好機
(なんだこれは……力が、出ないッ!?)
雷魔法によって肉体を刺激し、更に肉体へ電気信号を出すことで本来の身体では発揮できぬ力と反射速度を向上させるサンダーリィンフォース。
魔法を使っている現在であれば、本来であればアルブレヒトが思った次の瞬間には動作を終えているはずだった。
にもかかわらず、未だ拳を突き出すアルブレヒトの一撃が終わらない。
それでもまだ通常時と比べれば速くはあるが、普段ではありえないほどの鈍足だ。
(これは……毒、そうか。ロンドの衰弱毒!)
アルブレヒトは龍毒と衰弱毒の混合毒である『死に至る病』の存在を知らない。
けれど毒を食らった瞬間に動きが鈍ったことから、その原因を予測するのは容易なことであった。
アルブレヒトは己の身体に全神経を集中させる。
思考から動作に至るまでの反応速度から、自身の予測を立て、実際の動きとの違いからおよその差異を割り出して動きを即座に修正していく。
(本来の力の七割程度ってところかな)
大幅な弱体化は食らったが、ロンドと戦うことを想定している時点で既にこの程度のことは織り込み済みだ。
ロンドの毒は対象の身体を蝕み、その体力をじりじりと削っていく。
故に狙うべきは短期決戦。
アルブレヒトは胸ポケットから取り出した小石を人差し指で固定し、そのまま親指で打ち出した。
「レールガン」
「ポイズンウォール」
ロンドの周囲に立ちこめている毒の霧がひとりでに動き出し、彼の前に集まる。
そして瞬時のうちに液体化し毒の壁を作ってみせた。
激突するが、レールガンの貫通力の方が高いため、わずかに拮抗した後にすぐに毒壁を貫通する。
だが既にそこにロンドの姿はない。
気付けばロンドは踊り場全体に撒いた毒の霧に紛れる形で、アルブレヒトの方へと接近してきている。
いかなる手段を使っているのか、ロンドのスピードは以前戦った時は比べものにならないほどに速い。
(あれも毒なんだろうけど……いくらなんでも、応用力が高すぎないかい!?)
ロンドから放たれるアッパーを、アルブレヒトの踵下ろしが迎撃する。
発生した衝撃波が踊り場の窓ガラスをたたき割り、二人の戦いの余波で先ほど生じた炎はほぼ全てが鎮火していた。
アルブレヒトは接近戦を繰り返しながら、ロンドの様子を冷静に観察する。
一番厄介なのは、やはり自身の決め札である雷魔法に対する耐性持ちの装備を揃えられている点だ。
頭部や手首などのむき出しになっている部分を狙うことができればその限りではないだろうが、毒を食らっている自身とほぼ同じ速度で動くことができているロンドにそこまで的確に雷魔法を食らわせるのは難しいだろう。
となるとレールガンのように物理攻撃でなんとかするか、耐性を貫徹できるだけの大技を放つ必要がある。
(後ろのエルフも……実にいやらしい位置取りをしている)
吹き飛んでいった女騎士は既に意識がなくなっているようで、地面に倒れている。
故にアルブレヒトが戦うべきは二人。
ロンドの後ろにいるエルフは、ロンドが攻撃の際に生じさせた隙を消す形で補助に徹していた。
土の散弾や槍を出されれば迎撃せざるを得ず、どうしても攻撃の機会を得ることができずにいた。
「ポイズンアクセラレーション!」
「サンダーリィンフォース!」
ロンドの拳打に対抗すべく、アルブレヒトもまた拳を突き出した。
毒を纏った紫の拳と雷撃を宿した白の拳がぶつかり合う。
毒を食らったことで、二人の攻撃力はほぼ同等。
故に後ろに後衛と毒で減っていく体力の分だけ、アルブレヒトは不利になっていく。
故にアルブレヒトはローキックでロンドを吹き飛ばした後、そのまま大きく両腕を掲げる。
そして一瞬のうちに精神を集中させ、エルフを一撃で焼き焦がせるだけの一撃を作り上げた。
「僕とロンドの戦いを邪魔するお邪魔虫は、潰さないとねぇっ! ライトニングスネーク!」
(――来たっ!)
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