再戦
二階に上ったロンド達は、向かってくる兵士達を片付けながら目的の場所へと向かっていた。
階段を上り踊り場を超えれば、その先にマリーが待っている。
「……(ごくり)」
自身が唾を飲みこむ音が、いやに大きく聞こえた。
ここに来るまでに、必要な準備はしてきた。
もちろん戦わずにマリーが助けられるなら、それに越したことはないが……
「流石にそう上手くはいかないよな」
ロンド達の向かう先、屋敷にある踊り場に一人の男が立っていた。
系統外魔法である雷魔法の使い手にして、マリーを攫った張本人であるアルブレヒトだ。
「ふふふ……待ってたよ」
屋敷の中で騒ぎが起こっていても我関せずといった感じで、彼は以前とまったく同じ微笑を浮かべている。
そしてロンド達を見てぶるぶると身体を震わせてから、芝居がかった大仰な手振りで両腕を大きく広げ、天を仰ぐ。
「あの子の近くにいればまた君と戦えるんじゃないかなと思ってたんだ。同じ系統外魔法の使い手として、一度の戦いで終わらせるのは実にもったいない。まあ余計なのが二人ついてきてはいるけど……最後に立ってるのが僕ら二人なのは変わらないだろうし」
ぺろりと舌なめずりをする様子は、獲物を見つけた肉食獣のそれだ。
彼の目にはロンドしか映っていないのが一目でわかる。
「僕は青い果実が好きでね。熟す前に死んだり、熟し切って熟れて腐ってしまう人間になれば価値はなくなるけど……時たまこんな風に、成熟しながらもみずみずしさを損なわないスペシャルな子が生まれてくるのがたまらないのさ」
バチバチバチッ!
アルブレヒトの全身から紫電が迸る。戦意を抑えきることができずに、身体から漏れ出した魔力が雷として噴出しているのだ。
目をかっ開いたアルブレヒトの揺れる瞳孔が、ロンドをしっかと捉える。
「――さあ、殺ろうか」
アルブレヒトが構えると同時、ロンド達も戦闘態勢を整える。
そして――戦いが、始まった。
アルブレヒト
稲妻型紋章(雷魔法)
健康状態 良好
HP 922/922
ロンドはまずアルブレヒトの状態を確認する。
HPが以前と比べると少し伸びているのは、彼が研鑽を怠っていないことの証明だろう。
ふざけているようにしか思えない言動を取ることも多いが、彼がこと戦いに関しては手を抜かない男であるのは間違いないらしい。
「さて、それじゃあまずは……外野から、潰していこうかッ!」
ロンド達目掛けて、アルブレヒトが紫電を纏って駆けてくる。
それに対応すべく前に出るのは、アマンダ。
ロンドは中衛としてその後ろに立ち、キュッテは最後尾で魔法を発動させる。
「大地よ!」
キュッテ達の左右に出現したのは、先端の尖った土の柱だ。
その高さは優に二メートルは超えており、若干黒みがかっている。
アルブレヒトを迎撃するわけでもないその魔法に、彼は一瞬眉根を寄せる。
けれど目の前に迫るアマンダを見て、一旦その疑問を意識の外に置く。
「サンダーショット!」
アルブレヒトが腕を振り上げ下ろすと、彼の腕から飛び出した雷が小さな散弾となってアマンダへと襲いかかる。
当たれば麻痺は免れないだけの一撃を……彼女は避けずに、そのまま前に突っ切った!
「なっ!?」
「フレア……バースト!」
瞬間、アマンダの身体から拭きだした炎がアルブレヒトへと襲いかかる。
真っ直ぐに突き進んでいた彼はそれをモロに食らい、踊り場を炎が包み込んでゆく。
「けほっ……」
噴き出した炎の勢いが弱まれば、そこにはダメージを受けたアルブレヒトの姿が現れる。
至近距離で炎を浴びたせいで若干の火傷はあったが、彼は高温を発する雷魔法の高い適正を持つ関係上、熱に対してある程度耐性がある。
火傷は決して軽くはなかったが、彼の動きが鈍るほどのものではなかった。
「なるほど、耐性装備を揃えてきたのか……」
彼は手品を即座に見抜く。
アマンダが攻撃をされても止まらずに前に進んだのは、それができるという確信があったからこそ。
彼女が、そしてロンド達が身につけているあの装備は、魔法に対して強い耐性を持っていると考えた方がいいだろう。
「だがそれならそれでやりようはある」
魔法に関して耐性がある相手との戦うのは、当然ながら初めてではない。
「はああああっっ!!」
尚も愚直に近づこうとするアマンダを見ながら、アルブレヒトは床に唾を吐いた。
「君はやっぱり美しくないね……」
彼はそのままポケットに手を入れたかと思うと、一枚の銅貨を取り出した。
そしてその銅貨に雷を纏わせ、紫電のラインを自身とアマンダの間に発生させる。
「レールガン」
魔法に対する耐性がある相手と戦う場合の対処方法は、案外と単純だ。
魔法を使い、魔法以外の何かで攻撃をすればいい。
アルブレヒトの放つ雷魔法レールガンは、雷の加速によって対象物を高速で撃ち出す魔法だ。
これはコインによる物理攻撃であるため、耐性の有無を無視してダメージを与えることができる。
「あぐっ!?」
雷による電磁加速により飛来するコインが、熱されその形を変えながらアマンダへと襲いかかる。
コインが腹部に命中し、アマンダはそのまま遠くへと吹き飛ばされていく。
「ふっ、他愛な……」
「隙有りだぜ、アルブレヒト」
とんっと肩を叩く何者かの声。
後ろを振り返ればそこには、毒魔法を発動させているロンドの姿があった。
「『死に至る病』」
「炎のカーテンで視界を遮り……僕の意識の外に出たのかっ! サンダーリィンフォース!」
「ポイズンアクセラレーション!」
アルブレヒトがカウンターで放った一撃に、ロンドもまた新たに身につけた力で対抗する。
そして己の系統外魔法を身に纏う二人の拳が激突する。
彼らの戦いは更にその激しさを増していく――。




