブレヒトの対策として用意した秘密兵器……それこそがキュッテが戦いが始まった際に生み出した、原始的な避雷針であった。
「大地よ!」
人を飲み込むほどに巨大だった蛇型の雷は、大量の土柱に分散することでその威力を大きく削がれていた。
吸い込まれていき残った本体はキュッテへ迫るが、それは彼女が生み出した土壁を使えば防げる程度の威力しかない。
「くっ……雷を散らしたのか!?!」
この世界に避雷針というものは未だ存在していない。
雷が落ちる場所が森などに多いということを知っていても、それを樹高と関連付け、そして雷が落ちる度にデータを取って検証をするという統計学的な素養が発達していないためである。
アルブレヒトもたしかに土壁を使われた際に弱い雷魔法は流されたことはあたが、このように大技を無効化レベルまで減衰されたことは一度もない。
自身の雷がこのような形で散らされたのは、アルブレヒトを以てしても初めての経験だった。
「ちっ、それなら……」
遠距離の雷魔法が散らされるというのなら、それならそれでやりようはある。
要は雷を散らすあの土の柱の影響を受けない雷魔法を使えばいい。
「サンダーソード!」
彼が虚空を握りながら、新たな魔法を発動させる。
その刹那、魔力が迸り、彼の両手に光の刀身を持つ雷の剣が現れた。
「近距離で……潰させてもらうッ!」
アルブレヒトは自身の中でのキュッテの優先順位を大きく引き上げた。
あの魔法は……危険だ。
雷魔法の使い手である自分の優位を、根本から崩しかねないほどに。
今ここで、必ず処理をする。
そう決意し、雷による加速で急速に接近していくアルブレヒト。
「大地よ!」
キュッテは土魔法を使い応戦するが、土台土魔法は威力よりも応用性の高さに重きを置く属性である。ここが屋内であり使える土が少ないこともあり、あっという間に接近を許してしまう。
けれどキュッテは焦ることなく、的確に土を出しアルブレヒトの足下を崩しながら時間を稼ぎ続ける。
「今です、ロンドさん!」
「ポイズン――ドラゴンッ!」
「し、しまっ!?」
キュッテに意識を向けさせたのは、ロンドがポイズンドラゴンを発動させるだけの時間を作るため。
使う毒は龍毒、そして魔力は今の自分に込められるありったけ、
生まれた紫龍は大きく顎を開け、背中を晒すアルブレヒトへと食らいついた――。
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