vsラースドラゴン 1
ラースドラゴンの見た目は、茶褐色の鱗に包まれた大きな蜥蜴といった感じだ。
目は細く、人間で言う白目と黒目の部分が黒目と赤目になっている。
鱗にはてらてらとした光沢があり、びっちりと隙間なく身体を覆っていた。
ドラゴンの鱗は一枚で金貨に化けるというほどの高値がつく。
それだけ防御力があり、魔法に対する耐性も高いということだ。
「Ooooooooo!!」
ラースドラゴンが己のテリトリーを侵したロンド達を見て、大きく吼える。
ロンドは龍を前に竦むことなく、冷静に意識を集中させていく。
「遅れるなよ!」
「わかってる!」
接近するのは、ロンドとアマンダだ。
今回キュッテは遊撃に回る。
ロンドが右から、アマンダが左からという形でドラゴンへと近付いていく。
毒を相手に叩き込むためには、とにかく接近する必要がある。
それを見たラースドラゴンは威嚇のために一度大きく翼を広げてから、身体を起き上がらせた。
左右から迫られるドラゴンが選択したのは――旋回。
ドラゴンの巨体がぐるりと回転し、ロンド目掛けて鞭のようにしなる尻尾が襲いかかってくる。
そして同時に、アマンダに対しては伸ばした腕とその先端に着いている鉤爪による攻撃を仕掛けた。
「すうっっっ……」
「おおおおおおっっ!」
ロンドは転がりながら倒れ込み、とにかく身体の位置を下げることで攻撃を避ける。
アマンダを始めとする公爵家の騎士達に鍛えられたおかげで、ロンドの基礎的な運動能力は一般的な成人男性を遙かにしのぐ。
けれどそれでもギリギリなんとかかわせた、といった感じだった。
対しアマンダはギリギリまで敵の攻撃を引きつけてから、思い切りのけぞる形で回避をして見せる。
その態度には、心なしか余裕があるようにも見える。
(あっぶな……でも意識が完全にアマンダに向いてる。これはチャンスだな)
ラースドラゴンはアマンダの方が脅威になると判断したらしく、ロンドへの警戒は若干おざなりになっている。
これならばより接近しても問題ないだろう。
ロンドは更に接近し、危険を承知の上でラースドラゴンの足に触れる。
骨が張り出し赤黒い血管が浮き出した肉体に触れ、用意していた毒魔法を発動させる。
「龍毒、そして……死に至る病!」
ロンドがアルブレヒトと戦ってから感じていたのは、手数の少なさだ。
そのため彼は今回の道中、魔法の多重発動の練習を繰り返してきた。
ロンドの努力は、無事に実った。
モヘンの街にやってくるまでの道中に練習を繰り返したおかげで、今では右手と左手で別々の魔法を使うことができるようになるまでになっている。
ゼロ距離から放つ、強力魔法の二重掛け。
これを当てられた時点でロンドの役目のかなりの部分が終わったと言っていいだろう。
「Oooooo!?」
毒を受けたラースドラゴンが、苦悶と驚きの混じった声を上げる。
そしてその体色を、茶から赤へと変色させた。
ラースドラゴンの一番の特徴は、その怒り度合によって見た目や攻撃方法に変化が生じることだ。
ラースドラゴンは脇目も振らず、ロンドへ襲いかかろうとする。
片手間の尻尾の攻撃を避ける程度ならできるが、腰を据えられてしまえば攻撃を避けられない……はずだった。
当然ながらロンドが対アルブレヒトのためにしてきた訓練は二重発動だけではない。
「Gyaaaaoo!!」
「ポイズン……アクセラレーション!」
ラースドラゴンの爪撃が当たるかと思われたその時、ロンドの全身から毒の霧が噴き出す。
そして次の瞬間、ロンドの身体が高速で動き、攻撃はかすることなく空振りで終わるのだった――。




