挽回
「アマンダ、さん……」
アマンダは何も言わず、ロンドのすぐ隣に腰掛けた。
彼女は現在傷病休暇をもらっているため、その身に纏うのは鎧ではなく赤色のワンピースだった。
初めて見る私服は、思っていたよりもガーリーだった。
ロンドが見ていたアマンダは鎧か鎧下を身に纏っているのがほとんどだったので、なんだか新鮮だった。
「ふぅ……未だに傷が痛む。怪我は治っているのだがな……」
今回は魔法石による治療と並行し、ロンドも毒魔法で治癒を行った。
おかげで傷はかなり良くなったのだが、どうやら内側にはまだ違和感が残っているらしく、疼痛のようなものが残っているらしい。
ロンドの方は傷は癒えているのだが、どうやら微毒の周り方が二人の間では違うようだ。
もう少し回復の方も、研究しておくべきだったかもしれない。
今更ながらにそんなことを思う。
いや、それを言うなら自分がもっともっと強ければ――。
「お前もなかなか難儀な男だな」
「……どういう意味でしょう?」
「顔を見れば何を考えてるかなどお見通し、ということだ」
ぺたり、と手と頬をくっつける。
自分はそんなにわかりやすいだろうか。
だがそれを言うなら、アマンダも似たようなものだ。
何せ彼女だって、いつもと比べればその顔に明らかに陰が差しているのだから。
「負けました……」
「ああ、負けたな。完膚なきまでに」
「マリー様を……守れませんでした……」
「ああ、我々は務めを果たすことに失敗した」
「――どうして、そんな冷静でいられるんですかっ!?」
今頃マリーがどんな目に遭っているか。攫われた後の彼女の心境はいかほどか。
それを考えるだけで、ロンドの胸はきゅうっと締め付けられる。
半ば自棄になりながらアマンダに怒鳴るロンド。
隣を向いた彼は、アマンダが俯いていることに気付いた。
ぶるぶると身体を震わせている彼女を見て、当然のことを思い知る。
アマンダだって、マリーを誘拐されたことに思うところがある、ということに。
「私は冷静でなくてはならないのだ。自らを律しなければ……私は今すぐにでもこの屋敷を飛び出してしまうだろう。ロンド、激情に任せて叫ぶのは簡単なことだ。けれど怒るだけでは事態はなんら好転しない。今必要なのはどうすればマリー様を助けることができるのか……違うか?」
「……いえ、その通りだと思います。すみません、あたってしまって」
「構わんさ。お前の怒りは痛いほどによくわかるからな」
アマンダの言う通りだ。
過去のことを思い出してくよくよしていても、何も変わらない。
現況を変えるためには、まず一歩を踏み出さなくてはならないのだ。
(アルブレヒトを倒す。そしてマリーを助ける)
そのために必要なこと。
それは他でもない、アルブレヒト自身が言っていたことだ。
『素材はいいけど……研ぎ出しが足りていない』
己の刃を――毒魔法を更に磨く。
まだまだこの程度では、彼に自分の力が通用しない。
何度も何度も己を研磨して、そして――。
(守るんだ、マリーを)
ロンドは立ち上がる。
そして既に姿勢を正しているアマンダと頷き合った。
ここからは――挽回の時間だ。
護衛をする必要がなくなり身軽になったロンドは、アマンダと共に、戦いへ没頭していく――。