咆哮
モヘンの街の冒険者ギルドは、かなり閑散としていた。
街を行き交う人の顔も暗く、往来の数も普段と比べると激減しているのだという。
ラースドラゴンによる流通の遮断は、思っていたよりも大きな影響を与えているようだった。
それを憂いた冒険者たちは既に何度か討伐作戦を実行していたが、それら全てに失敗。
現在騎士団が向かっているということだったが、やはり動きはかなり遅いようで、ロンド達がやってきた現在も討伐が行えるだけの人員が派遣されてはいなかった。
「やっぱり俺達でなんとかするしかないな」
「その通りだ」
「ですね」
何をするにも、ラースドラゴンを倒さなければ話にならない。
幸い、以前失敗に終わった討伐作戦の概要は、誰でも閲覧が可能な状態になっている。
ロンド達はそれを見てどうするか作戦会議をしながら、討伐への準備を着々と進めていくのだった。
「後にまだまだ大物が控えてるんだ。こんなところで足止めを食らうわけにはいかない」
大物が何を意味しているかを理解したアマンダが、表情を固くさせながら頷く。
こうしてロンド達は、ラースドラゴンが住処にしているという龍晶山へと向かうのだった――。
ドラゴンとは、果たして一体どのような存在か。
簡単に言えば、ドラゴンとは魔物の最強格の一つである。
その討伐ランクは成体であればAを超え、国を挙げて討伐を行わなければならないほどに甚大な被害を与えることも多い。
空を駆け魔法を放つグリフォンや、眷属を増やすことで数百数千という凶悪な配下達を増やすヴァンパイア。そういった魔物達には皆等しくAのランクを与えられる。
Aランクとは、これより上はないという実質上の天井でもある。
つまりロンド達が挑むのは、未だ幼体とはいえど、この世界に現存する魔物達の中でもピラミッドの頂点に位置している魔物なのである。
「Oooooooooo……」
山を登っていくほどに、天頂から聞こえてくる鳴き声は大きくなっていった。
耳をつんざくような、甲高い声はドラゴンが縄張りを示すための声ということだ。
ロンド達が山に入ったことに気付いたからだろうか、ラースドラゴンのガラスが擦れるような声はどこか苛立っているようにも聞こえた。
現在ラースドラゴンは龍晶山と呼ばれる山の頂上をその住処にしている。
モヘンからの街道を見下ろすことのできる見晴らしの良い場所に陣取り、荷物や人がやって来る度に襲いかかるのだという。
襲撃して得た人や物は餌として持っていくことも多いが、それよりただ楽しむために殺戮をするようなことの方が多いらしい。
その無惨なやられようを見れば、モヘンへ向かう足が鈍るのは当然のことだろう。
ロンド達は最終確認をしながら、龍晶山を上っていく。
当然ながら、ラースドラゴン以外にも魔物は出てくる。
けれど新たな力を手に入れたロンドの敵ではなかった。
山を登り続けていくと、木々や岩の遮蔽物が消えた。
そしてそこには――こちらを睥睨する、龍の姿がある。
ドクンと背中が震え、光り出す。
シャツを反射して、ロンドにも見えるほどだ。
再度小さく脈動する。
それがロンドには、己に宿る龍が歓喜に震えているように思えていた。
「Gruuuuuuuuu!!」
そしてロンドの魔力紋と相反するように、ラースドラゴンはこちらを憤怒の形相で見つめている。
まるでロンドの存在が許せないと言っているようで、他の二人には目もくれず、ロンドだけを睨んでいた。
「俺達の力がどこまで通じるか……試させてもらうぞ!」
ロンドはそのまま拳を振り抜き、アマンダが剣を抜く。
キュッテが自らの周囲の土を操りはじめ――戦闘が始まるのだった。




