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食客


「ロンド、とりあえず君の立場は食客だ」


 公爵の鶴の一声により、ロンドの屋敷での立場は決まった。

 食客、というのは要は客人待遇で住まわせてもらえる居候のようなものだ。

 賢人だったり武人だったり、もしくは気に入られただけの居候だったり……貴族はそういった人間達を、自家に囲ったりすることがある。


 そんな者達を貴族がわざわざ迎え入れる理由は、基本的には見栄である。

 なんの生産性もない人間を食べさせてやるなど馬鹿らしいと、アナスタジア公爵は今までごく一部の例外を除き誰一人として雇っては来なかった。


 ロンドは栄えあるというべきか、そんな公爵家でほとんど初めてとなる食客になった。

 マリーの解毒に貢献した回復魔法の使い手だから、というのが名目上の理由だ。

 これには色々と邪推をした人間もいたらしいが、公爵は全く気にしていない様子である。


「どうせ保護するのなら、わかりやすくした方がいい。こちらが堂々としていれば、エドゥアール辺境伯の方も手を出すことに尻込みするはずだ。マリーを助けてくれた君を無碍にすることはないから、基本的にはゆるりと好きに過ごしてくれればいい」


 ただやはり、公爵は娘には甘いが、それ以外の人間には厳しかった。

 自分を後ろ盾にすることは構わないが、一つだけ条件がある。

 公爵はそう続け、こう切り出した。


「マリー暗殺の絵図を描いた人間を、探し出して欲しい。それが食客としてどこにでも行けるようになった君の、第二の使命だ。まぁ、そっちの方はゆっくり進めてくれて構わないよ」







「と、言われてもねぇ……」


 頭の後ろで手を組み、窓の外を眺めながら、ロンドはプラプラと屋敷の中を探索している。

 ぶっちゃけた話、今のロンドには本当にすることがないのだ。


 毒魔法の練習は欠かさず続けている。

 だが人の目もあるので、できる練習は自室でできるものに限られていた。

 毒魔法の中には毒液そのものを魔法攻撃として相手に放つものもあるのだが、さすがに屋敷の中でそんなことができるはずもない。

 下手に目を付けられてしまえば公爵に迷惑が掛かってしまう以上、あまり派手なことができないのである。


「ふぁーあ、ねむねむ……」


 といっても今のロンドは、お小遣いももらえ一日三食と言わず何食だって食べられるし、風呂にも入れれば服だって与えられる。

 待遇としては、辺境伯家にいた頃とは比べものにならない。

 あまり欲が強くないロンドとしては、現状を維持するだけでも十分に幸せだった。


「こら、だらしないですよロンド」

「あ、マリー様。すみません、どうにも眠気には弱くて」


 使用人達から向けられる、なんでこいつが食客なんだという視線をひしひしと感じながら歩いていると、マリーに遭遇した。


 彼女が目を覚ましてから、既に一週間ほどが経過している。

 今のマリーは車椅子に乗って生活をしていた。

 毒で弱っていた期間が長いせいで、立って歩くようになるまでにはまだ時間がかかるそうだ。


 魔法で治せるのは傷や毒だけだ。

 長い時間をかけて衰えてしまった筋肉を。一瞬で元に戻せるような便利なものはない。

 案外魔法というものも、融通が利かないのである。


「でもやっぱり慣れないですね、取っ手が付いてるのに後ろに誰もいないなんて」

「魔法の練習ですよ、倒れていた分の遅れを取り戻さなくっちゃ」


 彼女が乗っているのは後ろにいる人が押してあげるタイプの、取っ手つきの車椅子だ。

 だがマリーは今、一人で屋敷の中を動き回っている。


 風魔法を使い、自分で車椅子を押しているのだ。

 細かな調整はまだ利かないらしいが、それをなんとかするのも修行と頑張っているらしい。 しかしロンドは、彼女が使用人をすぐ近くに置かない本当の理由を知っていた。


 ――マリーはまた、誰かに襲われることを恐れているのだ。


 なんでも彼女に毒刃を振るったのは、最も信頼していた侍女だったという。

 今の彼女は疑心暗鬼に陥っている。

 ふとした時に警戒するように辺りを見渡すのが、その証拠だった。


 理由を知れば、その笑みを見て少し痛々しいように見えてきてしまう。


 自分にできることはなんだろう。

 そう考えた結果、ロンドは使用人よりもフランクに、けれど友達よりも堅苦しいような塩梅で、自分の雇い主の令嬢に接させてもらっている。


「ロンドももっと魔法の練習をすべきです。あなたにも強くならなくてはいけない理由があるのでしょう?」

「それは……その通りですね。でも今はあんまり目立つわけにもいかないので、地味な練習を続けてます」

「それなら私が話をつけてあげます。一緒に人目を気にせず魔法の練習ができる、アナスタジア家の別荘にでも行きましょう」

「練習に別荘……随分スケールがおっきいですねぇ」


 マリーはロンドに対して、かなり好意的だった。

 心を許してくれる一番の理由は恐らく……自分を治してくれたロンドならば襲ってくることはないという安堵だ。


 誰が敵かもわからない中、手を尽くしてくれた父と、実際に自分を治したロンドだけは絶対に自分の味方だ。


 マリーは数少ない確実な味方として、ロンドのことを厚遇してくれているのである。

 ロンドとしても、自分にかけられた期待には応えたかった。


「俺、強くなりますよ。そして次は、姫様を守ってみせます」

「ふふっ、頼りにしてますよ、ロンド」


 こうしてロンドは、マリーと共に魔法の修行を行うことになった。

 ようやく、自分以外に毒をかけて練習ができる。

 ロンドの胸は、魔法練習とマリーと一緒の特訓という二つの期待から、大きく高鳴った。


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