光の理由
「思ってたよりも簡単に倒せたな……」
「簡単に倒せたのなら、素晴らしいことじゃないですか! それだけ私達が強くなれたってことなんですから!」
キュッテとアマンダと一緒に、無事ラースドラゴンを討伐することができたロンド。
けれど彼はどうにも腑に落ちていなかった。
以前背中に宿る龍が発光していたグレッグ・ベア。
あの魔物は正しく死力を尽くさなければ倒せない強敵だった。
だが今回のラースドラゴンは、簡単に倒すことのできない難敵だったとはいえ、対して苦戦することもなく倒すことに成功している。
(ついでに言うと今回は、あの熊を倒した時みたいな新しい力も手に入ってないわけだし)
ロンドはてっきり、ラースドラゴンを倒せば新しい力が手に入るとばかり思っていた。
だがことはどうやら、そう単純ではないらしい。
強さ的な話をするのなら、以前完敗を喫したアルブレヒトと戦った際には紋章は光らなかった。
この違いとは、一体なんなのだろうか?
意味がないようには思えない。
毒魔法という、自分を助けてくれた系統外魔法の紋章なのだ。
ロンドがこの戦いには自分にとってなんらかの意味があると考えるのが自然なことだった。
(もしかするとこのラースドラゴンの素材を使って装備を整えろ……ってことなのか?)
現状のロンド達の装備はお世辞にも優れたものとはいえない。
ロンドが着ているのは黒いローブ、そしてアマンダが着ているのは彼女が以前使っていたという革鎧、キュッテに至ってはエルフが身にまとっている伝統的な民族衣装だ。
三人が三人、防具らしい防具もつけていないので防御力は皆一様に低かった。
先ほど戦っていたからよくわかるが、ラースドラゴンの魔法防御力はかなり高い。
ポイズンドラゴンを食らってもその鱗は溶けたりすることなく残っているし、アマンダが何発魔法を入れても一向に効いている様子はなかった。
彼女が途中からは完全に物理攻撃に切り替えざるを得なかったほどに。
「このラースドラゴンの素材を使って防具を作るとどうなると思う?」
「ドラゴンの素材はその全てが金貨で取引される超がつく高級品だ。それはもうたいそうなものができるに決まって……なるほど、そういうわけか」
「どういうわけですか?」
一人で納得してうんうんと頷いているアマンダを見て不思議そうな顔をするキュッテ。
生徒にものを教える先生のように、アマンダが告げた。
「今回ラースドラゴンを討伐したのには、私達の装備を整えるという狙いもあったのだろうということだ。グリニッジ侯爵領の各地で暴れ回っていたこいつには、色々な紹介や貴人からも討伐依頼や追加報酬が追加されている。それを使えば加工費にもなるだろうし、追加で魔法石をはじめとした各種装備品を整えることもできるだろう。なるほど……ロンドはなかなかに視野が広いな」
「は、ははは……」
ただ龍の紋章の輝きだけで倒すか否かを判定していたロンドにできるのは、乾いた笑いを浮かべることだけなのだった……。
ちなみにそんな風に話し合いをしている間にも、ラースドラゴンの解体は進めている。
中でも買い取りが高くなる心筋や鱗、爪や牙を集めてリュックに詰めてから、一度下山することにした。
ラースドラゴンを討伐したことを報告するとモヘンの街は久しく聞こえてこなかった嬉しいニュースに湧き、素材の回収班がロンド達の代わりに残る素材を持ってきてくれることになった。
ロンド達は街中にその名を轟かせることになり、彼らは行く場所行く場所で歓待を受けた。 そしてその翌日。
大量に酒を飲まされたロンド達は二日酔いでグロッキーになりながらも、対アルブレヒト用の装備を整えるべく、武器・防具屋と魔法石屋へと向かうのだった――。
新作を書きました!
↓のリンクから読めますので、そちらもぜひ応援よろしくお願いします!




