来客
以前アルブレヒトと直接干戈を交えたことで、彼の強さはよく理解している。
何せその強さを模倣する形で、ポイズンアクセラレーションまで使えるようにしたほどだ。
その強さに対してある種尊敬すらしているほどだ。
故にロンドは決して相手を侮らない。
無策のまま飛び込んで戦えば、間違いなく前回の二の舞になるだろう。
ロンドの見込みでは、今の自分達にできる万全を完璧に整え、それでようやく五分に持ち込めるかどうかだと思っている。
「まずはあの雷魔法に対して有効な防御手段を用意する必要がある。アマンダの魔法をしっかりと受け止めることができてたことからもわかるように、ラースドラゴンの魔法耐性は高い。これなら雷魔法を相手にしても、しっかりとした効果が見込めるはずだ」
「そういう意味ではラースドラゴンの討伐は、必要な金と素材を同時に稼ぐことができ、正しく一石二鳥だったわけだ」
こくりと頷くロンド。
彼らは現在、ラースドラゴンの素材を持ち込んだ防具屋から出てきたところだった。
現在モヘンの街には、ささやかながらお祭りムードが漂っている。
ロンド達は宿へと戻っている最中何人かから食材や料理をもらいながら、宿へと向かっていた。
「防具を仕立てために必要な期間は十日……俺はこの期間を、対アルブレヒトのための特訓に充てたいと思ってる」
「特訓、ですか?」
「ああ、今のままの俺達じゃ、アルブレヒトに各個撃破されて終わりだ。三人でしっかりと役割分担をしながら、上手いことアルブレヒトを相手に立ち回れる方法を探さなくちゃ」
アルブレヒトは雷による高速移動に、攻撃力の高い攻撃魔法とオールレンジで戦うことができる万能型だ。
対してロンド達は前衛1と後衛2という少々バランスの悪い構成になっている。
そして相手のことがわかっているのは、こちらだけではない。
もしアルブレヒトと再度の戦闘になった場合、彼は間違いなくこちらの弱点を突いてくる――つまりはアマンダを無視し、近接戦闘に弱いロンドとキュッテを狙ってくることになるだろう。
その場合ロンドとキュッテは、アマンダと上手いこと連携を取って距離を保ち続けるか、接近されても耐える必要がある。
ただピンチはチャンスでもある。
時間さえ稼ぐことができれば、アマンダが攻撃をするチャンスを作ることもできる。
故にロンド達はなんとかして時間を稼ぐ必要がある。
ロンドはアルブレヒトとの戦いを見越して、実は既にいくつもの対策を考えていた。
「今回の戦いの要は間違いなくキュッテになる。よろしく頼むぞ」
「――はいっ、任せてください!」
「ただアルブレヒトと戦う練習だけすればいいかは怪しいところだがな……」
アマンダの言葉はもっともで、ロンド達は現在マリーにアクセスする方法がない。
もし彼女を助けるために屋敷を向かう場合、彼らは侯爵家の私兵をも相手取る必要がある。
兵の質が低いことで有名とは言え、グリニッジ家は仮にも侯爵家だ。
彼らを倒してからアルブレヒトのところへ向かって、果たしてどれだけ余力が残っているか……正直怪しいところではある。
なんとか潜入して戦いを最小限にしたいところだが、ある程度の戦闘は避けられないだろう。
「せめて屋敷の中の見取り図でもわかればいいんだけどな……」
こうして色々と不安を抱えながらも特訓を重ねるロンド達。
けれど問題解決の糸口は、彼らが想像していなかったところからやってきた。
特訓を初めてから一週間ほどが経過したところで、ロンド達に来客がやってきたのだ。
彼らに会いに来たのは……憔悴した様子のグリニッジ侯爵家嫡子、ランディだった――。
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